田母神俊雄:真・国防論


『真・国防論』
著:田母神俊雄
出版社:宝島社
発行日:2009/5/4
http://tinyurl.com/cuoufe
「ずいぶん多くなったねえ」
「ほら見てよ、この棚全部タモさんよ」

「あっほんとだ。でもね・・・」
「でも何よ」
「ニュークリアシェアリング・・・ むつかしくてよくわかんないよ・・・」
この前、本屋に行ったときに耳にしたカップルのことばです。
ちなみに女の子は彼氏に、
「え~っ、バッカじゃない?●●クン!こんなこともわかんないの?じゃああとで教えてあげるよ、さあさあ買って買って」といってます。
その後ジャニーズ系の彼氏は、彼女に腕を引っ張られ、引きずられるようにレジに向かいました。たぶん、彼氏の財布で自分が読みたかった本を買ったんでしょう。笑
ほほえましい光景でした。
■この本
この本は、閣下の国防論を23のテーマごとに整理・紹介したものです。
いずれのテーマも興味深いものばかりで、すべてに目を通したくなります。
目的は、戦後日本のおかしなフィルターを通さないで、国民が将来のわが国防を考えるためのきっかけづくり、土壌づくりです。
だから、分かりやすい内容です。
<軍事について理解を深め、日本だけの常識にとらわれずに広く国際社会を眺めることで、日本に必要な「真の国防」について議論ができる、その時期がすぐそこまできていると私は信じている。>(あとがきより)
第一章の「防衛論」が総論で、第二章の「自衛隊を真の国軍にするために」が各論となります。以上の二章は国家レベルで対処すべきまさに「国防論」です。
第三章の「自衛隊に必要な装備とは」は、軍レベルの話で分かりやすく、装備の意味合いと解説がなされています。いまもっとも求められる装備は空母であるとのご指摘に同意するものです。
内容をまとめると次のようになります。
絶対的権力が存在しない国際社会でその役割を果たしているのは、自由民主主義国の軍事力である。現在の国家間交渉においては口に出さなくともその背後に軍事力が歴然として存在しており、自由民主主義の一翼を担うわが国の外交にあたっては、軍事力が必要不可欠である。
しかるにわが国では、自衛隊を、国軍としての軍事力として効果を発揮せしめうる状態にしていない。
わが国は、世界の大国として、軍事バランスを自ら確保する姿勢を示すことが極めて重要であり、地域の安定を確保するため諸国と同じく攻撃力を持つ必要がある。
そのためにも、自衛隊を国軍にするのを妨げている種々の問題を処分し、自国の国防を達成すべく諸施策の実現を図るべきである。そのため、政治・防衛省・自衛隊にはしなければならないことが山ほどある。
現状の国防の問題点とあるべき姿を、元空幕長である田母神がその経験からつむぎだしたことばで、一般国民むけに整理・指摘する。
きわめて切迫感に満ちた憂国の書です。
■多くのナゼが湧き起こる
本著を読むと、ほんとうに多くのナゼ?が湧き起こります。
なぜ、中共が空母建造を計画しているというのに、政府は何もリアクションを起こさないのでしょうか?
なぜ、「自分の国を自分で守れない」状態で結ばれている現在の日米安保が、一方的に国防を米に丸投げするものであり、今後は「アメリカの戦争に唯々諾々とつきしたがってゆく」だけの取り決めでしかなくなる、ということことに気づかないのでしょうか?
核武装について「はじめからもたない」というのと「圧力を受けた結果もたない」というのとでは、政治の影響力に天と地ほどの差があることになぜ、気づかないのでしょうか?
ドイツのような「ニュークリアシェアリング」というスタイルで核抑止力を保有するのが適切であり、これをすれば、米の核で日常的に訓練できるという点になぜ、着目しないのでしょうか?
最初に保有すべきはSLBM(潜水艦発射型弾道弾)であり、これをすれば、平時から米原潜に海自軍人を搭乗させて訓練させることができ、中共からの核の恫喝を受けたら海自にミサイルの発射権限を与えるという条約を米との間で結べばよいことになぜ、気づかないのでしょうか?
なぜ、米にこの要求をするには、わが方が核武装するとの真剣な意思を示しての駆け引きが不可欠となることがわからないのでしょうか?
なぜわが国は世界の大国であるという意識を改めて保有する必要があることに気づかないのでしょうか?
なぜ核技術は極めて高度であり、それだけの技術を持つ国はほとんどなく、北鮮等から提供されなければ、簡単に拡散しないことを誰も言わないのでしょうか?
なぜ、尖閣や南西諸島方面はわが国防にとって最も重要であり、この地域の揉め事に米が介入する可能性はほぼゼロであることが広く伝わらないのでしょうか?
なぜ、わが国がシナの恫喝にニュークリアシェアリングで対抗すれば米も介入せざるをえなくなることに気づかないのでしょうか?
