田母神俊雄 『自衛隊風雲録』

2019年2月6日

<「何故あなたは、テレビ朝日の報道を信じ、私たちが何ヶ月もかけて縷々説明してきたことを信じないのか」と訊いた。すると「空自の最初の対応がまずかったから問題が大きくなった」と言う。>
(P223)
<すると増田次官は私に「懲戒審議会の審理を辞退して欲しい」と虫のいい要望をしてきた。
私は「いや、それは出来ない。むしろ徹底的に審理して欲しい」と答えた>
(P249)
ここで紹介した文はそれぞれ第5章、第6章からの抜粋です。
この2章を読んだだけで
「やっぱりそうだったのか・・・」
とため息をついてしまいました。



こんにちは。エンリケ航海王子です。
国家エリートにとってもっとも必要なのは「使命感」だと思います。
「偏差値の高さや学歴、記憶力のよさ」ではありません。
使命感があるからこそ、地味な仕事にも真摯に取り組めるし、国家に命を捧げることもできるんです。
ではその使命感はどのように醸成されるでしょうか?
「不断の学びと実践」に尽きると思います。
このことが、本著を読むと良く分かります。
■著者はこの方です
この本は田母神閣下の最新刊です。
といいたいところですが、その後も本が出ているので新刊のひとつです。
田母神閣下について、あなたはすでにご存知なので、あえてご紹介する必要はないでしょう。
ただ、まだ閣下を知らない人に、このメールを転送紹介する方もいらっしゃると聞きましたので、本著よりの引用でご紹介します。
<田母神俊雄(たもがみ・としお)
1948年7月生まれ(60歳) 福島県郡山市出身。
防衛大卒業後、航空自衛隊に入隊。統合幕僚学校長、航空総隊司令官などを歴任。2007年、航空幕僚長に就任。アパグループの懸賞論文へ応募した作品が日本の過去の侵略行為を正当化する内容で、政府見解と対立するものであったことが問題視され幕僚長を更迭、定年退職する。>
個人的に、この紹介は不満ですね。
本の内容から見て、閣下の卒業小学校からの略歴データを、類書とは比べものにならないくらいボリュームアップして載せて欲しかったです。
内容がいいだけに、ここだけなんだか手抜きをしているようでとても残念です。
■本著は
ひとことでいいますと、「田母神俊雄 私の履歴書」です。
小学校入学時からいわゆる田母神問題で退役されるまでの閣下の人生が、時系列で記されています。
某新聞で掲載されているとされる、よく似た名前の連載と少し違うのは、すべてホンネでかかれていることと、内容が有機的で養分を吸収しやすいということです。
■おそらくは
編集さんの手が大いに入っているのだろうと思いますが、本著の中の閣下のことばは、他の本とは異質の分かりやすさで脳に染み透ってゆきます。
非常に読みやすい文面です。
読み手には、自衛隊理解、リーダーの責務、軍事理解、いまの国がおかしな状態になっていること・・・が、閣下の履歴とともに、砂漠に雨が降ったときのごとく脳髄に沁みこんでゆきます。
あの時こんなことがあった、私はこう感じた、行動した。だけで終わるような、
「経験した種々の出来事を回想しただけの日記的内容」ではまったくありません。
■いつも思うことなんですが、
閣下の一連の著作には、ひとつの強烈な柱があります。
内容云々ではありません。
書かれていることのすべてに「もっともな理由」が必ずかかれているのです。
だから読み手はナットクできるんです。
芸術家を除く優秀な書き手に共通するのは、「理由を表現するのが上手いこと」と言われています。
これが何を意味するかと言えば、
・説明主張していることの本質を底の底まで知り尽くしている
・読み手への敬意をもっている
・使命感をもって書いている
・ゴマカシがない
だから理由をうまく表現でき、読み手に伝えることができ、読み手の共感を得ることができる、ということです。
ひとことでいえば、読み手にとって魅力的な書き手ということです。
なにより、読み手から見て安心ですよね。こういう方って。
面白いもので、「もっともらしい理由」は読み手に必ず見破られます。
このような「読み手を舐めてかかる書き手」は、知らないうちにフェードアウトしてゆくものです。
■本著の読みどころ – リーダーシップ –
思いますに、本著には次のような特徴があります。
1.田母神閣下という軍人がどのように形成されたかという秘密が分かる。
1.田母神閣下のプライベートがはじめて公になっている
1.田母神閣下の履歴を通じて、過去にあったさまざまな出来事の裏話を知ることができる(来栖問題の背後にあったとされる金丸のカネ漁りの話など)
1.田母神閣下のリーダーシップ論が知れる
なかでも特筆すべきは第3章から第4章で、ここに描かれているのは、「田母神流リーダーシップ論」そのものです。
いわゆる田母神問題のとき話題になった、「航空自衛隊を元気にする10の提言」(「鵬友」(空自隊内誌))に関するエッセンスを紹介する第4章は、管理職さんや教員さん、将校予備軍の若い方にとって必読の箇所かもしれません。
ここで思い起こして欲しいのが、すでに過去の著書で紹介されてきた、シナ軍とのやりとりです。
この本でも取り上げられていますが、これは、国家エリートが発揮すべきリーダーシップの発露ということなんですね。
これは単なる閣下の自慢話じゃないんですよね。
