第2師団冬季戦技競技会(5)
第3即応機動連隊の川東2尉によると、スタート時はアキオを引く人員の邪魔にならないよう、走力の速い隊員を先頭に置くケースが多いそうです。また、コースによっては滑るレーン、滑りが悪いレーンがあるため、先頭はコース取りできる力のある隊員も選ばれるそうで、いずれにしても先頭は実力者でしょう。
アキオは4人引き、5人引きと部隊によって曳行する人数が異なりますが、これも部隊の作戦によります。たとえば3即機は4人引きを基準とし、状況によっては3人、あるいは2人でも曳行したといいます。さらにポイントとなるところでは個人で滑走している人員がストックでアキオ自体を後ろから押し、アキオを曳行している隊員の肩にかかる負担を軽減する方法も実施しました。アキオを引くといっても色々な方法があるのですね。
射撃は至近距離射撃、長射程射撃の順に実施し、隊員は各2発ずつ射撃します。
立射で至近距離射撃を行なう際は小銃をストックで固定することが認められており、雪を知り、雪に慣れている部隊ならではのスタイルです。
コースの約4分の1を全力で滑ってきて肩で息をしている状態での射撃ですが、この方法で命中率が確実に向上するそうです。時間短縮のためスキーをはいたまま射撃するのも、スキーに慣れていなければたやすいことではありません。この技術を隊員たちが当たり前のように修得できていることは、積雪寒冷地所在の部隊ゆえの強みではないでしょうか。
ちなみに射撃が命中したか一目でわかるよう、的には青い風船が付けられていたので、射撃が終わるごとに割れた風船を付け替えます。それは競技会を支援する隊員たちが行なうのですが、一面の雪のなか、比較的年配の隊員が両手にたくさんの青い風船を持って小走りで的に向かう様子がシュールで……。待機時間も長く寒さが凍みる作業をしている相手に大変失礼ながら、「風船おじさん…」と笑ってしまったのでした。
話を戻して、Aグループは各連隊から2コ小隊、計8コ小隊が出走しましたが、タイムと射撃を合わせた点数で単純に成績が決まるわけではありません。順位の上位4チーム、下位4チームに分けてそれぞれに1~4位の順位をつけるので、5~8位の中でも熾烈な争いが繰り広げられるのです。
つまり「うちはあまり早くないから勝利に貢献できない」となる小隊は存在しないことになります。これは素晴らしい採点方法ですね。必然的にどの隊員もこれ以上ないほど必死に滑走するので、ゴール地点には汗まみれ洟まみれ(両手はストックでふさがっているので流れるがままなのです)、全身から湯気が立ち昇らんばかりの状態で飛び込んできます。しかもゴール直前には最後の上り坂があり、まさに隊員たちは最後の力を振り絞って上ってきます。参加した隊員によると、コースの左右から降り注ぐ応援の声には心底励まされるそうです。
競技の結果、部隊機動(射撃+機動)、個人機動の総得点がいちばん高かった3即機が総合優勝を飾りました。名寄駐屯地所在の第2偵察隊もCグループで優勝したので、名寄の完全優勝です。
スキーの機動能力は各連隊とも互角と考え、激動後の射撃でいかに命中精度を上げるか、さらに射撃前後の動作をいかに短時間で行なうかに重点を置いて練成したことが勝因のひとつだということでした。