自衛官候補生による射撃場での死傷事件(1)

2023年6月14日、陸上自衛隊日野基本射撃場(岐阜市)で18歳の自衛官候補生が隊員3名に向けて89式小銃を発砲、第35普通科連隊所属の菊松安親1曹と八代航佑3曹が死亡、原悠介3曹が左大腿部に3カ月の重傷を負いました(階級は事件当日時。以下同)。
自衛隊員に故意による発砲で死傷者が出たのは、1984年、山口駐屯地で射撃訓練中に起きた銃乱射事件以来のことです。ここでは6月末までに判明している事実に基づき、事件を追ってみます。

事件が起きた日野基本射撃場はもともと野外射撃場でしたが、周辺の宅地化が進んだため屋内射撃場化されました。
敷地面積は約6万7000平方メートル。全長340m、全幅30m、軒高約4m。内部に長さ300mの射道があり、10名が同時に訓練できます。
1907(明治40)年に旧陸軍歩兵第68連隊の射撃場として開設され、戦後に米軍の接収などを経て、1960年から陸上自衛隊が使用。周辺への影響低減などのため覆道化を行ない、2015年に屋内射撃場が完成しました。

実弾射撃訓練に参加したのは、今年4月に名古屋市の守山駐屯地に所在する第35普通科連隊に入隊した自衛官候補生およそ70名です。また、指導にあたる自衛官もおよそ50名も参加しました。

自衛官候補生とは、民間企業でいえば契約社員の立場に近く、任期制隊員です。採用試験を経て4月に入隊、6月下旬までの約3カ月にわたる訓練中は自衛官ではなく、有事対応はありません。終了後は自衛官に任官、「2士」に任用されます。
任期は陸自が1年9カ月(海自と空自は2年9カ月)。任期満了で退職、あるいは任期を更新して続ける者もいれば、昇任試験に合格して非任期の「曹」に上がる者もいます。

第35普通科連隊は愛知県名古屋市守山区の守山駐屯地に駐屯する中部方面隊第10師団隷下の部隊であり、10師団の旗本普通科連隊でもあります。
日本列島本州の中央部、知多半島を含む濃尾平野から飛騨山脈にかけての木曽3川を抱く愛知県西部と岐阜県全体、44市30町3村の合計77市町村を隊区とし、名古屋市と岐阜市を連隊直轄とし、第3中隊・重迫撃砲中隊が愛知県を、第1・第2・第4中隊が岐阜県を担任しています。訓練はおもに饗庭野演習場で実施しています。

4月8日、35連隊では令和5年度自衛官候補生課程入隊式を実施。
連隊長の松下竜朗1佐は「使命を自覚せよ」、「同期と団結せよ」の2点を要望し、「初心を忘れることなく、日々の教育訓練に打ち込み、自衛官候補生課程を立派に修了してくれることを切に願っている」と式辞を述べました。そしてその後、教育隊長より89式5.56mm小銃の貸与、区隊旗の授与などが行なわれました。

以来、自衛官候補生たちは、基本教練や10キロ行進訓練、戦闘訓練、ガス体験、そして射撃訓練などを重ねてきました。
射撃訓練は教育期間中に全5回あり、うち1回は空包射撃。事件当日は最後の射撃訓練、そして4回目の実射訓練の日で、最後の射撃訓練という位置づけで実技試験に当たる「検定」が予定されていました。
あと半月もすれば前期教育の修了式が行なわれ、正式に自衛官として採用されて自身の職種に応じた部隊に配属される、そういう時期に事件が起きました。

(つづく)