皇位継承問題は拙速に処理すべからず –日本列島波高し(7)

2019年2月6日

 今回は軍事ではありませんが、最近の気に掛かることを書いてみます。
女性・女系天皇を容認する方針
 首相の私的諮問機関「皇室典範に関する有識者会議」(座長・吉川弘之元東大学長)は、「安定的な皇位継承を維持するため継承順位を天皇の長子(第1子)からとし、女性、女系天皇を容認する」方針を固めた模様です。
確かに国民の多くが将来に愛子内親王殿下の女帝ご即位を期待しているように思われます。しかし問題は、その後に民間男性の血を引くことになる天皇を果たして望むかどうか・・・?
 今の制度である男系男子のみの皇統が“現在の皇族方だけでは”絶えかけていることは否定できません。でもそれは現代だけの話ではないように思います。近代だけ見ても十八世紀の初めに閑院宮家が創設されたのも同じような事情で、119代の 光格帝は 後桃園帝の急な崩御により7親等を隔てた閑院宮家の第6王子ながら末期御養子を経て即位されました。
 徳川将軍家なども同様ですが、幼児生存率が低くて、側室を何人でも置けたあの時代でも先祖の血筋を守るにはたいへんな苦労があったようです。まして現代は少子高齢化の時代。貧乏人の子沢山と言われた庶民でさえ今や兄弟姉妹は減り、親戚や分家は消え、祖先の祭事も少なくなるばかりです。
 これに加えて若者の心情の問題もあります。私の周囲にいる青年達で「お見合」をした人を殆ど知りません。封建的という間違った教育のせいか、この先祖伝来の合理的な知恵を男女ともに毛嫌いしており、例えお見合した場合もそれを口に出せない風潮が強くあるようです。上記の有識者会議は女系天皇を容認する方向のようですが、その前提として果たして民間から結婚して皇族になる男子がいるでしょうか?
 私には極めて難しいように思われますが・・・。
 今上皇后陛下や皇太子妃殿下の例は女性のお輿入れで、それでも様々なご苦労の程を側聞いたします。これから先、民間から皇室に娘が嫁ぐことを是とする親がいようとはとても思えません。いわんや一度社会人になった男子においてをや、です。
皇室の藩屏が必須
 もし皇統を遠い将来まで安定的に維持しようとすれば、単に「女系天皇を容認する、女性皇族の宮家創設を認める」等という付け焼き刃なことでなく、
「皇室の藩屏(*1)」として、幼少のときから特別な立場を自覚して生活する人達の存在が必須であると感じます。一部には元皇族の皇族復帰や準皇族制度の創設等の話も出ているようです。元皇族の方々のみ名目的な爵位を復活することでも良いかも知れません。単に皇統の証であるだけで何らの特権も付けなければ、余分な予算の支出もなく、憲法14条の違反にはならないでしょう。
女系天皇の重大な問題
 一方、「女系天皇」には重大な問題があります。言うまでもなく天皇の地位は国民の総意に基づくもので、単なる三種の神器の遺産相続者ではありません。
我が国の長い歴史の中でいかなる権力者にも簒奪(*2)されることのなかった皇位が単なる婚姻によって他姓に移った場合、多くの国民はその方を天皇として心から奉戴するでしょうか?
 我が国では明治初期まで夫婦別姓で、生まれた子供の姓は父親の姓でした。最近も別姓論議が盛んです。女系天皇の皇子さまは「彼(彼女)は婿養子の子だよね」ということにならないでしょうか?
 こうした会話は庶民の家督相続においてさえザラに出る話です。もちろん誰も「そんなの天皇と認めない」とまでは言わないかも知れません。しかし徐々に緩慢に皇室崇敬の念が薄れていく事態や、かつて臣籍降下された元皇族方の中から“真の皇統”を名乗る方が現れる(担ぎ出される)ようなことになるかも知れません。これではまるで南北朝の再来です。
万世一系の皇室のお姿こそ日本国の核心
 皇室は我が国の長い歴史の中で幾度となく翻弄され、その時々の権力者に抑圧されても、皇室崇敬の念は何故か不死鳥のように甦ってきました。その権威は権力とは無関係に民族の心底に深く根差したもので、混乱した国内でいつの間にか求心力の核となって浮上して来ました。このことを決して軽く見るべきではないでしょう。国民の多くは代々の皇室の無私のお姿に民族の宗家を心情的に感じていて、代々崇敬しているのではないでしょうか。そしてその根っ子は遠い伝説の昔からの「万世一系」にこそあるのではないでしょうか。
 上の例であげた 光格帝は先帝から七親等も離れていましたが、上皇時代を含む62年の御代は尊皇の思想を大いに高められ、崩御に際しては戒名である院号ではなく、900年以上も途絶えていた天皇号を復活、諡号(*3)されました。これから見ても核心は古からの皇統に属するか否かで、単なる血の濃淡ではないと思うのです。
 愛子様の即位は大歓迎です。女帝は過去にも多くの先例のあることです。問題は「皇統以外の男子が背の君(*4)になられる」ことです。前述したように現状では民間から皇室に入る男子が出現する可能性も乏しいうえ、もしおられたとしても皇統がその馬野骨男殿下の子孫に移ったとき、国難
に際して民族の求心核たり得るか、いささか疑問です。
たかだか数百年の歴史しかない欧州王室を範とする意味なし
 ヨーロッパのたかだか数百年しか続いていないような国王家の単に家督相続的な襲位を範として、二千年続く皇位の継承を誤ることがあってはなりません。愛子様のご成長までまだ時間はあるのです。今は皇室の藩屏を増やす策こそが第一ではないでしょうか。いずれは憲法改正もあるでしょう。この問題を拙速に処理して民族の将来を損なうようなことがあってはならないと、強く危機感を抱く今日この頃です。
以上、ヨーソロの管見でした。
(ヨーソロ)
(*1)後ろ盾になって盛り立てて支える人達の意
(*2)帝位を奪い取ること
(*3)崩御にあたって、天皇の称号を贈ること(昭和天皇の「昭和」など)
(*4)「背」は「せ(兄)」の敬称。特に夫のことをさす
[参考] 光格帝の記事は「幕末の天皇」(講談社選書メチエ)を参照しました。