第2師団集合教育「レンジャー」(2)
今年度、2師団では55名が資格検査を受検者、そのうち合格した30名が5月8日の訓練開始式に臨みました。その後、3名がけがなどでレンジャー徽章を手にすることなく原隊復帰しています。残った学生も傷口からばい菌が入り腫れたり化膿したりで、教育期間中に9名もの学生が入院しています。いかに訓練が過酷なものかがこの事実からも伝わってきます。
訓練は基本訓練の後、行動訓練という流れになっています。
基本訓練は訓練開始式の前日の5月7日から始まっており、6月20日まで約6週間行なわれました。
基本訓練では、行動訓練に必要な各種の訓練を個別に練成します。
具体的には、地図とコンパスを使用した訓練、ロープなどを使用した山地潜入訓練、ヘリを使用した空路潜入訓練(リペリングなど)、偵察ボートなどを使用した水路潜入訓練、体力向上のための体力訓練・障害走・銃を持って走るハイポート訓練など、食料を現地で調達し食事を確保する生存自活訓練、敵部隊を撃破するための訓練です。
基本訓練の後に実施される行動訓練は約5週間にわたり、任務を付与されて目的を遂行するための生地などで行なわれます。
山岳地帯の厳しい自然環境の中、広範囲におよぶ山地を行動する「山地潜入」、レンジャー部隊隊員として必要な「偵察」「襲撃」「伏撃」行動などを反復し、総合的な訓練を実施するのです。
行動訓練には9つの想定が組み込まれています。そのうち最終想定である第9想定は、約3か月におよぶレンジャー教育で培ったすべての知識や経験を駆使する想定という、レンジャー教育の集大成になります。
この最終想定では主要演練項目を「夜間を含む各種潜入、偵察、襲撃および伏撃、不撓不屈、没我協調の精神力」とし、レンジャー学生に対して潜入・破壊・伏撃・襲撃・離脱に任ずる戦闘隊の行動を3夜4日にわたり実施し、総合的な遊撃行動を修得させます。この際、学生自ら部隊指揮能力を発揮させ、任務を完遂する能力およびレンジャー教育でもっとも重要な「不撓不屈の精神」を重視します。
これまでに訓練してきた課目すべてが集約されているので、どのような任務が付与されるか、学生たちはおおよその予測はしています。しかしいつ、どのような状況が付与されるかは不明であり、気力体力の限界に達したときにもっとも困難な任務にかからなければならないという事態もあり得ますから、心中は穏やかではないことでしょう。
最終想定の1日目は非常呼集から始まり、任務付与、隊容検査、命令下達の後にヘリからのリペリングによる空路潜入、ボートによる水路潜入を行ないました。ただ今回は気象条件が悪くヘリが飛ばないことになったため、リペリングは名寄駐屯地内の降下塔(レンジャー訓練塔)で行ない、水路潜入地点までは陸路での移動に急きょ変更となりました。
ここで先週のメルマガの最初のシーンに戻ります。
ひとつの部屋にずらりと並んだ2段ベッドで眠る学生たち。
「非常呼集!」
朝6時、突然の怒鳴り声に起こされ、慌ただしく身支度を始めます。最終想定の始まりです。
この部屋に戻ってくるのは4日後、最終想定を無事にクリアして帰還式でレンジャーバッジを授与された後になります。
この朝非常呼集がかかるであろうということは、日程上から学生たちはすでにわかっていたはずです。それでも前日までの厳しい訓練に、疲労の回復は追い付かず、加えての慢性的な睡眠不足ですでに満身創痍の状態で、この時点ですでに動作が緩慢になりがちな学生も見受けられます。もちろんそういう学生に対しては助教から容赦ない怒声が浴びせられます。
なお、教育期間中の学生たちにプライバシーはありません。24時間ともに過ごすバディとは固い絆で結ばれ、ひとりが負傷すればもうひとりが2人分の荷物を持ち、1人前の食料は半分ずつ分け合います。極限化の苦楽を共にし、強さも弱さもさらけ出しあったバディとは一生の付き合いが続くといいます。
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成31年(西暦2019年)1月24日配信)