陸自の演習場整備(4)

先週は演習場整備における隊員たちの「住」部分を中心にご紹介しました。今週もその話の続きからです。

宿営地エリアで唯一新しい建物が炊事場です。
これは数年前、ついに屋根が崩落したことで新たに建てられました(崩落しなければ未だ古い炊事場が使われていたことは間違いありません)。
今回の整備期間中は、3即機と2偵からなる15名が炊事班として昼と夜の1日2回(朝はパン食)、1食につき約500食を野外炊具で調理します。こちらの装備品は災害派遣でも活躍している野外炊具1号で、被災者に温かい食事を提供しています。
炊事班の担当になった隊員は演習場の整備には関わらず、炊事だけに専念します。今回は朝食の調理はありませんでしたが、3食用意する場合は深夜の2時、3時起きで用意します。
できあがった食事は部隊ごとのクーラーボックスに入れておくと、食事の時間に各部隊がピックアップしていきます。昼食は整備作業をしている場所で、夕食は宿営地で取ります。

宿営地に隣接した駐車場には車両が種類別に駐車されており、洗車できるスペースもあります。演習場内を走行してタイヤに泥がついた状態で公道を走行すると道路を汚してしまうため、自衛隊の車両はまめに洗車をします。はたから見ていてむしろ「そこまでしなくても」と思うほど、汚れた車両で公道を走ることを回避します。
演習場での訓練を終えた戦車や装甲車などが駐屯地へ戻る際にまったく汚れていないのは、公道に出る前に洗車しているからです(演習場内を走行すればするほど車両は泥まみれになります)。これも国民にほとんど知られていない一面でしょう。この取材時、私も高機動車に乗車させてもらう機会がありましたが、猿払村内をわずかな時間走る場合でも洗車する様子を目の当たりにしました。

3即機連隊長の藤田明大1佐は演習場整備にあたり、隊員へ「なんのために演習場を整備するのか。それは演習場がわれわれの道場だからだ。道場を整備し、より訓練に使いやすい環境にするためである。加えて、演習場整備はしっかり部隊行動を取れるいい機会でもあるので、部隊行動の練度を上げる場でもあると意識して欲しい。また、演習場が整備されていることは部隊が健在していることを示すことにもなり、抑止力にもつながるものである」、「2023年は猿払村開村100周年。ここに鬼志別演習場を構え、半世紀以上にわたり利用させていただいていることに感謝の気持ちをもって整備をしていこう」と話しました。

ここで「道場」という言葉が出てくるとおり、陸上自衛隊では演習場を道場としてとらえており、よりよい訓練ができるようにするために自らの手で道場を整えるのは当然のことだと考えます。
整備で円匙をうまく使ったり土のうを作ったりすることは、築城技術の向上にもつながります。また、命令、指示によって部隊を動かすという観点から、中隊長等の指揮能力を養う場でもあり、部下と寝食を共にする時間も長いことから隊員たちの心情把握もしやすい環境です。

(つづく)