海の地政学の父、A・S・マハンの言葉です。

マハンは19世紀の米海軍軍人。海の地政学の父とも言うべき人で、帝国海軍の秋山真之や佐藤鉄太郎など、日露戦争で活躍した俊秀たちを教えたことでも知られます。軍事コミュニティや海軍ファンの間ではだれもが知る戦略家です。主著『海上戦略史論』はシーパワー、海軍戦略を考えるうえで欠かせぬ古典として今も読まれ続けています。

石ノ森章太郎さんの「マンガ日本経済入門」が生まれたのは1986年11月です。

1986年といえば昭和61年。バブル景気が始まった年です。

その時に出たこの本は、経済という固い分野を、マンガという手法で解説したエポックメイキングな作品でした。

あなたもご存知でしょう。

理屈ではなく直観で把握できるマンガは、実はこの種の役割を果たすうえで最適の存在ですよね?

 

「日本経済入門」というマンガは、経済という分野のイメージすら変えてしまったとさえいえるのですから。

もしかしたら、あなたも仕事の場でマンガを使った啓蒙活動の必要性を主張されていたかもしれません。

 

さてわが国は海国です。
海の常識、海からの視座、海の中のわが国、海からの国防安保という視座を持つ必要があります。

ミレニアム規模の「時代の大転換点」のさなかにある今を受けてか知らずか、海の軍事をめぐる入門書はこの20年で飛躍的に増えました。

ところが、増えたはずの知識に見合う冷静で具体的で正鵠を射た意見がなぜか出ません。

国家観、国防安保観が極端から極端にぶれる感情的な姿勢から日本世論は成長できておらず、世論を輿論に深める識者の活動も事実上壊滅状態だからでしょう。

入門を謳った本ですら、難しすぎて消化できない、という知的状態から抜け出せていないのも現実でしょう。

 

これはすなわち、入門の前段階、入門の入門レベルのものが必要だということです。

そこで冒頭の「マンガ日本経済入門」です。

まずマンガを読んで、そのうえで本に進む。
同じことがなぜ経済にできて軍事にできないのでしょう?

書き手がいなかったのでしょうか?
マンガのストーリテラーがいなかったのでしょうか?

 

そうかもしれません、、、

しかしいまは、正規将校としての軍務経験を持ち、ストーリーをしっかり描けるマンガ家はいます。

この方です。

石原ヒロアキ(本名:米倉宏晃)
1958年、宮城県石巻市生まれ。青山学院大学卒業後、1982年陸上自衛隊入隊。化学科職種幹部として勤務。第7化学防護隊長、第101化学防護隊長を歴任。地下鉄サリン事件(1995年)、福島第1原発事故(2011年)で災害派遣活動に従事。2014年退官(1等陸佐)。学生時代赤塚賞準入選の経験を活かし、戦争シミュレーション漫画『ブラックプリンセス魔鬼』および自衛官の日常を描いた『日の丸父さん』、2018年『日米中激突!南沙戦争』、2019年『漫画 クラウゼヴィッツと戦争論』(並木書房)を発表。現在、グデーリアンを題材に執筆中。クラウゼヴィッツ学会会員。

 

本著は、17~20世紀の海戦史だけでなく、主要国の海軍戦略の変遷もつかめる「シーパワー」の入門書といって差し支えのないたマンガです。

日露戦争で大活躍した秋山真之や佐藤鉄太郎も薫陶を受け、今に至るも影響力を失わないマハンを中心にした物語の中で「シーパワーの何たるか」が直観的に把握できる「実に優れた」作品です。

海軍戦略?

シーパワーとは何か?

海軍力は何のためにあるのか?

 

という読者の問いに応える作品であり、これまでも今もこれからも変わらない「シーパワー」の実相、核心をつかめる他に類を見ない漫画です。

海国・日本に住むあなたにとって、わが周辺の危機的状況への対処に関する入門書や各種番組、動画に接する前に目を通してほしい一冊です。

わが国をめぐる「シーパワー」であなたが最も気になるのは、「中共の海洋進出」ではないでしょうか?

