対馬の3自衛隊(9)
対馬には陸海空3自衛隊がそろっているという表現は、正確には正しくありません。レーダーサイトである航空自衛隊第19警戒隊の所在する海栗島(うにしま)分屯基地は全周約3キロ、対馬から船で約5分という離島の離島、いわゆる二重離島です。
一般の人の立ち入りは禁止されているため、海栗島に暮らしているのは営内居住の自衛官のみ。自衛官しか暮らしていない、日本で唯一の島です。残りの隊員は1日6便(夏季は7便の日もあります)往復している船を利用して、勤務先である海栗島に向かいます。
渡船場は韓国展望台の真下に位置する鰐浦漁港そばにあり、官舎とこの漁港は部隊のマイクロバスが往復していますが、運動を兼ねて片道40分の道のりを歩く隊員もいます。マイクロより早くに到着し、凪いだ海を眺めながら自分だけの時間を過ごしている姿を見ていると、とても贅沢な時間がうらやましくなります。
船は民間の業者と契約しており船長は現在4代目。必要があれば3代目も乗り込むそうで、定員96名の「あかつき」と85名の「かいせい」の2隻を保有しています。マイクロが到着すると、デジタル迷彩服姿の隊員たちが次々と下りてきて船に乗り込んでいきます。
最後に司令専用の車両でやってくるのが第19警戒隊長兼ねて分屯基地司令で、全員が敬礼で迎え(民間の船長も姿勢を正して迎えます)、司令が乗り込んだら出航となります。このとき、7時45分。限られた本数しかない船での通勤は遅刻できないプレッシャーも大きそうですね。ちなみに各隊員が船のどこに座るか、あるいは立つかはほぼ固定なのだそう。航空自衛官だけを乗せた船が海栗島に向かう様子は、ここならではの通勤風景といえるでしょう。
釜山まで約50キロという距離だけあり、海栗島までくるとラジオも韓国の番組のほうがよりクリアに聞こえるし、携帯電話も設定によっては韓国のローミングに切り替わってしまいます(私の携帯も自動で切り替わりそうになりあわてました)。朝鮮半島がこれほど近い場所にあることを、電波でも実感させられます。
海栗島は1903年に陸軍省が無線基地を設置、1935年に砲台が竣工し、終戦まで軍事基地となりました。戦後は民間に払い下げられ農地として使われていましたが、1950年に米空軍の防空監視部隊が海栗島に展開。1956年、空自部隊が海栗島に分屯基地を創設、1959年に米空軍から業務移管し、空自第19警戒中隊による全面運用が開始されました。1961年に第19警戒群、2003年に第19警戒隊へと改編され、2016年には分屯基地創設60周年を迎えました。
航空自衛隊の主なレーダーサイトは全国に28ありますが、そのうち最新のJ/FPS-7は、空自レーダーサイトのうち海栗島分屯基地を含む6分屯基地にのみ配備されている最新のアクティブフェーズドアレイレーダーであることからも、国境警備の重要性が読み取れます。
第19警戒隊はこのレーダーを使用して、24時間365日、対領空侵犯措置やBMD等の対処にかかる警戒監視を実施しています。また、騒音を心配しないでいい立地のため、ヘリポートは夜間発着訓練にも利用されています。
(つづく)