メイキングオブ防衛白書(4)
白書の作成とは文章の執筆のみならず、表紙、本文のデザイン、そして校正作業、印刷業者との調整、省高官への説明、各地方防衛局への説明など多岐にわたります。
さらに防衛省を訪れた大学のゼミに対し、昨年版の防衛白書について説明するといったイレギュラーな行事も舞い込みます。
取材した年の白書の文章は、白書室の陸海空自衛官3名がおもに担当しましたが、文章に個人の癖や個性がまったく出ていないので、誰がどこを書いたのかはまるでわかりません。公の書物だから相当意識して文章を平衡化しているのかと思いきや、そういうわけではないそうです。
「それぞれが書く段階では、どんなに意識してもやはり文体は違っています。けれど各部署に意見照会して戻ってきたときは、実に多くの意見がばーっと書き込まれているので、それを文章に反映させていくといろんなものが混じり合って、書いた人間の個性なんてなくなるんですよ」
なるほど、納得です。
白書の顔である表紙の選定も、これまた難しいです。
「例年通り」で無難に行けば「印象が薄い」「面白味がない」と言われ、思い切った見せ方にすれば「奇抜」「前例がない」と言われ……
陸海空のバランスも重要で、誰がどう見ても文句のつけようがない公平、平等な扱いでなければいけません。
取材した年は、前年が過去に例のないインパクトの強い表紙だったため、「今年はどうしたものかと」大いに頭を悩ませることになりました。
その結果、複数の写真をコラージュ風にし、任務の広さを表現しようということになりました。写真をピンで止めるデザインは、なんと舞鶴からやってきたWAVEの士長の提案でした。すごいですね!
写真は前年版に比べて90点増加、より見やすい紙面を徹底しました。
K2佐は写真1点選ぶ際にも心がけていたことを教えてくれました。
「1枚でも多く国民と自衛官が一緒に写っている写真を載せたいと思っていました。国民のみなさんが自衛隊を身近に感じるときって、地震とか水害とか、なんらかの不幸に見舞われたときでしょう。そういうとき以外でも、少しでも自衛隊を身近に感じてもらいたいと思って」
また、白書をより読みやすく、手に取りやすいものにしようと、コラムの数も54本と昨年に比べて大幅に増えました。しかも隊員の声だけでなく警察や海上保安庁、県知事など、幅広い声を掲載しました。
いくつもの会議の前には、そのつど膨大な資料を終電ぎりぎりまでかかって用意し、台車に乗せて防衛省内の別の棟の会議室まで運びます。
会議が終われば資料を回収して再び白書室に持ち帰る。そんな地味な作業も、白書室のメンバー全員が協力しあって進めていました。
I2佐によれば、制服ごとに仕事の進め方は異なるものだそうです。
「たとえば陸の場合、動くということは隊員の命に直結しているので、十分に考えてから動くのが普通です。けれど空の場合、じっくり考えていては領空侵犯には対応できないから、迅速な行動が求められます。おのずと白書の作成の際も最初は差異がありましたが、いい白書を作りたいという思いは一緒ですからね。これだけ毎日顔を突き合わせているとチームワークも生まれます」
K2佐とI2佐は異動の時期が迫っていたため、後任の担当者もやってきました。
ファントムパイロットのN3佐は最後の修正やチェック作業、渉外を担当しました。
陸のH3佐は翌年の白書も担当します。この年の版では、数か所の防衛局へおもむき白書の説明などを行ないました。
「白書室に来るまでは、もっと読みやすい白書がいいんじゃないかと思っていました。もちろん読みやすさの追求は大事ですが、専門家も読むものだから、それだけじゃだめなんだとここに来て知りました。白書に関わることは、長い自衛官生活の中で貴重な経験になると思います」
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和二年(西暦2020年)4月16日配信)