対馬の3自衛隊(6)

今週からは対馬の海上自衛隊の部隊をご紹介します。

連載の最初にお伝えしたとおり、対馬はその地理的位置から、古来より大陸および半島との交流の結節点であると同時に、その脅威にさらされる戦略的な用地でした。現在の対馬海峡も変わらず日本海と東シナ海を結ぶ海上交通の要衝であり、毎日多くの商船等が航行しています。
対馬海峡に面した朝鮮半島の南岸には、韓国海軍の司令部のある鎮海や大規模港湾の釜山もあります。そのため、対馬海峡は軍艦を含む韓国船舶の住来も盛んではありますが、その立地上、口シア、中国の軍用艦艇を含む船舶が通航することも珍しくありません。

海上自衛隊対馬防備隊は、これらの軍用艦艇、商船等の動向を、海上保安庁とも情報共有しながら日々監視していています。
任務は対馬・壱岐の沿岸水域、港湾及び水路の安全確保に関する情報業務であり、監視業務従事者は24時間交替の勤務で、切れ間のない監視を実施しています。

部隊は各警備所の指揮、後方支援(人事、給与、補給、施設等)を担う本部と対馬海峡北側の監視を行なう上対馬警備所、対馬海峡東西水道南側の監視をなう下対馬警備所、対馬海峡東水道南側の監視を行なう壱岐警備所からなりますが、部隊編成や任務等の概要以外は非公開であり、どの隊員に業務内容を聞いても「警戒監視をしています」「経理担当です」「補給の仕事です」といった、きわめてざっくりとした回答しか返ってきません。
今回の取材では壱岐警備所を除く3カ所を訪れたのですが、敷地内をおおよそ見学できたのは本部のみ、下対馬警備所は営門からすぐの場所にある厚生館まで、上対馬警備所に至っては、なんと敷地内に立ち入ることさえ叶いませんでした。
入室禁止の建物や部屋はこれまで何度もありましたが、敷地自体に足を踏み入れることができないというのは自衛隊取材で初めての経験です。これは対馬防備隊を取材するメディアがほとんどないのも無理はありません。はるばる訪れても「言えません」「見せられません」「撮れません」「入れません」では、記事にも番組にもならないですよね。
ただ、ここまで秘匿が徹底しているということは、それだけ対馬防備隊の担う任務が重要だという何よりもの証とも言えるわけです。

当然ながら、どのような装備品でどのように警戒監視しているのかも一切公にされていません。おそらく海上は高性能な望遠鏡やレーダー、海中はSOSUS(音響監視システム)などにより監視業務や情報収集を実施していることが予想されますが、これも公式に発表されたわけではありません。対馬防備隊司令の福澤光恭1佐(当時)も「佐世保地方総監部勤務経験があったので対馬防備隊の存在は知っていたが、当時は細部について知り得る立場になかったので、詳細については全く知らなかった」と言っていましたし、各警備所の立ち入りは隊員ですら厳しい制限があります。
なお、本部にある桟橋は水深が浅いため大型艦艇は利用できませんが、小型艦艇(掃海艇、ミサイル艇等)の前進補給拠点として、上対馬の比田勝港網代地区岸壁と下対馬の厳原港久田岸壁において燃料や真水の搭載支援も実施しています。
また、対馬防備隊所有の小型船舶は、土砂崩れなどで道路が遮断された場合などに利用されています(島内は1本道なので陸路のアクセスが難しくなるのです)。この船舶を災害派遣等で対馬の人々の役にも立てられればと、道路が使えない場合の急患輸送に利用できないか、対馬病院と意見交換を始めたところです。

(つづく)