航空自衛隊 警戒航空隊(1)
北海道から沖縄まで、全国28か所にある航空自衛隊のレーダーサイト、は24時間体制で日本の防空圏を監視しています。そのレーダーサイトで掌握しきれない部分の監視や警戒管制を空中で行なうのが警戒航空隊です。
ひとつの部隊で2つの機種を運用する稀有な部隊は、2006年に統合幕僚監部が設立され統合運用が始まった当初は、陸・海・空統合運用の象徴的存在としても脚光を浴びる存在でした。
私が初めて浜松基地の警戒航空隊を取材したのは10年以上前のことです。その記事は「MAMOR」創刊号に掲載されました。当時と変わっていないこともあれば大きく変化したこともあるこの部隊について、警戒飛行管制隊のE-767を中心に、今週から何回かにわたりご紹介します。ちなみにE-767は空中警戒管制システムの略称、AWACS(Airborne Warning And Control System エーワックス)の名で呼ばれるのが一般的です。
警戒航空隊は、ひとつの部隊でありながらE-767とE-2Cという2種類の航空機を保有しています。そのため、以前は隊本部がE-767を運用する浜松基地とE-2Cを運用する三沢基地2か所にあるという、航空部隊としては珍しい編制になっていました。
現在は2014年の組織改編により、E-2C運用部隊の飛行警戒監視隊を廃止し、飛行警戒監視群及び隷下に第601飛行隊を三沢基地、第603飛行隊を那覇基地に新編。あわせてAWACSを運用する飛行警戒管制隊は第602飛行隊に改編されました。
警戒航空隊の任務には、航空警戒と要撃管制、そして航空情報の収集・伝達があります。
また、操縦者、兵器管制官、整備員などの教育も行なっています。本来ならば教育は術科学校で行なわれるのですが、警戒航空隊の運用する機種は少数機ゆえ、部隊にしかない機材も多いためです。
さらに、兵器管制官たちは航空士の資格を取得する必要がありますが、これも実際に部隊へ来ないと学べません。E-767の操縦についても民間航空会社でシミュレーション訓練を行なうものの、民間のボーイング767とは若干仕様が違うし、ミッションクルーとの連携もここでしか経験できません。警戒航空隊における教育は、大切な任務のひとつなのです。
警戒飛行隊の誕生には、1976年9月に起きた「ミグ事件」が大きく関わっています。これは亡命目的のソ連の鋭戦闘機ミグ25が、領空侵犯の末、函館空港に強制着陸したという事件です。
日本の防衛能力のもろさを露呈したこの「ミグ事件」によって早期警戒機の必要性が説かれるようになり、警戒航空隊が新編。三沢基地にE-2Cが、その後浜松基地にE-767が導入されました。
アメリカ、イギリス、フランス、サウジアラビア、NATOもAWACSを保有しています。ただし、他国のAWACSはボーイング707をベースにしているE-3。日本のAWACSはボーイング767-200型機をベースとしたE-767と、機体のサイズが異なります。E-3よりも床面積が1・5倍も広いので、E-3のクルーたちが大いにうらやましがるとか。
旅客機と違って胴体部分には窓がなく(Fedexなどのカーゴ便も窓がないですよね、あんな感じです)、後部胴体上方にAWACSの象徴であるお皿のような回転式レーダーアンテナ、ロートドームを配置しています。
乗員は操縦者2名、ミッションクルー18名の計20名。約12時間と航続時間が長いので、遠隔地へ進出して哨戒ができるほか、多数の通信装置によって複数の相手と同時に自動データ伝送および音声通信が可能です。
世界で唯一、日本だけが保有するこのAWACSは、当然ながら注目度も抜群。海外の武官も含め、年間なんと3000名近くの研修者が訪れ、取材の依頼も非常に多いそうです。
(つづく)
(わたなべ・ようこ)
(令和元年(西暦2019年)5月23日配信)