予備役制度

2019年2月6日

即応予備自衛官徽章国の継戦能力を支える最も重要な基盤は、現役の人的損害を補充するための予備役制度です。しかし我が国には、予備役制度は存在しません。
それに近い形が予備自衛官制度ですが、これは「(予備役制度が)必須の制度なのに欠けているので、現実には有事になると元自衛官に声を掛けて再志願してもらうしかありません。現実の有事計画もそうなっています。つまり強制ではなくて、「義をみてせざるは勇無きなり」に期待する「お願い」でしかありません。」(元幹部)というのが実態です。
有事の際に国が組織的な軍事能力を継続する力を「継戦能力」といいます。具体的には、予備役の確保、作戦資材(燃料や弾薬)の備蓄・集積・輸送能力の保持を意味します。広いくくりでいえば「民間防衛、通信・交通網の整備確保、損害発生時の復旧能力」など、緊急時の国家の危機管理体制も含まれます。
わが自衛隊では、諸外国と比べて弾薬の保有量も少なく、人的側面にあたる予備要員(予備自衛官・即応予備自衛官・予備自衛官補)は総計でわずか5万名程度というお粗末な状況です。自衛隊の現役隊員数は約24万人です。現役予備役比は約20%ですね。五名の現役が倒れたら予備役ひとりが補充されるという計算です。そのうえ予備自衛官補にいたっては防衛招集の対象外です。
もっとも異常だと思うのは、現役よりも予備役が少ないということです。一流とはいえない国でも、こんなことはありません。
主要な島国で比較します。
英国:現役216890人に対し予備役は241520人。(現役予備役比は111%)
アイルランド:現役10460人に対し予備役は14875人。(現役予備役比は142%)
オーストラリア:現役52872人に対し予備役20800人(現役予備役比は39%)
インドネシア:現役302000人に対し予備役400000人(現役予備役比は132%)
ニュージーランド:現役8660人に対し予備役は10800人。(現役予備役比は124%)
フィリピン:現役106000人に対し予備役は131000人。(現役予備役比は123%)
台湾:現役290000人に対し予備役1657000人(現役予備役比は571%)
といった感じです。(数字は “Military Balance 2006” による)豪州を例外とすれば、すべてが現役定員を上回る100%超えです。
防衛招集の対象となる予備自衛官は後方支援任務につきます。前線に出るのが即応予備自衛官です。しかし、今後即自の体制は7000名体制へ半減することになっています。予備役の中でも即応予備役(わが国では即応予備自衛官)は、いざというとき前線に出動する現役に準じる存在ですから、装備の扱いや肉体的訓練も並みの訓練では間に合いません。ですので訓練期間も通常の予備役と比して当然多いわけです。普段は民間人として生活するので、彼らが其の準備を心おきなく果たすためには、勤務先の理解が不可欠です。
しかし、今の日本社会では、即自への理解以前に、訓練のため会社を休むこと自体への理解が少なく、彼らおよびその家族に対する生活保証が全く与えられていません。国防に対する社会の成熟度が普通の国と全く違います。その背景にあるのが「日米同盟があるからいいんじゃないの」というノー天気な感覚でしょう。
勘違いしている人が多いようですが、日米同盟は日本を守るための軍事同盟ではありません。米にとっては「日本にある米権益を守る」のが日米同盟の意義です。日本が攻撃されたから直ちに米軍が駆けつけてくれる、ということは「絶対に」ありません。あくまで、独立国家日本の軍隊である自衛隊が事態に対処するのです。(これは「核の傘」に関しても同じことと思います)
他の国のために自国民の命を奪うリスクを、どこの国が犯すでしょうか?
いい例があります。朝鮮戦争の折、介入してきた人民解放軍に押された米軍と韓国軍は、一時期釜山近くにまで追い詰められました。何とか押し戻すことはできたのですが、その立役者となった韓国軍の白大将(当時は少将)は、なんと自身が先頭に立って戦闘に参加しました。
将官が先頭に立って突撃するなど正気の沙汰ではありませんが、これは、同盟国米軍に対する韓国軍の意気・姿勢をアピールするためにやむをえずしたことでした。そうしなければ米軍が動いてくれなかったのです。下手をすれば全軍総崩れになるリスクを負った行動でした。
将軍は回顧録のなかでこのことを振り返り、「同盟国だからといってこちらの思うとおり動いてくれるものではない。同盟関係というのはそんな生易しいものではない。当事者たる自分達が必死に頑張らなければ何もはじまらない」という趣旨のことばを残しておられます。自国を守るのは自国にしかできないことなのです。
また、我が国の継戦能力が低いと判断された場合、最悪、「こんな国守る必要があるのか?」と同盟国である米にまで疑念を持たれ、米軍の支援を受けること能わず、ということも想定されます。周辺国の対日政策も根本的に変化するでしょう。
継戦能力を筆頭で担保する「予備役制度」はことほど左様に重要なのです。社会風土が「コスト計算、金儲けにしか目が届かない人たち」ばかりで予備役を養う余地がないのならば、税金で予備自衛官や予備補、即自そしてその家族の生活保障をしてでも予備役制度を定着させる必要があると考えます。
自分の国は自分で守るのだという気概のなさ、予備役・軍事に関する民間の無知、国家に対する意識の成熟度が十分ではない社会、を如実に示す鏡が予備役制度の実態であると考える次第です。
(参考)
・「防衛問題の基礎知識」防衛問題研究会編 H8
・「H17 防衛白書」 防衛庁 H17
・「国防用語辞典」防衛学会編 S55
・「即応予備自衛官・ひらやんのブツクサ独り言」
  ・予備自、即自の読者の皆様からいただいたこれまでのメール
我が国「自衛官予備定員」の数(「H17 防衛白書」より 050331現在)
・予備自衛官(3自衛隊合わせて):47900
・即応予備自衛官(陸自):9004
・予備自衛官補(陸自):995
予備自衛官制度を確保する意義
国家の緊急事態にあたって、マンパワーを「急速かつ計画的」に確保するための制度が予備役制度。我が国の場合、これに「類似する」制度として「予備自衛官・即応予備自衛官・予備自衛官補」制度を設け、有事に備えている。(参考:「H17 防衛白書」)
予備役制度の説明
「常備兵力のほか、有事、現役軍の補強及び戦闘損耗の補充等の要員として予備兵力を確保するために設けられている制度。現役勤務終了後に服務する制度と、現役勤務に服することなく当初から予備役として服務する制度とがある。
両方式とも義務制と志願制度とがある。各国は、その国情に適した予備役制度を設けており、一般的に徴兵制の国は現役の基本兵役に引き続き、志願制の国では現役任期終了に引き続き、一定期間予備役に服務する義務制度をとっている。
日本の予備自衛官制度は、任期満了して退職した自衛官のうち志願した自衛官を採用する制度をとっている」
(「国防用語辞典」朝雲新聞社 昭和55年 より)