陸上自衛隊防災マニュアル(4)
阪神・淡路大震災における救助実績は、警察3495名、消防1387名、自衛隊165名。
一方、東日本大震災での救助実績は、警察3749名、消防4614名、自衛隊1万9286名でした。
この自衛隊の飛躍的な救助実績アップは、初動対処部隊を整えていたことが要因に挙げられます(これが後にファスト・フォースという名称で呼ばれるものです)。
また、地方自治体との連携という面では、近い将来起こると予測されていた宮城県沖地震への対処能力向上を目的に、東北方面隊全部隊、太平洋に面した24自治体、防災関係35機関ならびに一般市民を含めた約1万6000名もの人員が参加した東北方面隊震災対処訓練「みちのくALERT2008」の経験等が生かされました。
防衛省は2012年11月30日、東日本大震災への対応に関し、意思決定、運用、各国との協力、通信、人事・教育、広報、情報、施設、装備、組織運営の教訓事項について、それぞれ改善点と今後の方向性を盛り込んだ最終取りまとめを発表。
さらに震災後に災害対策基本法を3度改正し、被災自治体の要請を待たずに国や都道府県が物資を支援できるようにするなど、多くの教訓を反映させました。
防災基本計画もさらなる改定が重ねられ、津波や原子力災害対策を強化、大規模災害復興法も整備されました。
そして2013年9月には、前述のとおり救援の初動部隊の名称を「ファスト・フォース」に改め態勢を強化。2015年度は陸自人員3870名、車両約1100両、航空機36機が全国の駐屯地で24時間待機、命令受領後1時間を基準に出動する態勢が整ったのです。
続いて、災害対処へ対応するための平素から行なわれている取り組みについてご紹介します。
自衛隊はこの先想定される大規模地震に対応するため、「首都直下地震対処計画」をはじめ、各種の大規模地震対処計画を策定しています。さらに、防衛省が災害発生時に行なうことを定めた防災業務計画も、適宜改正されています。
現在の防衛省防災業務計画は2015年10月に改正されたものであり、災害に対する準備措置、災害時における措置、大規模災害時の措置のほか、東海地震、東南海・南海地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震、原子力災害時の措置、都市部、山間部、島しょ部における災害への対応などが定められています。
また、災害派遣活動を円滑に行うためには地方公共団体などとの平素からの連携の強化がこれまで以上に重要なため、次の事項の実施により地方公共団体との連携の強化を進めています。
- 自衛隊地方協力本部に国民保護・災害対策連絡担当官を設置
- 自衛官の出向(東京都の防災担当部局)および事務官による相互交流(陸自中部方面総監部と兵庫県の間)
- 地方公共団体からの要請に応じ、防災の分野で知見のある退職自衛官の推薦
2015年3月末現在、全国46都道府県・220市区町村に、334人の退職自衛官が地方公共団体の防災担当部門などに在籍しています。
このような人的協力は、防衛省・自衛隊と地方公共団体との連携を強化する上できわめて効果的であり、東日本大震災においてもその有効性が確認されました。
さらに、各種防災訓練の実施および地方公共団体などが行なう防災訓練への積極的参加等を通して、各省庁などの関係機関との連携を図っています。
2014年度の災害派遣にかかる主な訓練の実施および参加実績だけ見ても、これだけずらりと並んでいます。
自衛隊統合防災演習(南海トラフ地震対処訓練)
防衛省災害対策基本本部運営訓練
「防災の日」政府本部運営訓練
政府図上訓練
平成26年度原子力総合防災訓練
津波防災訓練
原子力防災訓練
広域医療搬送訓練
静岡県総合防災訓練と連携した訓練
9都県市合同防災訓練と連携した訓練
近畿府県合同防災訓練と連携した訓練
東海地域広域連携防災訓練と連携した訓練
その他、統幕が主催する平成27年度日米共同統合防災訓練、平成27年度自衛隊統合防災演習などもあります。
次回は防災訓練の一例として、千葉県の下志津駐屯地にて行なわれた平成28年度下志津分区防災訓練をご紹介します。
(以下次号)
(わたなべ・ようこ)
(平成28年(西暦2016年)9月22日配信)