日本に足りないシステム&法整備(4)
「日本×統一朝鮮というシナリオ 第7回」の最後で「海上から日本に接近させないようにするため日本に必要なこととしては、MDA(海洋状況把握)の機能をもっと向上させること」と、MDA(Maritime Domain Awareness)について少し触れました。
MDAとは海洋に関連する多様な情報を集約・共有することで、海洋の状況を効果的かつ効率的に把握しようというものです。
安倍総理の強い意向もあり、このMDAを海洋基本法の中で正式に取り上げ、日本周辺の海洋における船舶の警戒監視に役立てようという話になりました。その際の会議には私も呼ばれたのですが、そこで取り上げられているMDAは名ばかりのもので、実態にはまるで役立たない議論になったことに驚きました。
平和な国だからでしょうか、自衛隊や海上保安庁の「取り締まる」という概念よりも「資源が」「産業が」という概念の方が中心とされ、議論がそちらばかりに偏っていたのです。
安倍総理の指示されたのはそこでありません。「しっかりとMDAを把握する体制を作り、怪しい船舶の取り締まりに活用することじゃないのか」と発言しても、「この場で議論する話ではない」と却下されてしまう始末。さらに説明する役人も「海保に状況表示システムを作ったので、取り締まりはそれで対応できます」と言う。対応できないから発言しているのに、議論自体を進めようとしませんでした。
今の日本の周辺の海洋把握の現状はお寒いばかりです。まず朝鮮半島から日本に流れ着く木造船の動きは、一切把握できていません。本来ならば日本領海から離れた場所に存在している段階で、日本になにが向かっているのかを把握する必要があるのです。ちなみにアメリカは9・11の後、海洋から米本土に侵入しようとする漁船等を含めた船舶すべてを監視するため、省庁横断のシステムと専門の役所を設立しました。それまでは米海軍がその役割を担っていたのですが、海洋安全保障全体としての重要性を実感したからでしょう。
500トン以上の船舶にはAIS(自動船舶識別装置)の搭載が義務付けられており、常に電源をオンにしておくことで居場所がわかるようになっています。当然、日本近海にどんな船がいるかもわかりますが、悪いことをする船はこのAISを止めています。レーダー画面上には船がいる表示があるにも関わらず船舶情報を発信していない、つまりAISの電源を入れない不審な船がいるということがわかるので、その船を航空機などで監視に行きます。
先の役人の説明では、この一連の流れをすべて海保だけでやれと言っているのです。レーダーに映っているものと関税局などの機関から来た情報を照会する作業だけでも膨大な量なのに、航空機の運用も含め、総人員約1万3000人の海保だけでできるわけがありません。アメリカのように、海洋状況を把握する専門の機関を内閣府の下に作らないと無理だと主張しても反応は鈍く、MDAが絵に描いた餅になっているのが現状です。
これが海洋国家である今の日本の実態です。
(つづく)