[新訳]孫子

2019年2月6日

<本著は「孫子」(兵頭集註)です。「ナメるように読む」本です。同時に「ナメるように読める」本です。とにかくわかりやすい内容です。本文、「兵頭いわく」は目からウロコ満載で、これまでの訳書はなんだったんだろう?と思ってしまうほどです。数千年の時を超えて生き残った古典のエキスが脳内に染みわたってゆく快感を、あなたも味わえることでしょう。>(Amazon.co.jpレビューより)

<上智の人が情報戦争にたずさわれば、大きな国益が約束されたようなものです。
これこそが国防の勘所です。国軍は、まさにそのような人の工作や分析を頼り
に思いながら、動くことができるのであります>(P208)

本著を読んだ人の中から、将来、わが国防戦略を担う人が出てくることは間違いないでしょう。
おそらくそれは、あなたです。
本著を読めば、孫子から養分を摂取でき、対シナ戦略で優位に立てるかもしれません。
今もシナの中共は、孫子で説かれている原理を実際に使っています・・・
■古典
古典を紐解くのは、数千年にわたって人間が血を流しながらつかみとってきた智恵のエキスを、「今を生きる」人間が「今から将来に向けてのベクトルのなかで」活かすためではないでしょうか?
以前も書きましたが、
学者・評論家の任務は、
ベクトルを過去に向け、人間が行なってきた行動をまとめて整理整頓し、五里夢中の未来に向けて行動する「今を生きる人間」のため、行動の拠りどころとなる教義・エキスを抽出すること。と私は考えます。
学者たちは過去の歴史のなかで、教義やエキスをまとめたものをさまざま遺しました。しかし千年単位で受け継がれているものはほとんどありません。
それこそが「真の古典」の名に値するのでしょう。
「孫子」はそのひとつで、武の分野では誰もが手にとる古典の中の古典とされています。
しかし兵頭さんは「孫子」について、
軍事・政治思想の断片記録の集成であり、数十人が作成に関わっている。
かかわった者のなかには三国志で有名な曹操も含まれるとし、
<一天才の統一された思想として読もうとするのではなく、想像を絶した古代から届けられた、無数の軍事/政治思想の断片的な化石の標本集として、味読した方が有益でしょう>(P8)
との注意喚起を忘れずにしておられます。
「孫子思想原理主義」信者のような人をよく見かけますが、こういう方は兵頭さんのこの言葉をよく噛みしめる必要があるでしょうね。
■古典を養分にするために必須の「訳註」
時代が変わると風俗も変わります。
言葉も変わるでしょう。
しかし、古典訳注の分野では時代への対応が必ずしもまともに行なわれていないように思います。
「孫子」が、”触れれば切れる”活きた教訓満載の書であることは多くの人が知っています。しかし実際手にとって読んでみると、字句の説明ばかりでイキイキしたところがすこしもありません。
「つまらないので読む気がしない」のは、正常な感覚だと思います。
その最大の原因は、軍事・戦略・国防や読み手の意識に精通していない漢文学者が注釈をしていることにあります。
これまで出た「孫子」は、言ってみれば「漢文学者のたまご」向けに作られた「漢文を読み解くため」の「漢字解釈の正確さに重きを置いた教科書」に過ぎない、といって過言ではありません。
それはそれでいいと思うのですが、われわれ庶民が古典を通じて得たいのは、「現代に活かせる智恵のエキス」「将来に活かせる触れれば血が出る教訓」なんです。
「孫子」のような古典から養分を得るには、書かれた時代背景と現代のそれとの段差を埋める必要があります。
それがないと、錯誤の積み重ねや知識コレクターになって、揚げ足とりしかできない「孫子思想原理主義者」になるのがオチです。
わが行動に活かすための養分にはなりえません。
ではどうすればいいのか?
当該分野の今と歴史を深く知り、その本質を把握できている人の
訳註(解説+訳)
を通じて味読することです。
今回ご紹介するのは、まさにその見本といって差し支えない本です。
■訳注・兵頭二十八
訳註にあたった本邦唯一の軍学者・兵頭二十八さんはあとがきのなかで
<「孫子」の抽象的なテキストを読んでどのような具体的なシチュエーションをおもいうかべるか?
これは、解説者個人の軍事的経験やそれまでの読書ハンイが大きく関係せざるを得ない。「若いときは、これは分からなかった・・・」との感慨を、わたくしはガムを噛みながら何度かつぶやいて首を振った。>
と書かれています。
古典の訳註にあたっては、その人の力量がモロに出ます。
「専門的知見」プラス「幅の広い知性」
この二つで相当の高みにないと古典の訳註はできないように思います。
六読後の私が思いますに、本著はその水準を十分クリアしています。
(書き込みやページの繰りすぎ、角の折り返しなどで、いま本はボワボワになってます)
■分かりやすさの比較
本著最大の特徴は、
とにかく訳文が分かりやすく正確であること、そして、「兵頭いわく」ではじまる注釈が訳文と有機的な連携をもち、孫子のエキスを摂取しやすくする触媒の役目を果たしていることです。理想的なスタイルですね。
分かりやすさについて、実例をお見せしましょう。
現在もっとも広く流通している岩波文庫の「孫子」(金谷治訳注)と、同じ部分の訳を比較してみます。
○金谷訳(p91)
<およそ戦争の原則としては、将軍が主君の命令を受けてから軍隊を統合し兵士を集めて敵と退陣して止まるまでの間で、軍争ー機先を制するための争いーほどむつかしいものはない>
