【ハロランの眼 太平洋の真中で】米海兵隊 重要性増す災害救助活動

産経新聞
http://sankei.jp.msn.com/world/news/120906/amr12090611030003-n1.htm
2012.9.6 11:01 [米国]
 2011年3月、日本の東北地方を地震と津波が襲ってから数時間以内に、南西の島、沖縄に駐留する米海兵隊は人々を救い、がれき除去の手助けをするため、荒廃した地域へと向かう途上にあった。他の米軍部隊もすぐに追随した。
 今日、災害救助は海兵隊や陸海空軍にとり通常任務になった、と米海兵隊総司令官、エイモス大将は話す。彼は最近のハワイ訪問中、太平洋を背に「そこに任務がある」とうなずいた。
 最近まで米軍の任務は、国益を守るために力と、しばしば暴力を使うことだった。まれに災害救助に向けられたが、その仕事をこなす艦船、航空機、装備を持ち、医療や兵站(へいたん)部門の要員がいるとの理由だった。
 だが、軍人たちは主要任務から引き離されることに時々、腹を立てた。輸送機から緊急支援の食糧を降ろしながら「自分はこんな仕事のために入隊したのではない」と不平を漏らしたのも一人だけではない。
 だが、それは変わり、「人道支援・災害救助(HA/DR)」と呼ばれる活動が、軍隊に不可欠な任務となった。米太平洋軍の新指揮官、ロックリア海軍大将はホノルルの司令部で、人道支援・災害救助は最優先事項の一つだと記者団に語った。
 ロックリア氏は太平洋軍司令官としての2~3年の任期に触れ、「自然災害なしにこの旅を終えるのは難しいだろう」と述べた。
 エイモス大将は、アジア太平洋地域では、年平均7万人が自然災害で死亡し、世界の他のどの地域よりも多いと指摘する。
 国連の報告書はエイモス氏の見解をさらに詳細に、「(アジア太平洋地域で)過去10年間、年平均2億人以上が自然災害に遭い、7万人以上が死亡した。この数字は、それぞれ世界合計の90%と65%に当たる」と分析。「都市化の進展、移住の傾向、人口増加により、人々は以前よりリスクの高い地域に住むようになり脆弱(ぜいじゃく)性を高めている」としている。
 最近の災害救助で最初の軍事的な取り組みは1991年、バングラデシュでの「海の天使作戦」だった。サイクロンの来襲で13万9千人が死亡、500万人が家を失い、農業中心の経済に不可欠な家畜100万頭が死んだ。海兵隊4600人と水兵3千人の任務部隊は、救助の命令を受けたとき、艦艇5隻でペルシャ湾から東へインド洋を航海中だった。
 当時の司令官のスタックポール元中将は「われわれには短時間で海から陸上に展開する能力があった」と話す。海の天使作戦は推計20万人の命を救ったとされる。
 さらに大規模な救助活動は2004年、インドネシアのスマトラ沖地震で派遣された。地震と津波によってインド洋岸の各国で20万人が死亡し、他に14万人が行方不明となったとされ、50万人が家を失った。
 米空母エーブラハム・リンカーンと十数隻の艦艇に加え、偵察機、ヘリコプター、医療・工兵チームが派遣された。在米インドネシア大使館は後に、「インドネシア人は米国の政府と国民が示した善意と寛大さを忘れない」と述べた。
 日本の東北地方などいくつもの救助活動から得られた教訓は、緊急事態対処計画や訓練、即応任務部隊に取り入れられた。例えば、オーストラリア北部ダーウィンで訓練する海兵隊は、教訓の成果だ。
 エイモス氏は「海兵隊員はオーストラリアの兄弟とともに人道支援・災害救助の任務に備え、実行する準備ができている。将来、必要が生じた際、ダーウィンから行動する米海兵隊は理想的な位置にいる」と話す。
 エイモス氏は、沖縄の第3海兵遠征旅団司令官のティンバーレイク准将も、災害救助に緊急対応できる部隊と要員を指定するよう命じられていると話す。准将は「どこでも守れる究極の内野手だ」と。
                   ◇
【プロフィル】リチャード・ハロラン
 ホノルル在住のフリージャーナリスト。ニューヨーク・タイムズ紙の東京支局長、ワシントン駐在の安全保障問題担当記者などを歴任。