日本周辺国の軍事力状況(3)
韓国の軍事力についての続きです。
ただし韓国海軍の兵士の士気は高いです。といっても私がもっとも親しく付き合いがあったのは将官や佐官以上のクラスなので多少主観的になるかもしれませんが、彼らは非常に優秀でしっかりしていました。それなのに韓国国民には陸軍ほど受け入れられていないので、「なんか疎外されている。尊敬されてない気がする」とぼやいていました。
日本では「韓国の軍艦は日本と戦うために製造している」という論調が目立ちますが、予算要求上、韓国海軍は、北朝鮮シナリオでは艦艇などの予算が計上できないのだと思います。「日本の海上自衛隊が持っている」というと予算が通るそうで、私は実際に韓国海軍士官から「ありがとう」と何度もお礼を言われたことがあります(笑)。
また、北朝鮮を脅威と思っていない風潮が韓国国民にはありますが、韓国軍は違います。世論も保守系は「日韓GSOMIAが破棄されなくてよかった」とはっきり言っています。日本に対する根深い「恨」の感情は相変わらずですが、北朝鮮をここまで軽く見る大統領は間違っているとの声は高まっているのです。韓国軍にとっての敵は、自衛隊ではなく北朝鮮軍です。
さて、2013年の北朝鮮による3回目の核実験は、当時の日米韓三カ国の軍の情報組織にとって大きなインパクトがありました。これで北朝鮮が弾頭1トン以上の核兵器を保有できると認識し、次の朝鮮戦争は「核戦争下で行なわれる」という情勢判断に変わりました。
その結果、これまでの米韓合同軍が保有している作戦計画では対応しきれないとして、当時のオバマ大統領と朴槿恵大統領が2015年に策定したのが「作戦計画5015」です。
従来の作戦計画は、北朝鮮による韓国侵攻を一旦韓国で受け止め、その後反撃するというものでした。しかし5015では、北朝鮮による核兵器や弾道ミサイルによる軍事攻撃など、韓国に対する武力行使の兆候が確認された場合、30分以内に北朝鮮の核・ミサイル関連基地など700カ所以上を一斉に空襲するという先制攻撃と斬首作戦が加味されたと言われています。
ちなみに斬首作戦は金正恩を暗殺することとよく報じられますが、これは間違った解釈です。「斬首」とは首を胴体から切り落とすことで、本来の5015の意味は「核ミサイルの発射ボタンを持つ金正恩(首)と現場部隊(胴体)との指揮系統を断ち切る」ということです。最初の30分で電波妨害なども含め、核ミサイル発射の命令が現場部隊にいかないようにしつつ、同時に事前情報に基づく関係部隊700カ所を一斉に空襲するので、図上演習をするといつも5日で終わってしまうと韓国軍高官のOBは言っていました。
仮にソウルに撃ち込まれて火の海になっても地下に潜るから平気だと、韓国の外務省の元高官は言っていました。青瓦台も作戦司令部も全部地下で作戦指揮できるそうです。
こうなると在韓米軍にとっては、開戦当初に実施する空爆こそがメインミッションということになります。そしてそのためだけに存在するのなら、韓国本土にアメリカ兵が常駐する必要はなく、日本まで引き上げたいというのがアメリカの本音です。韓国の陸軍兵力は強大ですから、「空爆後の陸戦は、南北の陸軍同士でやってくれ。そこにアメリカ兵を巻き込むな」と。
僕がアメリカにいた2001年、当時のラムズフェルド国防長官がやろうとした軍改革がまさにそれでした。在韓米軍司令官を在日米軍司令官に兼任させ、安全な日本から指揮をとる。韓国軍の作戦指揮システムはアメリカのものだから、韓国軍はコントロール下にありそれで十分というわけです。そうすれば韓国にTHAADを配備する必要もありません。
システムで縛って韓国軍を支配下に置き、自国の兵力は引くが米韓同盟関係自体は変わらない。これがアメリカの望む本音なのだと思います。
(つづく)