これについて、元横須賀地方総監の堂下哲郎 元海将は巻末解説のなかで、

「いかなる国家でも、大陸国家であると同時に大海洋国家になることはできない」というのはマハンの有名なテーゼだ。……老練な海洋国家であったイギリスは圧倒的なシー・パワーを確立してパックス・ブリタニカと呼ばれる海洋覇権を握った。……このようなマハン流の考え方に急速な海洋進出を図ろうとする中国が注目し、その理論づけに利用したことは当然ともいえる。……急速に軍事力を拡大し、なりふり構わぬ海洋進出を進めてきた中国は、大陸国家でありながら大海洋国家となれるのだろうか。」

との実に興味深い言葉を寄せられています。

このことばのなかに、いまマハンを知る必要が書かれています。

 

海洋国家であることと大陸国家であることの両立は不可能。

とするマハンのテーゼは、これまでの歴史で証明されています。

ドイツ帝国しかり
ソ連しかり
大日本帝国しかり

はたして中共は?

という興味深いテーマの実験が歴史という実験台で今行われている最中なのです。

 

 

『漫画 マハンと海軍戦略』

をひとことでいえば、

「シーパワー」とは何か?

をA・S・マハンという米海軍軍人を通して描き出した描いた海の軍事教養マンガです。

クラウぜヴィッツに続く「軍事古典マンガシリーズ」の二作目です。

 

 

冒頭に登場するのは、幕末の『海国兵談』で有名な六無斎 林子平(はやし・しへい)です。

幕末の日本の目覚めを生み出した、といって過言ではないこの大先達の名前と、マハンの漫画で出会えることになるとはまさか思いませんでした。

石原さんの、林子平がマハンに影響を与えたのでは? というアイデアは実にユニークで面白いです。

もちろん石原さんオリジナルの想像の産物ですが、、、
今世界を動かす「シーパワー」という考え方が、林子平に端を発し、マハンを通して歴史に残ったのではないか?と想像すると、誠に新鮮で、実は的を射ているのでは?と感じ、ワクワクしますw「シーパワー」への親近感も随分違ってきます。

 

 

石原さんはマハンについて、

<マハンの海軍戦略の本質は変わることはありません。これはクラウゼヴィッツの『戦争論』に匹敵する>
<マハンの教えは今も生きています。とくに海軍戦略の本質を捉えた『海上権力史論』は、呉市海事歴史科学館の戸高一成館長が言われるように「常に新しい時代背景の中で読まれるべき書物」です。>

と書かれており、マハンの『海上権力史論』を海軍戦略論の必読書、と位置づけておられます。

 

わが国は海国です。海からの守りに関わる戦略が国家には必須不可欠です。

国政政治に投票する主権者としては、不変で変わらぬ、海の守り、シーパワーの何たるかに関する核心だけは、きちんとつかんでおきたいですよね。

おかしな世論操作や世論誘導に右往左往されない海の守りへの見識だけは、素人であろうとも、主権者としてわきまえておきたいですよね。

 

元将校ならではのリアルさ、正確さ、信頼度が、他の漫画では例を見ない本作品の圧倒的な特徴といえます。

特徴の一つに、17世紀から20世紀に至る主要海戦が描かれているところがあげられます。
トラファルガー、四日海戦、ナイル海戦、日露戦争海戦、日本海海戦、米西海戦、などなど

それだけでなく、現在の中共に至る世界のシーパワー、海軍戦略の流れを途切れることなく描いているところ、なかでも、日露戦争以降今に至るシーパワーをめぐる
概況解説がもおススメできる点です。ポケットシーパワー事典としてもおススメできます。

 

登場人物は、林子平、マハン、秋山真之、ナポレオン、ネルソン、島村速雄、加藤友三郎、藤井較一、ゴルシコフなどなど、あなたも名前をよく知る人々です。

 