なぜ、F-2事故のさい、制服が政治に直接説明すればすぐ済むことを内局がからんだため1週間も時間がかかり、その間本土防空の任にあたるF-2全機が動けなかった、というブサイクな事態が発生したのに、この仕組みを改善できないのでしょうか?
・・・・
■閣下の真骨頂
国民の前からひたすら隠されてきた、戦後日本の中枢部に巣食う制服差別やめちゃくちゃな国防の実態を提示することで、閣下は、ただひたすら、国家の行く末が今のままだと暗いから、今のうちに手を打つ必要があるとシグナルを打っておられるのです。
閣下の真骨頂は、158ページにかかれている次の文にイチバンよく顕れていると思います。
<現職時代、私は内局の人達にこう言っていた。
「内局のあなたたちは、いま握っている権力を手放すのは嫌でしょう。でも内局の権限が大きすぎるこの状態はおかしい。我々の子どもや孫の世代になったら、あなたの孫が制服を着るかもしれない。
また自衛官の孫が内局にいるかもしれない。防衛省を一致団結して国家のためにがんばる組織にするため、いまのシステムを子どもや孫の世代に残すべきではない。市ヶ谷のひとつの組織として大臣を支えればよい」>
■非常事態と平時
非常事態に対処する、行動する組織がわが自衛隊です。
しかるにここでも、志方元陸将がおっしゃる「平時の極端な中央集権」が働いており、非常事態に対処できる仕組みになっていません。「何があってもひたすら上にお伺いを立てなければ動けない組織」になっているのです。
予期せざる事態に対処する・できるのが軍の真骨頂であり、軍にしかできないことです。
そのためには<一般の官公庁のように、やってよいことをポジティブリストで決めるのではなく、やってはいけないことをネガティブリストとして規定し、あとは現場の判断に任せることが必要だ。有事の際に想定されていない事態が起こったからといって、その都度上に判断を仰ぐのでは任務の遂行は不可能である>(P160~161)と閣下はおっしゃいます。そのとおりなんです。
ひとことでいえば、軍組織たる自衛隊は、指揮官が下に権限をもたせる組織であり、上位の人間が、権限を何でもかんでも抱え込む組織ではないということです。
それを支えるのが、国民の軍・軍人に対する敬意と信頼であろうと思いました。
■反米という人々
閣下の行動を「反米」とレッテル貼りする人もいると聞きますが、これは、盲人が象を触るたとえと同じで、真実ではないですね。
閣下のスタンスは徹頭徹尾「愛国」です。
米との距離は、同盟国ですから他の諸国より近いのは当たり前ですが、国益をめぐってその長さは当然変わってきます。
米もそうです。独立国家間の関係である以上、当たり前の話です。
「米が聞いたら怒りそうだ」と妄想の中で想像していたはことばに接した人が、ひとりで勝手に興奮して口に出しているのでしょう。そうでなければ悪意に基く反日宣伝工作のひとつでしょうね。
わが同盟関係の構築が、太平洋をはさんだ米以外にないことは誰の目にも明らかで、これに異を唱える国民はゼロに近いです。
わが国の姿は、腰を落とした懐の深い立ち姿であると思います。
背中は太平洋に、正面は大陸を向いています。
わが国の湾曲は、宿命的にそういう地勢条件をもっていると考えます。
米との同盟関係は、「太平洋を味方につけることが出来る」「後背の憂いを絶つ」意味で重要なんです。なぜかといえば太平洋は、わが国生存にとって決定的意味合いをもつからです。
おそらく中共は、太平洋におけるプレゼンス発揮を戦略目標にしていると思います。それさえできれば、熟した柿が落ちるようにカンタンにわが国が手に入るからです。南西諸島でわが国が何もしなければ、背後からの中共圧力を受けるときが遠からずくるのではないでしょうか。
豪海空軍の対中共軍備増強への素早い反応は、わが国が中共の勢力下に入ることにも備えていることを示唆しています。
すなわち中共の海洋進出でもっとも不利を受けるのはわが国だということです。
だからこそ、太平洋進出を図る中共の野望を、早い段階でわが国自身で阻止する必要と責任があるのです。
それが、わが空母保有・核武装の対外的意味合いだと、わたし個人は思っています。
海外との同盟関係は、自国の国防自立あってはじめて機能するものです。しかし国益という枠に両国とも縛られます。
日米同盟が、米にとっては米国を守るためのものであり、決して常にわが国を守るためのものではない、わが国は自分で国防を達成しなければならないという当たり前の事実を、本著は、改めて思い起こさせてくれます。
■オススメします
本著は、国民すべてが読むべき書です。
時・処・位を兼ね揃えた田母神閣下のことばは、無責任に走ることなく誠実です。
閣下の代名詞である「志は高く、熱く燃える」が形になった書です。
読む前は「もういいかな」と思っていたが、読むんでみると、いろいろなアイデアや考えが思い浮かび、読んだあとは、人に勧めていた。
そういう本です。
オススメします。
本日ご紹介したのは
『真・国防論』
著:田母神俊雄
出版社:宝島社
発行日:2009/5/4
http://tinyurl.com/cuoufe
でした。
次回もお楽しみに
(エンリケ航海王子)
追伸
本著の、桜をモチーフにしたなんともいえない上品な装丁と
上質な質感からは、本そのものを持つ喜びも味わえます。
本日ご紹介したのは、
『真・国防論』
著:田母神俊雄
出版社:宝島社
発行日:2009/5/4
http://tinyurl.com/cuoufe
でした
■もくじ
はじめに
第1章 防衛論
防衛論~国家の安全を考える
テーマ1 抑止力としての自衛隊のあるべき姿
国際社会は性悪説で眺めるべきもの
強いことが戦争を回避する
政治家自らが、抑止力を低くしている
いま何か起きても、黙って見ているしかない自衛隊
専守防衛では国を守れない
ゆきすぎの専守防衛
軍事力は外交交渉の後ろ楯
日本が侵略国家ではないことを認めた第一回バンドン会議
米軍に頼らなくてはいけない自衛隊
自衛隊の自立にアメリカは反対する?
