対馬の3自衛隊(5)

2025年3月3日

対馬警備隊の隊員で対馬出身者は全体の1割強といったところで、3
~4割が九州出身、残り半数は全国各地から集まっています。対馬警
備隊隊長兼ねて対馬駐屯地司令の鏡森直樹1佐はこう言います。
「手を挙げてやって来てくれる隊員は『国境の最前線の部隊で働き
たい』と、高い使命感を持ってくれています。ただ、陸上自衛官の
中でも対馬の知名度は決して高いとは言えないところに歯がゆさを
感じています。南西諸島ばかり注目されがちですが、対馬の重要性
を今まで以上に国民にも隊員にもアピールしていきたいと考えてい
ます」

確かに、同じ九州の水陸機動団や、沖縄県の離島にこの10年間に新
設された駐屯地などは注目度が高く(その分反発する団体もいて音
楽隊の活動までターゲットになったりするわけですが……)、メデ
ィアに取り上げられる機会も多いので国民が知る機会が多いのはも
ちろんのこと、同じ陸自隊員に対しても周知されます。隊員は勤務
したい場所の希望を出すことができますが(必ずしも叶うとは限り
ませんが考慮はされます)、まったく知らない場所を希望すること
はないでしょう。そういう面でも、対馬駐屯地は恵まれていないの
です。

続いて、普通科中隊の1分隊による廃校を利用した市街地戦闘訓練の
様子を取材しました。
今回の訓練で利用するのは校舎2階の一部。想定は「警察情報等によ
り学校跡地の中に敵数名が侵入。2個小隊の進入前にわれわれが小隊
の先頭となり東側階段から廊下へ進入、音楽室、準備室、技術室、
普通教室の順で索敵・掃討を実施」。
まずは隣に建つ体育館で命令下達、さらにジオラマを使って一連の
流れを確認、隊員たちの認識を一致させます。
隊員たちは番号で呼ばれ、「1番前方警戒、2番分隊長、3番・4番即
応警戒、5番副分隊長後方警戒」など、それぞれの役割を伝達されま
した。
さらに「行動についてはステルスエントリー、敵と接触については
ダイナミックエントリー。状況により閃光手榴弾及び催涙球等活用
し敵を一層する」と指示。なお、ステルスエントリーとダイナミッ
クエントリーの違いはいわば「静」と「動」。敵と接触するまでは
忍びのごとく足音すら立てず、音楽室にこもっていた敵と遭遇した
瞬間から一気に「動」へと変貌しました。
敵を見つけて制圧する隊員、その際に前方あるいは後方を警戒する
隊員など各自が自身の役割を果たしているので、行動がかぶること
もなく、ましてや何もしていない隊員がいることもありません。無
駄のない動きは一朝一夕にできるものではなく、日々訓練を重ねて
きた賜物です。

分隊の一員として訓練に参加した中村1曹(現曹長)は北海道の根室
出身。
「北方領土やロシア国境に近いところで育ったので、国境の最前線
の部隊でと思い対馬を希望しました。家族は北海道にいるので単身
赴任です。対馬はもう3年いるのですっかり慣れて、北海道同様、豊
かな自然が気に入っています」
対馬警備隊普通科中隊長である結城1尉の前任地は奄美警備隊。離島
から離島への異動、しかもいずれも家族帯同だそうです。聞けば
「小学生ふたりと1歳の3人の子育てには島の豊かな自然と環境が最
適だと妻も賛成してくれ、家族で島の暮らしを楽しんでいます」。
「対馬警備隊普通科中隊の戦力は充実しており、最新装備も比較的
優先的に配当されていると感じます。それが我々に対する期待の表
れだと実感し、日々努力しています。対馬の特性としては、島民の
みなさまのご理解を得ているおかげで日頃から生地訓練が行なえる
ことは対馬のよい面ですが、周囲が海に囲まれた島、かつ島内に急
峻な山地が多く存在するため、移動する経路に制限を受けることが
多いです。国境に近い部隊ですから、いついかなる状況が生起して
もおかしくありません。隊員たちには日頃から物と心の準備をしっ
かりしておくよう指導しつつ、それに合わせた訓練を継続的に実施
しています」

(つづく)