海上自衛隊幹部候補生学校(12)

ごあいさつ

こんばんは。渡邉陽子です。
東日本大震災から10年が経ちました。きりのいい数字ということもあって、テレビなどメディアでの特集が目立ちますが、被災した地域や人々にとっては「きりがいい数字」など関係ありませんよね。「10年が一区切り」なども、当事者の心情や実情をないがしろにしていると感じます。
阪神淡路大震災での苦い教訓を生かし、東日本大震災で自衛隊が救助した人の数は消防や警察をはるかに上回りました。今では自治体や警察、消防と連携した統合防災訓練も珍しくないですし、すべての都道府県に自衛隊OBの防災監がいます。
でも、まずは個人で備えられることをしっかりやっておきたいですね。首都直下型地震や南海トラフ地震が遠くない将来、確実に起きると言われているのですから。

海上自衛隊幹部候補生学校(12)

取材時の海上自衛隊幹部候補生学校長へのインタビュー、前回の続きです。インタビューは今週が最終回です。

「帝国海軍は多くの名将を出しました。また、教育参考館に行けば、たくさんの有名無名の先人の遺跡、偉業に接することができます。その血と汗と涙すべてがこの江田島に凝縮されていると言っても過言ではありません。また、ここ江田島には、建物や木々、そして風土に支えられた、一種独特の精神が息づいているように思います。それは長い年月をかけて、かつての海軍士官、現在の幹部海上自衛官といった、いわば海上武人を養成するという大きな目標に向かって育まれ、培われたものです。それを“江田島精神”と呼ぶのかもしれません」

さらに学校長は

「“昨日があって今日があり、今日があって明日がある”のであって、今日だけがあるのではないということを決して忘れてはならない」

とも言いました。

「伝統がわれわれに与えてくれるものは、長い間に蓄積された知恵・知識などに基づく判断力、先人との連帯感とそれに基づく勇気、安心感など、いわば心の支えとも言えるでしょう。そして、ここ江田島で学んだという一体感、愛情ともいえるものを感じるのだと思います」
「伝統とは、単に長く継承されたことをもって価値ありとするのではありません。そこで多くの先人の経験と英知が集約されているからこそ尊いのであり、ただ“墨守”すればいいというものでもなく、常に新しい息吹を吹き込み、受け継がれるべき価値を確認し続けなければならないものだと考えています」

あえて学校長としての不満を尋ねたところ、「候補生ひとりひとりと直接触れ合う機会が少ないこと」。

「毎朝、校内で候補生たちとすれ違うとき、『頑張れよ!』という思いを込めて『おはよう』と言ってやりたいんですが、私の姿を遠くに見つけると、候補生たちはすすっと曲がってしまう。迷惑なんですかねえ(笑)」
「私だって実は毎朝緊張しているんですよ。朝の旗揚げの際には候補生たちの敬礼を受け、総員に見られながら答礼するわけです。そのとき、帽子は曲がってないか、服にしわは寄ってないか、しっかり心のこもった敬礼ができているかと気になります。私には誰も言ってくれませんから、もしもうっかり不備があっても『今朝の学校長は帽子が曲がってたよな』と陰で言われるのがオチでしょう(笑)。人には言うくせに自分はできてないじゃないかと。私に限らず教官たちもみな緊張するシーンはあるんです。人間ですからパーフェクトにはできないけれど、指導する立場として最大限の努力は怠りません」

最後に、学校長として候補生たちに望むことを聞きました。

「最近の若い人は非常に真面目でおとなしいと感じますし、自分の興味のあることには一生懸命取り組むものの、そうでないものにはあまり興味を示さないし、なにごとも表面上うまく取りつくろおうとする傾向があるように感じられます。個人的にはもう少し、言葉は悪いですが“跳ねっかえりもの”がいてもよいと思います。いずれにしても、なにごとも最初からうまくいくはずがないのですから、苦労や失敗を恐れないガッツを持って欲しいですね。若いうちから苦労を経験することなく安易な道ばかり選んでいると成長しませんし、いざというときの対応力や判断力を磨くこともできません。目先の損得にとらわれることなく、大きく将来を見すえ、どんなことにも積極的にチャレンジ精神を持って取り組んでもらいたいものです。私は彼らの若い力を信じています」

(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和三年(西暦2021年)3月11日配信)