第25戦闘団冬季訓練検閲(11)
いよいよ冬季訓練検閲状況最終日です。
0600、夜明け前から防御戦闘が始まっています。対抗部隊のいる演習場の南端に向かうと、対抗部隊の90式戦車がエンジンを止めた状態で道路上に並んでいました。除雪ができていないので、先に進めないのです。とはいえこの時点で除雪できていないのは想定内で、すでに歩兵が林の中を迂回しつつ前進しています。
演習場には東と西それぞれに走っている道路があり、対抗部隊の指揮官はここ東側に主力を流すと決心しました。東側を選んだのは、自分たちだけでなく受閲部隊にとってもこちらが弱点だからです。西側道路は戦車が進みやすい分、受閲部隊は戦車を撃破すべく準備を万全に整えています。1度ミサイルのキルゾーンに入れば逃れることはできません。ならば除雪されていないというリスクがあっても、受閲部隊の弾幕が薄い東側を使う方が勝機ありと判断したわけです。
東側の道路で展開していくという作戦は演習当初から決まっていたことでなく、受閲部隊の行動と準備状況から敵指揮官が現場で決心したことです。
では受閲部隊の裏をかけたのかといえば、相手も当然東から攻められることも想定しているはずだから、予備隊をこちらに向かわせ防御ラインを厚くしたり、西側に集中していた火力を東へ振り直すといった処置を行うでしょう。
「ただ、今回は25戦闘団が予期していないほどの大戦力がこの東側に集中したはずので、おそらく対抗部隊に抜かれると思いますよ。しかも抜くか抜かれるかというせめぎ合いの最中に、ヘリボン攻撃も予定されています。つまり25戦闘団の予備隊は前後から挟み撃ちされる形になるわけです」
この形勢から、広報幹部が今後の戦況を読んでそう教えてくれました。
「心理的には背後のヘリが気になりますが、ここで指揮官は自分たちの主任務が陣地防衛であることを再認識する必要があります。ここを突破されたら任務達成になりませんから、背後の敵を気にするよりも、目の前の敵の主力を止めることに傾注しなければなりません。雑音に反応して本来の目的を見失わず、何が1番大事なのか、事実を正しく判断し正しく決心することが重要です。この検閲では指揮官にそういう決心をさせることも仕込みで行っています」
説明を聞きながら、除雪されていない道なき道を南から北へ、最前線に向かって進みます。
施設部隊が鉄条網の下に入れるための棒状の爆破薬をアキオに載せて山の中へ入って行きます。施設科は普通科以上に肉体的負荷のかかる場面が多いと耳にしたことがありますが、新雪に足を取られながら力を合わせてアキオを引く姿に、その言葉が思い出されました。
さらに先に進むと最前線に到達しました。25戦闘団の姿はまったく見当たらず、何の気配も感じられません。
道路の右手の林にも人の姿は見えませんが、そこには対抗部隊の小隊がスキーで前進しており、重迫や特科のFOはさらに先を進んでいると思われます。
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成27年(西暦2015年)1月29日配信)