○兵頭訳(p100)
<遠征戦争では、共同体の命を受けた司令官が、おびただしい人員・部隊を集めととのえ、キャンプではおびただしい車輌が、轅(ながえ)を交えるほどに混雑したありさまになります。
そこまでは誰でも何とかなるのですが、さて難しいのは。ここから敵との合戦を有利にもっていく手なのです>
いかがでしょうか?
■本著の価値
本著の価値は、
1.時代に即した世界一分かりやすい本文和訳。内容も具体的かつ正確
1.本文を補足する「兵頭いわく」ではじまる注釈に著者の分厚い教養、独創性、具体性、エンタメ性を感じる
3.うえの両者が絶妙のバランスと有機的なつながりを保つことで、本全体が養分の摂取しやすいかたちに仕上がっている
の3点に集約されると感じます。
「ナメるように読む本」であると同時に、読みやすく「ナメるように読める本」であることが嬉しいです。
軍学者・兵頭二十八という最適の注釈者を得たわが国の幸せというべきでしょう。
■とくに注釈
今回「孫子」は、信頼できる本邦唯一の軍学者・兵頭さんという、これとない注釈者を得ました。
おかげで「孫子」はようやく、今生きるわれわれが家にいながら学び、養分を得ることのできる、本来の意味での古典になれた気がします。
「(遠ー遠)&(近ー近)の法則」
「内線機動」
などの、ちょっとした軍事知識
深い歴史教養からにじみ出てくる批判精神
兵頭流軍学のエキス
など、この注釈は本当に読む価値があります。
こんなことも書いてありますよ。
<「孫子」を味わうには、もっと原始人的な世界へ戻ろうと努めねばなりません。それによって、未来の核戦争を勝ち抜くための柔軟な思考力も身につきます>
(P72)
■その他感じたことなど
1.私はこれまで、
「なぜ兵頭さんは兵学者ではなく軍学者を名乗っておられるのだろう?」とずっと疑問でした。
いみじくも本著に、その理由の一つと思われる記述がありました。
こういうひそやかな発見も、読書の喜びのひとつです。笑
1.軍事の専門性を中心に紹介しましたが、注釈に当たった兵頭さんには、シナで出土した木簡本にいたるまでの、視野の広い、重厚な漢文素養と基盤があります。本著は従来の「漢文解釈」に対するひとつの批判の試みにもなっています。
1.わが先達は、シナ文明の良い部分を吸収するため、原典である漢文を読み解き、エキスを吸収するための独創的手法を開発しました。それが「返り点」です。そのおかげでわが江戸期の漢学は、シナをはるかにしのぐレベルにあり、その遺産は現在も受け継がれています。
今生きる者としてはこの資産をしっかり受け継ぎ、後世に引き継いでゆきたいものです。
■すべての方にお薦めします
エキスが頭脳に染み込んでゆく。
こんな実感を伴いながら読めた古典は、この本が生まれて初めてです。
余談ですが、本著と同じシリーズですでに出ている
「ローマ帝国衰亡史」
を見つけたときはビックリしました。
N氏の日本語訳があまりにひどかったので、立ち読みだけで同翻訳本を捨て、原著を買って読むことにしました。そうしているとPHPから新訳が出ました。
分かりやすくてとても欲しかったのですが、高くて買えなかったため、ちんたらちんたら原著を見ていました。そしたら出ていたのです。新書版が。千円でお釣が来るのにこの読みやすさ・・・。涙
本著はそのシリーズの第二弾です。
これは素晴らしいシリーズになりそうです。
次回配本も楽しみです。
1.本文訳が時代に即した世界一の分かりやすさ、具体性と正確さを持つ
1.「兵頭いわく」ではじまる注釈の独創性、具体性、エンタメ性が楽しい
1.うえの両者が絶妙のバランスと連携をもち、本全体が養分の摂取しやすい有機的なかたちに仕上がっている
だから
1.本のエキスが頭脳に染み込んでゆく実感を伴いながら読める「武の古典」
こういう本が出たことを本当に嬉しく、誇りに思います。
本著はそういう本です。
<戦前の中国国民党から今日の中国共産党までひきつづいている反日教育や反日宣伝はまさに、愛国心のないシナ大衆を「死地」に投じて支配力を固めるための工作の一環です>(P6)
本著は、シナの行動の本質を察知し、それに対処するためにも必要な教養です。
すべての方にお薦めします。
今回ご紹介した本は
『[新訳]孫子』
兵頭二十八(訳)
PHP研究所
2008/4/7発行
でした。
お求めは、
http://okigunnji.com/s/sonshi/
もしくは、
お近くの書店でどうぞ。
(エンリケ航海王子)
■以下目次を紹介します。
はしがき 核時代の政治にも通用する古典兵法
第一編 計
第二編 作戦
第三編 謀攻
第四編 形
第五編 勢
第六編 虚実
第七編 軍争
第八編 九変
第九編 行軍
第十編 地形
第十一編 九地
第十二編 火攻
第十三編 用間
あとがきにかえて 本書の作成経緯
今回ご紹介した本は
『[新訳]孫子』
兵頭二十八(訳)
PHP研究所
2008/4/7発行
でした。
お求めは、
http://okigunnji.com/s/sonshi/
もしくは、
お近くの書店でどうぞ。
次回もお楽しみに。
追伸
あなただけへの内緒ばなしですが、
P121、173、177~178、207は必読です。
ぜひご自身でご確かめください。
http://okigunnji.com/s/sonshi/
「服が好き。」