海上自衛隊東京音楽隊(3)
実は原2士と在川2士は、海上自衛隊の音楽隊には2度目の挑戦で合格したという経歴と持ちます。つまり2人とも大学4年生の時は不合格となったものの入隊をあきらめきれず、1年就職浪人をして再度チャレンジしたのです。
とはいえ、東京音楽隊が毎年ユーフォニアムとサックスの奏者を募集するとは限りません。募集がなければ応募も叶わず、1浪したことが無駄になってしまいます。2人は「それでも音楽隊に入りたい」という一心でひたすら練習し、技術の向上に励み、将来が不透明な不安な1年間を乗り切りました。そして幸いなことに翌年もユーフォニアム、サックスとも募集があり、試験にも見事にパスしたというわけです。
在川2士は「あきらめずにチャレンジしてよかったです。これからも感謝の気持ちを忘れず、より多くの方に東京音楽隊と海上自衛隊のことを知ってもらえるよう、仕事に励んでいきたいです」、原2士は「東京音楽隊の名に恥じないよう練習を重ねていきます」と話します。
池田沙恵2等海士は名古屋音楽大学出身のクラリネット奏者。絶対音感は4歳から始めたピアノで培われ、小学生の頃にはすでに「将来はピアノを職業として生きていくんだろう」と思っていたそうです。ところが中学校の吹奏楽部でパーカッション、コントラバスを経て14歳でクラリネットに出会い、「ピアノではできない発音後のクレッシェンドや多くの人とアンサンブルができることに魅力を感じました」。
クラリネットを始めてわずか数か月で第24回クラリネットソロコンテスト(クラリネット協会名古屋)でグランプリを受賞するなどあっという間に腕を上げ、「これはいけるんじゃないか」と思ったそう。
「8歳の時に父が亡くなり、母が女手1つで育ててくれました。3人兄弟の末っ子だったのに音大まで行かせてもらったこともあり、就職口が少ない音大でもちゃんと就職して、早く恩返ししたいという気持ちが強かったです。そして就職先を探している時に、自衛隊の音楽隊にたどり着きました」。
音楽隊員となって小さな驚きだったのは、企画から楽譜の準備にいたるまで、すべて自分たちで行なわなければならないということでした。自己完結の自衛隊ならではの特色です。また、普段はPCに向かって黙々とデスクワークしている先輩隊員たちが、楽器を手にした途端にノリノリで演奏する姿にギャップを感じつつ、心から尊敬しているといいます。
「初めて参加した音楽まつりで苦労したのはマーチングです。演奏しながら動くというのは初めての経験だったので、動きを覚えられず苦労しました。また、本番で体調を崩してしまい、全7回の公演のうち1回出演できず、それまでずっと指導していただいていた幹部の方が代役で出演してくださり、直前のことだったにも関わらず、完璧に演じてくださいました。感謝の限りですが、それまで1カ月近く朝から晩までマーチングに明け暮れていたので悔しい気持ちもあり、また反省もしました」
好きな曲はモーツァルトのクラリネット協奏曲。もとはクラシックが好きだったそうですが、東京音楽隊でさまざまなジャンルの曲を演奏するようになり、音楽の幅も広がりました。
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成29年(西暦2017年)5月25日配信)