自衛隊の現有能力
いま目の前で起きている問題
奪われた領土に対する問題意識
テーマ2 日本の防衛は自衛隊の手で
戦後を引きずったままの自衛隊
武器輸出を可能にせよ
日米安保のあるべき姿
自衛隊が持つべき攻撃力
攻撃力を備えた自主防衛ができるとき
核とはどんな兵器なのか
日本も核武装をするべきだ
テーマ3 日本が仮想敵国として備える国
自衛隊が注意している国とは
テーマ4 尖閣諸島を守るためには
尖閣諸島のいま
自衛隊が尖閣諸島でいまできること
テーマ5 北方重視から南方展開へ
いま、なぜ南方なのか
中国軍の統制はどこまでできているのか
南方をどう守るかが課題となる
テーマ6 沖縄米軍基地問題の解決策
沖縄米軍のいま
米軍には段々と引き上げてもらう
テーマ7 邦人救出部隊
特殊部隊の重要性
自衛隊の特殊部隊
■兵器用語解説
ABC兵器、AWACS、F-22、F-2・F-15戦闘機、SLBM、
SM3・PAC3、イージス艦
第2章 自衛隊を真の国軍にするために
自衛隊の前に立ちはだかるもの
テーマ8 自衛隊を阻むものは誰か
経済よりも自衛隊をグローバルスタンダードにすべき
自衛隊を国軍から遠ざけているもの
日本の文民統制
戦争を始めるのは文民
日本にしかない内局という組織
軍をつくるのは軍人の役目
自衛官の発言
内局の干渉
自衛隊弱体化システム
私が内局に憤慨したさらにふたつの大きな事件
防衛省改革
歴代防衛庁長官・大臣を比較する
テーマ9 守屋事件が起きた背景
事務次官がもつ大きすぎる権限
守屋という男の素顔
テーマ10 自衛隊の機密漏洩
軍法会議は必要か
機密漏洩事件で自衛隊が受けた影響
テーマ11 徴兵制の必要性
志願する者の士気
テーマ12 戦略ミサイルを配備するということ
求められる地対地ミサイル
■兵器用語解説
グローバルホーク、チャフ、熱線フレア、ディスペンサー
第3章 自衛隊に必要な装備とは?
自衛隊が世界に並ぶために
テーマ13 国産戦闘機はこうつくれ
開発の鍵は武器の輸出
他国の妨害にあっても輸出できるようにすべき
日本が開発すべき戦闘爆撃機
日本の総理の決断が必要である
テーマ14 ペトリオットでテポドンを落とせるか
命中率を決めるものは?
テーマ15 F-22ラプターは必要か
開発する姿勢が引き起こす効果とは
テーマ16 新型輸送機、哨戒機
輸送機の開発で広がる作戦範囲
テーマ17 Cー130
悪環境でも対応できる機体
C-130にかかる期待
テーマ18 空母
いま最も求められている艦艇
テーマ19 中国の原子力空母
中国の原子力空母建造計画
中国のねらい
日本にとっての脅威
テーマ20 ソマリア派遣でわかったこと
国が守ってくれる安心感が任務を遂行させる
テーマ21 地雷、クラスター爆弾
抑止力としての使い方がある
テーマ22 航空宇宙開発
情報戦を制することの大切さ
上空から把握する他国の動きの重要性
宇宙基本法で変わる日本の情報収集能力
テーマ23 ヒューミント
現代に暗躍する隠密たち
決して表に出ないヒューミント
■兵器用語解説
ソノブイ、心神、クラスター爆弾、ナイキミサイル、ハーキュリーズ
あとがき
本日ご紹介したのは、
『真・国防論』
著:田母神俊雄
出版社:宝島社
発行日:2009/5/4
http://tinyurl.com/cuoufe
でした