対馬の3自衛隊(8)
下対馬警備所で出迎えてくれたのは所長らと警備犬。話を聞いた場所よりもさらにワゴ湾に突き出した岬にある施設が、実際に監視業務を行なっているところと思われます。
警備所を囲む柵に掲げられている「進入禁止」の文字はハングル。一般道から下対馬警備所へ向かう狭い1本道を、時折「この先に何かあるのかな」と、レンタカーやレンタバイクに乗った韓国人観光客が興味本位で来てしまうことがあるそうです。道路の終わる突き当たりになにやらものものしい雰囲気の施設があるのだから、観光客たちもさぞや驚くことでしょう。実際、隊員が「どうしました?」と声をかけると、あわててUターンしていくとか。
勤務している隊員について話を聞いたところ、約半数は営内、半数は車で約20分弱のところにある官舎暮らし。昔は家族帯同が多かったそうですが、現在は通信手段が発達したせいもあって妻帯者のほとんどは単身赴任。そのため、地域の人と家族づきあいする機会も減ってしまったというのは残念な話です。
下対馬警備所に向かう道中も進むほど対向車と出合わなくなっていきましたが、上対馬警備所はさらにその上をいく秘境でした。なにしろ上対馬警備所長自ら大浦湾に面した駐車場まで出迎えに来てくれ、取材陣はそこにレンタカーを置いて警備所の車両に乗り換え出発。途中からは一般の立ち入りが禁止されている防衛省専用道路となっていました。
道路は最後まで舗装されていたもののカーブが多い急こう配。山深い場所ながらガードレールも照明もなくすれ違い不可、道路のすぐ横にはイノシシの罠がしかけられています。「隊員はこの道を毎日通勤しているのか」とうろたえるほど、ほとんど獣道です。
上対馬警備所長は「ガードレールなしの道は最初こそ怖いですが、どんどん慣れます。荒天でなければ自転車通勤している隊員もいますから」と当たり前のように話してから「ただ暴風があると土砂が流れてきたり枝木が落ちていたりで危ないので、隊員で除去します」。さらりと教えてくれる情報が怖い、しかも道路わきにお地蔵さんが鎮座しているのが見えます。通勤そのものがサバイバル、トレーニングのようです。
下対馬警備所同様、道路の突き当たりが上対馬警備所となります。入口は道路に面した1カ所のみ、入門の資格を持つ隊員以外は入ることが許されない「秘の塊」の地です。
門は固く閉ざされています。対馬防備隊の隊員ですら敷地内への立ち入りは制限があるほどで、朝鮮半島にもっとも近い警備所としての任務の重大さがうかがえます。
「佐世保から単身赴任で来ている隊員も多いので、2カ月に1度程度は連休を取れるようにして家族とゆっくり過ごせる時間を作るようにする、それがこのような僻地に勤務する隊員のモチベーションの維持につながっています。すべての隊員の顔と名前が一致するアットホームな部分は、小さな規模の部隊ならではのよさだと思います。一方、部隊のサイズに関わらず総務的な業務は同じなので、隊員の数が少ない分、大変なところはあるかもしれません」と、所長。総務係長と共にこの上対馬警備所が最後の勤務地であり、今秋(取材時)定年退職の予定だということでした。
(つづく)