自衛隊海外派遣の歩み (10)
前回まで陸海空それぞれ初めての海外派遣について、その指揮官へのインタビュー記事も含めてご紹介してきました。
今回からは実績を積み重ねる国連平和維持活動、PKOについてご案内します。
国連平和維持活動は、国連が主体となって実施する国際紛争の平和的解決を目的とした活動です。
日本で1992年に国際平和協力法が制定されて以来、自衛隊はこの国連平和維持活動に参加して、与えられた任務を遂行してきました。
現地の過酷な環境の下で黙々と汗を流す隊員たちの姿は、国民のPKOに対する意識を徐々に変化させていきました。世論だけではなく、法律や海外からの評価をも動かす原動力となったのです。
国際連合は「国際平和と安全の維持」を大きな目的のひとつとして発足しましたが、米ソを中心とする冷戦構造の中では、紛争解決に対する活動は十分に機能できませんでした。そこで、これに代わる活動として紛争の平和的解決のために実施されるようになったのが、国連平和維持活動(PKO)です。
具体的には、紛争当事国や対立する当事者の同意のもと、国連によって組織された平和維持隊(PKF)による停戦監視・兵力引き離し、停戦監視団による停戦監視、文民による行政的支援活動を行ないます。この活動は国際的にも高い評価を得ており、1988年にはPKFがノーベル平和賞を授与されています。
湾岸戦争後、日本では国際社会でより積極的な役割を果たす必要性を再認識。国際平和のために本格的な人的、物的協力を行なえる制度となる国際平和協力法を制定しました。
それには「国連平和維持活動への協力」、「人道的な国際救援活動への協力」、「国際的な選挙監視活動への協力」の3つの柱の規定とともに、PKO参加5原則にしたがって活動を行なうことが定められています。
PKO参加5原則
(1)停戦の合意が存在している
(2)受け入れ国などの同意が存在している
(3)中立性を保って活動する
(4)(1)(2)(3)の原則のいずれかが満たされなくなった場合には一時業務を中断し、さらに短期間のうちにその原則が回復しない場合には派遣を終了させる
(5)武器の使用は要員の生命等の防衛のために必要な最小限度に限る
制定にあたっては、自衛隊の国連平和維持活動への参加は、憲法が禁じる「武力の行使」にあたらないか、自衛隊の海外派遣に対する近隣諸国の理解は得られるのかなど、賛否両論の白熱した議論が繰り返し交わされました。
その結果、国際平和協力法には先のPKO参加5原則が組み込まれること、PKF本体業務については当面の間、実施を見送ることとなりました。
法の施行後、カンボジア、モザンビーク、ルワンダ難民救援、ゴラン高原、東ティモール避難民救援、アフガニスタン難民救援、東ティモール国際平和業務、イラク人道復興支援、そして現在活動中の南スーダンなど、自衛隊の国際平和協力活動は着実に実績を重ねていったわけです。
その後、1998年に国際平和協力法が改正され、上官が武器使用に関する命令を出せるようになりました。それまでは武器の使用は隊員各自の判断によるものとされ、上官には防戦のための指揮権限もなかったのです。
さらに2001年、平和維持隊PKF本体業務への部隊参加の凍結解除を含む国際平和協力法改正法が成立します。
これによって、平和維持隊の業務のうち、医療、輸送、通信、建設などの後方支援業務に加え、自衛隊の部隊による武装解除の監視や緩衝地帯などでの駐留・巡回、検問、放棄された武器の処分といったPKF本体業務が行なえるようになりました。
武器を使用して防衛できる対象者としては「自己と共に現場に所在する他の隊員もしくはその職務を行うに伴い自己の管理の下に入った者」が追加され、自衛隊の装備品などの防護のための武器使用も可能となりました。国際平和協力に対する日本の取り組みは、さらに一段上のステップへ進んだといえます。
そして昨年成立した安全保障関連法により、新たに「駆け付け警護」の任務も付与されることとなりました。施行時期については、今の時点では未定です。
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成28年(西暦2016年)2月4日配信)