陸上自衛隊高射学校&87式自走高射機関砲(3)
先週は87AWの構造についてご紹介しましたが、今回は87AWの抱える課題についてご紹介します。
大別すると、課題は2点あります。
1点目は高価なことです。
87AWは1両ですべての対空攻撃を行なうだけの装備が詰め込まれています。そこに高度なエレクトロニクスを満載された結果、1両の調達価格が約15億円と非常に高額になってしまいました。
90式戦車は約8億円、10式は約9.5億円です。戦車と比較してもずば抜けて高額であることがわかります。
それもあって調達は52両に留まり、機甲部隊の重要性が高い北海道以外には配備されずに調達を終了しました。つまり、今後も北海道以外の実動部隊に87AWが配備されることはありません。
高価すぎるから数を作れず、数を作れないから価格も下がらず……悩ましいところですが、結果として開発時に予定、期待していたような数は製造できなかったのは事実です。
2点目は、隊員の命に直結している話なので、高額であるという以上に深刻な課題であるともいえます。
二門の35mm対空機関砲の性能は優れているものの、87AWにとって大きな脅威である戦闘ヘリコプターの放つ対戦車誘導ミサイルの長射程化により、射程外から攻撃する「アウトレンジ戦法」により攻撃されてしまうという深刻な問題を抱えているのです。
では、これら2点の課題について「いやいや、だからといって87AWの強みがなくなるわけじゃないから」という観点で見てみましょう。
まず高価ゆえに車両数が限られ、北海道の部隊にしか装備されなかったという点です。
確かにもっとたくさん製造できれば、本州や九州の特科部隊も装備することができたでしょう。
しかし、北海道だけでなく全国の高射特科部隊に87AWが装備されるのが望ましかったのかといえば、一概にそうとは言えないのです。なぜなら87AWは現在、守るべき部隊の特性に応じて配備されているからです。
たとえば現在、87AWの部隊が所在する北海道には、今や本州にはない戦車部隊が所在しています。戦車に随伴行動することが多い87AWが北海道に集中しているのは理にかなっています。戦車部隊のない本州に87AWがあっても、その特性を存分には生かしきれません。つまり数があればいいというわけではないのです。
第7師団のような機甲師団に集中して装備されているのは、適材適所といえます。7師団に配備されているからこそ、87AWはその性能をフルに発揮できるというわけです。
次に、戦闘ヘリの対戦車誘導ミサイルでアウトレンジされるという深刻な脅威についてですが、その脅威に直接さらされる87AWを扱う乗員からは意外な声があります。
それは「本当にいやな敵や装備は、戦闘ヘリではなく地上部隊」というものです。
というのも、敵にとっては「高射部隊がいる=航空部隊による攻撃ができない」なので、地上部隊は最初に高射部隊を叩いて制空権を確保しようとします。つまり87AWが真っ先に狙われやすいのです。87AWにも対地攻撃能力はあるものの副次的な位置付けのため、なおさら地上から攻められるのは厄介なのでしょう。
来週は87AWの存在意義についても考えます。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和二年(西暦2020年)10月22日配信)