レゾリュート・ドラゴン22(5)
米海兵隊と自衛隊ではさまざまな違いがありましたが、なかでも驚かされたのが、射撃陣地までの進入方法でした。
自衛隊は射撃する場所まで普通に歩いて進み、そこから準備を始めます。射撃をすることが目的なので、いたって当たり前の光景です。
ところが米海兵隊は、射撃の場所に到達する前からすでに状況中なのです。
そのため、ついさっきまでごろごろしていた隊員が、緊張感をもって周囲を警戒しながら匍匐前進しています。射撃地点まで時間をかけて、進路にぬかるみがあろうと這って進んでいくのです。実戦を知っている部隊であることを、改めて突きつけられた思いだでした。
自衛隊の幹部も「林の中から這ってやってくる、あの意識の高さがすごい。ともすると射撃のために射撃をしているわれわれとは違う」と感嘆していました。
ちょっと余談になりますが、昨年末にラジオに出演した際、収録前の打ち合わせで先方がこの一件をチェックしてくれていたのですが、「海兵隊は匍匐前進で来るんですって?」と、やや「ウケる話」のような受け止め方をしていました。私が「意識の違いを取材陣も自衛官も目の当たりにして、実戦を経験している海兵隊ならではの動きだと感じました」と真顔で返したので、「笑い話としてとらえることではないのか」と気づいてくれたようでした。
6日には米国がウクライナに供与している対戦車ミサイル、ジャベリンの射撃も行われ、第2師団長冨樫勇一陸将も視察に訪れました。
しっかり目標をとらえた時は米海兵隊から歓声が上がりましたが、自衛隊側が「うちの01ATMもこんな感じだし」と、意外に冷めた反応だったのは面白かったです。01ATMもジャベリン同様、隊員が手持ちで攻撃できる個人携行型対戦車ミサイルです。
午後には第一線救護訓練として、傷病者をCV-22により輸送するという訓練が行なわれました。オスプレイが登場するので再び大手メディアが一斉に姿を見せます。
傷病者役の隊員たちは迫真の演技で救護を待ちます。強烈なダウンウォッシュの中、担架に乗せた傷病者を機内へと運び、無事上富良野地区へと離陸しました。
実はこのとき、傷病者を運ぶための米空軍のCV-22だけでなく、沖縄の負担軽減のため訓練移転を目的とした米海兵隊のMV-22も同時に飛来したため、2種類のオスプレイが並ぶというレアなシーンを見ることができました。
8日、上富良野演習場では翌日以降の防御戦闘に備えた予行訓練が行なわれました。
米海兵隊の敵役は3即機連の第3中隊。明日に備えてすでにいずれもバトラ(交戦訓練用装置)を装着していますが、実際に使うのは明日からということで、状況を判断する審判が各地に配置されました。実際にバトラが機能すると、「誰が(何が)どこで、どの程度の損傷を受けたか」が瞬時に指揮所に伝わります。
談笑していたり荷物を整理していたり、のんびり過ごしていた米海兵隊の兵士たちは、隊列を組むわけでもなくいつの間にか前進を始めています。整列してから整然と前進する自衛隊しか見たことがなかったので、「そんなにだらっとしていていいのか」と勝手に心配してしまいます。
ところが砂利道からそれて草むらに入ると、雨に濡れた地面も肌にまとわりつく草も一切気にすることなく、自身の陣地を構築し始めました。つくづくリアルな戦闘を知っている部隊の「実力」を見せつけられます。
敵役の3中隊がうまい具合に立ち回り、警戒する米海兵隊を囲もうとしました。そこからの米海兵隊の行動を、3即機連最先任上級曹長の北川雄3准尉が「うまいですね」と解説してくれました。
「米海兵隊はまんまと回り込まれたのですが、それに気がついてからすぐさま一人ひとりに『お前あっち行け』『お前はあっち』と指示が出ました。隊員たちも仲間を確認したり敵も確認したりと冷静に動けていて、そのチームワークとスピード感がすごくよかったですね。3即機連の対抗部隊の動きもよかったです」
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和五年(西暦2023年)2月23日配信)