本著を通じて、初めてこのことが腑に落ちる方も出てくることでしょう。
ちなみに知り合いの社長さんは、以前に鵬友を通じて閣下の「提言」を知り、早速自分でも実践されたそうです。
その効果が絶大であったことから、その後管理職全員に読ませ、企業文化として閣下のリーダーシップエキスを浸透させています。
この会社は、不況などどこ吹く風で、とても業績が好調です。
■角度を変えて
角度を変えて眺めると、本著には3つのメッセージがあると思います。
1.防衛省内局は、その歴史的役割を終えた
1.指揮官は、第2の戦場から逃げずに勝利することを追求すべき
1.すべての成果は、各級リーダーの信念・使命感にかかっている「リーダーは事なかれ主義に走るな!」
またある面から見ると、
本著は「自衛隊入門書 兼ねる 自衛隊事典 兼ねる 自衛隊国軍化に向けた啓蒙書」でもあります。
例えば「災害派遣」「治安出動」「防衛出動」で、わが自衛隊には実際何ができるのか?何が問題か?どうすればよいか?が書かれています。
こういう有機的な本は、読むたびにさまざまな発見があります。
7回読んだ時点で私には、3つの面が見つかりましたが、優秀なあなたでしたら、10も20も見つけることができることでしょう。
「タモちゃんの交通事故理論」というのも紹介されています。
これは、北鮮ミサイルに関する妄想で大げさに騒ぐ人向けのもので、
1.わが国では毎日交通事故で2~30名が亡くなっている。殺人事件では年間1200~1400名が亡くなっている。
2.地面に激突した通常弾頭ミサイル1発の威力は、直径10メートル余、深さ2~3メートルの穴を掘る程度。
3.だからミサイルが外で爆発しても、鉄筋コンクリートの建物の中にいる限り、死ぬようなことはまずない。
4.1991年の第一次湾岸戦争で、イラクがイスラエルの首都に41発のスカッドミサイル(北鮮製)を発射したが、死亡したのはわずか2名だった。
5.北鮮が保有するミサイルすべてがわが国に発射されても、交通事故はもちろん、国内の殺人事件よりも被害者は少ないと推測できる
6.だから北鮮ミサイルが1発着弾しても、東京中が火の海になることなどない
7.わが国では毎日交通事故で2~30名が亡くなっている。殺人事件では年間1200~1400名が亡くなっているが、車を規制しろ、警官を倍にせよとの国民運動は起きていない。
という内容です。
こういうはなしは、随所に出てきますよ。
■それともうひとつ
閣下はこれまでの女性遍歴(?)もさらりと記されています。
とはいえ、ドンファンや石田純一さんのそれとはぜんぜん違いますけどね。
奥様については、これまでのご著書でも、ちらりと触れられていました。
本著では、その奥様とのなれそめや、結婚をお決めになった理由がはじめて明らかにされています。
結婚されている男性は、本著を通じて、これまで以上に、とても閣下を身近に感じることと思います。
結婚後2週間で分かった、思いもよらない誤算・・・閣下も人間だったのですね。
わたしも、とても親しみを覚えました。笑
おそらくあなたの奥様も、閣下が奥様をお選びになった理由と同じで「●●」の方でしょう。閣下と同じ思いを共有できると思いますよ。笑
■もうため息はつかない
最初に私はため息をついたと書きました。
しかしいまは、そういう気分から程遠い現実の中にいます。
すべてのページから匂い立つ、閣下の深刻ぶらない爽快な人間性がかもし出す「いい香り」に包まれているからです。
本著の最後に閣下はこうおっしゃっています。
<一時は”夫婦野垂れ死に”を覚悟したが、人間万事塞翁が馬、想像以上の講演依頼やテレビ出演、対談、インタビューの要請をいただき、一息も二息もつけた。
ある週刊誌などは「田母神元空幕長の年収は1億円」などと無責任に囃し立てたが、いくらなんでもそれは大げさだろう。
ただ現段階で、望外な結果であったことは事実で、私は、それを、大好きなゴルフや大吟醸に費やすのでなく、私を支持してくださった皆様にお返しする方法はないか、と考えている。
具体的には、松下政経塾には及びもつかないが、田母神塾のような組織を準備し、ネットのみならず、フェイス・トゥ・フェイスの講座を通して、青少年の愛国心の涵養や、日教組の自虐教育で歪められた真の日本の歴史の復興に役立てることは出来ないかと考えている。
占領軍最高司令官マッカーサー元帥のように、戦後の日本に「憲法」という重い枷を残したまま「老兵は消え去るのみ」などと気取っているわけにはいかない。私の戦いは当分続きそうだ。
最後に、24万自衛官諸君の健闘を祈る!>(P277)
ブラジルに渡った帝国陸軍少尉の小野田寛郎さんは「自然塾」を残されています。閣下のご構想を心より応援します。
それにしても、古今東西優れた武人は「最後のご奉公は人づくり」ということで落ち着くようですね。
心をざわざわさせるような刺激的な題名ですが、読んで受ける印象がとにかく明るく、閣下の人柄がイチバン顕れている本だと感じます。
硬派な内容であることは間違いないのですが、これまでの本とはまったく受ける印象が違います。
新たな田母神閣下と触れ合える本著を、あなたにもオススメします。
ぜひ手にとってください。
本の手触りもとてもいいんですよ。
紙の質が適度にざらりとして、なんともいえないいい感触です。
オススメです。
今日ご紹介したのは

