対馬の3自衛隊(1)
今週から、昨年取材に行った対馬の陸海空自衛隊についてご紹介します。
しょっぱなから少々本題とずれてしまい恐縮ですが、まずは個人的な話をさせてください。
自衛隊の取材をしている人なら、たいてい誰もが「いつかここはかならず行きたい」と思う駐屯地や基地、あるいは場所があるものです。私にとって対馬はそういう場所のひとつでした。
しかしながら、「行くなら陸海空すべての自衛隊を取材したい」を実現するのは非常に調整が困難で、かといって「今回は陸、次は海、そして空」などそのつど対馬を訪れるのは、フリーランスにとってコストの負担が大きすぎ非現実的です。
「いつか」と思い続けて何年も経ち、昨年ついにその機会を得ることができました。きっかけは旧知の自衛官が対馬の司令に着任したことです。「取材に行きたい」と相談したところ、あっという間にほかの司令にも話を通してくれたおかげで、各幕への取材申請がスムーズに進みました。もちろん3自衛隊を一気に取材するということでなかなか面倒な調整もあったのですが、取材時期のタイミングがよかった幸運にも恵まれ、ついに叶ったのです。
対馬は想像していたよりもはるかに起伏の激しい平地が少ない島で、島ならではのインフラの不自由さが印象的でした。そしてあらゆる場所で遭遇する韓国人。釜山からフェリーで気軽に訪れることができる場所なので、町の中心部にはハングルがあふれていました。一方、表立っては言わないものの「韓国人お断り」を貫いている飲食店もあるなど(空席があっても「予約で満席」と、やんわり断るそうです)、現地に行かなければわからないことでした。観光に頼らざるをえない島の経済と、それを受け入れにくい心情で揺れ動く対馬の苦悩を垣間見ました。
そして! 魚のおいしいことと言ったら!! 刺身盛り合わせを2人前頼んだら、思わず二度見するほどお皿いっぱいにその日獲れた新鮮な魚がてんこ盛り、しかもまさかの「もう一人前もすぐできるからちょっと待ってね!」、さらにそれが一皿750円という衝撃の安さ。刺身好きにとって天国のようなところでした。
雑誌掲載時は部隊紹介が中心でしたが、このメルマガではそれに加えて対馬のご紹介や個人的な感想なども盛り込ませていただきたいと思っています。しばらくお付き合いいただければ幸いです。
さて、ここから「国境防衛の最前線、チョークポイント・対馬の陸海空自衛隊」のスタートです。
陸海空3自衛隊すべての部隊が所在する長崎県対馬は、西に朝鮮半島、東に九州を臨む国際海峡の中心に位置し、福岡よりも韓国の釜山のほうが近い国境の島です。陸上自衛隊対馬警備隊は「やまねこ軍団」、海上自衛隊対馬防備隊は「秘匿」、そして航空自衛隊第19警戒隊は「二重離島」。それぞれ特性のある各自衛隊の様子や任務役割をご紹介します。
日本は1万4125島からなる島国ですが(国土地理院公式サイトより)、その中でも対馬は南北約80キロ、東西約20キロという10番目に大きい島です。
対馬北部の上対馬町は韓国の釜山までわずか約50キロ、高台にある韓国展望所からは、気象条件に恵まれれば釜山のビル群や夜景が見えます。豊かな自然は、国の天然記念物に指定されている希少野生生物や植物も育んできました。
しかし自然が豊かな島であるということはインフラの整備が十分ではないということでもあるし、天気が荒れれば飛行機も船も欠航し、まさに孤島となります。輸送コストがかかるため物価も九州や本州に比べ1~2割高く、ガソリン代もレギュラーでリッター200円近いのです(離島振興基金などの補助がある上でこの金額)。バスの本数も多くない対馬で車は島民の足として不可欠だけに、ガソリン代は痛い出費でしょう。自衛官も自家用車に対してガソリン代の補助があるかといえば、特にありません。実際、取材時に「休日は家にいることが多い。どこに出かけるにしろここでは車でないと行けないし、ガソリン代がばかにならないから」と話す隊員もいました。
(つづく)