官邸主導の防衛省改革有識者会議に期待する

防衛省に家宅捜索が入りました。

米国で言えば、ペンタゴンにFBIが踏み込むようなあり得ない話ですね。
公明正大といえばその通りなのでしょうが、威信や秘密保護の観点では各自衛隊や同盟諸国軍の信頼を失う面も大きいでしょう。
でも、官邸主導での防衛省改革の有識者会議(*)には期待しています。
防衛省は、警察予備隊本部、保安庁、防衛庁を経て名前だけは省になりましたが、イデオロギー絡みの軍事忌避の観点が色濃く出た「日本の常識は世界の非常識」を絵に描いたような官庁です。
その典型が防衛省内局(以下「内局」と略す)です。
よく「参事官」制度が話に出ますが、その裾野には「部員」という鵺(ぬえ)のような官職があります。「部員」というのは旧参謀本部や海軍軍令部の参謀(参謀本部部員、軍令部部員)に倣ったもので、一人配置ながら管理職並みの権威と権限を持った企画・執行の官職でした。警察予備隊であった時代に「警察予備隊本部部員」の名称で自衛隊創世記の参謀職を勤めさせた制度が、現代まで続いているのです。
このポストは機能的に一見合理的なのですが、実は警察予備隊発足から防衛省になった今日まで「背広の官僚だけ」なのです。後に建前だけは自衛官でも良いことに緩和されましたがこれはカモフラージュに過ぎず、自衛隊の実情を何も知らない背広だけが、いわば「国軍最高司令部の参謀ポスト」を独占しているわけです。
防衛省の「防衛政策局」や「運用企画局」などの国防や自衛隊を左右する中枢を、部隊視察を一年に一回でもやることがあるかどうか、と言うような素人集団が机上の知識だけで仕切っているのです。
「制服の政治への関与を許さない」との大義名分の下に、自衛官と議員さん達との接触すら厳しく制限して、自分達に都合の良い知識しか政治家の耳に入らないようにしていますし、軍需品の調達は旧調達実施本部、軍事施設の建設は旧防衛施設庁という具合に、全て背広官僚が責任ある地位を独占していました。
そして数々の不正や汚職が生じたあげく両方とも廃止に到ったのですが、その実態は内局がそれら組織を取り込んで肥大化しただけです。
最近は災害派遣の関係で、地方自治体と部隊の直接交流は流石に大目に見るようになっていましたが、省昇格時のドサクサに地方防衛局なるムダ組織を作り、今後はこの分野にも膾炙しようとしています。今まで機能している各県の地方協力本部に屋上屋を重ねるもので、指定職の格上げや増加だけを狙ったさもしいものです。
このように本来の設立目的からズレて歪んだ組織・制度は早急に見直されるべきです。今回の事件はたいへん遺憾ですが、その代償として多くの国民に「自衛官以外に背広の自衛隊員がいて、彼等が防衛省を牛耳っている」ことが知れわたりました。「シビリアン・コントロールは政治統制で、文官統制ではない」ことも理解が進みました。その意味で、今回の官邸主導の改革は従来と異なり、内局のお手盛りでない知恵が出されるであろうと、期待するところ大なるものがあります。
以上、ヨーソロの管見でした。
(ヨーソロ)
【11/30 メールマガジン「軍事情報」より】
(*)メンバーは以下のとおりです。
南直哉([座長] 東京電力顧問)
竹河内捷次退役空将(日本航空インターナショナル常勤顧問・元統合幕僚会議議長)
五百旗頭真(防衛大学校長)
小島明(日本経済研究センター会長)
佐藤謙(世界平和研究所副会長・元防衛事務次官)
田中明彦(東大教授)
御厨貴(東大教授)