『自衛隊風雲録』
著者:田母神俊雄
出版社:飛鳥新社
発行日:2009/5/20
でした。
(エンリケ航海王子)
●もくじ
第一章 退役空将の優雅ならざる日々
 悩む前に現実を受け入れよ!
 現代の”武士道”をは何か
 三島事件と私
 政治将校団か文民統制か
 部下を庇うのが本当の指揮官
 中国に媚びる防衛大臣
 外国人記者クラブでの刺激的な問答
 アメリカに原爆を投下するか>
 ポジティブ。シンキングのための人間力
第二章 ノンポリ自衛官・青春編
 田母神小学校の優等生
 怯まず、誤魔化さず
 時、あたかも”政治の季節”
 訓練と部活、寄席の防大ライフ
 愛国心とは自然と涵養されるもの
 自衛官の階級はなぜ分かりづらいのか
 無念!パイロット試験不合格
 好かれるのではなく、愛されよ
 荷物を纏めて田舎へ帰れ!
 上司は部下に我儘を言うべし
第三章 世界史的激動の中で
 物言えぬ自衛隊
 国民の安全を守る行動がなぜ処分されるのか?
 返還間もない沖縄への赴任
 部下の手の平で踊ってやれ!
 責任感は任せる仕事で生まれる
 領空侵犯機など撃墜してしまえ!
 ”張子の虎”から”働く自衛隊”へ
 お邪魔虫大作戦
 自衛隊叩きの背景にあるもの
 左傾化していく保守政党
第四章 志は高く、熱く燃えよ!
 靖国に感動したラモス大統領
 日本弱体化の流れが進んでいる
 現在の価値観で過去を断罪し合うことの無意味
 田母神流組織論
   1.「80対20の法則」
   2.「一勤務一善」
   3.「報告の遅れを叱らない」
   4.「指揮官は少し抜けた位が丁度いい」
   5.「あれでいいんだ同好会」
   6.「訊くな!基準を求めるな!」
   7.「後輩には夢を与え、迷惑をかけない」
   8.「”えこひいき”はあって当然」
   9.「”大変だ!”指揮官になるな」
  10.「日本一を目指せ!」
  11.「やめる勇気と始める勇気」
  12.「身内の恥は隠すもの」
  13.「脱”茶坊主”宣言」 
  14.「攻撃は最大の防御なり」
  15.「私にも言わせて欲しい大作戦」
第五章 防衛省を壟断する”なんでも官邸団”
 中国総参謀部ナンバー2との歴史闘争
 なぜ日本は”世界のATM”になったのか
 ミサイル迎撃成功の確率は
 有事にアメリカは助けてくれるか?
 諸悪の根源”背広組”
 「邪魔だ!お前ら退いてくれ」
 守屋事件の裏側にあるもの
 CXエンジンの選定
 守屋次官とのファーストコンタクト
 「あたご」事故に隠された真相
第六章 実録・田母神更迭騒動
 東京大学での講演
 それは”私憤”で始まった
 統幕長は「バカやろう!」と怒鳴った
 礼儀も作法も欠いた策謀
 ”危険の確率”という考え方
 「非戦闘地」などありはしない
 日本にロックオンした無数の核弾頭
 日本核武装へのロードマップ
 戦いはまだまだ終わらない
今日ご紹介したのは

『自衛隊風雲録』
著者:田母神俊雄
出版社:飛鳥新社
発行日:2009/5/20
でした。