2015年陸海空自衛隊の装備と運用(10)

今回はグローバルな安全保障環境の改善についてご案内します。
 防衛省はグローバルな安全保障上の課題等に適切に対応するため、国際平和協力活動等をより積極的に実施するとしています。
 新規事業としては、まず国連平和維持活動教官要員訓練の共催があります。これは各国のPKOセンター等の教官要員に対する訓練を国際連合と共同で開催するもので、わが国のPKO活動に対する主体的な取り組みを示すとともに、他国を含むPKO要員の能力向上に貢献することができます。また、統幕学校国際平和協力センターの教官要員の参加による教授能力の向上を通じ、PKO活動等に参加する自衛隊員を育成するという目的もあります。
 昨年12月には、栗田千寿2等陸佐が「女性・平和・安全保障分野担当のNATO事務総長特別代表」のアドバイザーとして、約2年間の予定で自衛官として初めてNATO本部に派遣されました。栗田2佐は東ティモールの国連平和維持活動(PKO)に参加した経験もあり、NATOでは紛争予防、平和構築での女性参画などを担当しています。
 今年も継続して行われている海外での活動としては、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処があります。
 アデン湾はソマリアとイエメンに挟まれた長さ約1000km、最大幅約400kmの海域で、年間で約2万隻もの船舶が通過、その10隻に1隻が日本と関わりのある船舶です。
 この海域で武装した海賊による事案が多発したため、自衛隊は2009年から護衛艦2隻による派遣海賊対処行動水上部隊を継続的に派遣しています。また、P-3C哨戒機2機もアデン湾上空をパトロール、不審な船舶に関する情報を随時提供しています。
 2013年には、これまでの直接護衛に加えCTF151(第151連合任務部隊)に参加してゾーンディフェンス(CTF151司令部から割り当てられた担当の海域内で行う警戒監視)の実施を決定。さらに自衛隊からCTF151司令官と同司令部要員を派遣することも決まりました。今年5月末から7月23日までは伊藤弘海将補が司令官を務め、訓練でなく実動の多国籍部隊の司令官に自衛官が就任した初のケースとなっています。なお、今年7月、海賊対処活動に参加している海上自衛隊の活動期間を来年7月まで1年間延長することが閣議で決定しました。
 以前はアデン湾を通行する護衛対象の船舶を2隻の護衛艦が前後からガード、約900kmの航路を2日ほどかけて進む形で護衛を実施していました。CTF151に参加している現在は、基本的に1隻がアデン湾を往復しながら直接護衛を行い、もう1隻がゾーンディフェンスを行なっています。2014年12月31日現在、3614隻の船舶が自衛隊による護衛のもと、1隻も海賊の被害を受けることなく無事にアデン湾を通過しました。
 国際連合南スーダン共和国ミッション(UNMISS)には、2011年11月から司令部要員を、2012年1月から陸上自衛隊の施設部隊等を派遣しています。現在は第8次要員が南スーダン派遣施設隊として、首都ジュバの国連施設内において避難民保護区域の敷地造成などを行なっています。2013年12月には、南スーダンにおいて治安情勢が急速に悪化する中、要請を受けた自衛隊が韓国軍へ弾薬を譲渡、翌月に返還されるという出来事もありました。また、安全保障関連法案の成立により、政府は南スーダンPKOに派遣されている自衛隊員に、離れた場所で襲撃された他国部隊などを武器で守る「駆け付け警護」の任務を追加することを検討しています。
 また、今年に入ってすぐ、インドネシア・スラバヤからシンガポールに向かう途中で墜落したとみられるエア・アジア機の捜索救援のため、ソマリア沖での海賊対処活動を終えて帰国途上にあった護衛艦「たかなみ」と「おおなみ」およびヘリコプター3機をインドネシア国際緊急援助水上部隊として派遣しました。
 昨年3月にもマレーシア航空370便消息不明事案に関して国際緊急援助活動を実施、P-3C哨戒機がマレーシア及びオーストラリアを拠点として、C-130H輸送機がマレーシアを拠点として、計46回(約400時間)の捜索活動を行っています。さらに昨年11月には国際連合エボラ緊急対応ミッション(UNMEER)からの要請により、西アフリカ国際緊急援助空輸隊等を編組し、航空自衛隊のKC-767 1機によりガーナ共和国まで個人防護具(約2万着)の輸送活動を実施しました。今後も国際緊急援助活動には迅速かつ柔軟に対応していくことが予想されます。
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成27年(西暦2015年)10月1日配信)