個人的に島村速雄元帥(日露戦当時は大佐~少将)の登場はうれしかったです。帝国海軍で一番好きな人ですからw 好意をもって描かれているところも伝わってきてうれしかったですね。

兵学校七期の加藤、島村、藤井の三羽烏に触れられていたシーンも印象深かったです。

 

 

石原マンガならではの、

・正鵠を射た戦場の実相描写
・心憎いまでの人情の機微、気配り
・家族・仲間・祖国・人間への温かな視線
・綿密な時代考証とツボを押さえた軍事解説

を味わいながら、
マハン、トラファルガーなど歴史上の海戦、林子平や秋山真之、ナポレオン、ヴィルヌーブ、ネルソンなど歴史上の人物を通じ、『シーパワー』という考え方がいかに育まれ今に至っているか?の全貌と核心をナポレオン戦争から今に至る海軍戦略を通じて感じ取ることができます。

・わかりやすい
・面白い
・ツボを外さず正鵠を射た内容
・軍事記述が信頼できる、
・わが国の生き残りに欠かせぬ「シーパワー」への理解が進む

と5拍子揃った本邦初のシーパワー解説マンガです。

こ17~20世紀の海戦史だけでなく、主要国の海軍戦略の変遷もつかめる「シーパワー」の入門書でもあります。

日露戦争で大活躍した秋山真之や佐藤鉄太郎も薫陶を受け、今に至るも影響力を失わないマハンを中心にした物語の中で「シーパワーの何たるか」を直観的に把握できる「実に優れた」作品です。

海軍戦略?

シーパワーとは何か?

海軍力は何のためにあるのか?

という読者の問いに応える作品であり、これまでも今もこれからも変わらない「シーパワー」の実相、核心をつかめる他に類を見ない漫画です。

海国・日本に住むあなたにとって、わが周辺の危機的状況への対処に関する入門書や各種番組、動画に接する前に目を通してほしい一冊です。

知り合いやご家族、ご友人へのプレゼントにも最適です。

では中身をみていきましょう。

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作者ノート

 アルフレッド・セイヤー・マハンは、軍艦が帆船から蒸気船に、木造艦から装甲艦に、短射程の舷側砲から長射程の回転砲塔に、通信手段が旗から無線に変わるという技術革新の時代を生きたアメリカ海軍軍人です。

  マハンの海軍戦略の啓蒙書は、その価値を変えることなく、いまも読み継がれています。現代は当時よりもさらに航空機やミサイル、潜水艦、そして電子戦や宇宙、サイバーなど軍事技術が発展していますが、マハンの海軍戦略の本質は変わることはありません。これはクラウゼヴィッツの『戦争論』に匹敵するものです。

  クラウゼヴィッツと違い、マハンにはほとんど実戦経験がありません。南北戦争に従軍していますが、遠くで砲声を聞くくらいで砲火を交えていません。その後、巡洋艦の艦長などを務めましたが、顕著な戦歴はないのです。

  マハンは軍人というよりは研究者でした。多くの本から得た知識をもとに海軍戦略理論を創り上げ、多くの著書を残しました。そして、その優れた分析力により、アメリカだけではなく、ドイツ、日本、イギリス、そしてソ連や現代の中国にまでその影響力は及んでいます。

  とくに日本では明治の海軍軍人に多くの示唆を与えました。マハンは幕末の日本を訪れ、武徳を尊び礼節を尽くす独特の文化、庶民の教養の高さ、四季折々の豊かな自然に感動しました。そして日本人に親近感を覚え、海軍戦略の真髄を多くの優秀な日本海軍軍人に惜しみなく与えました。

  日本の「海軍戦略の祖」ともいえる林子平の『海国兵談』とマハンとの関係は筆者の想像ですが、ペリー提督は日本に来る前に林子平の著書『三国通覧図説』を研究しており、当然マハンも林子平の存在を知っていたはずです。

  マハンは日露戦争で日本が勝利したのち、日本に対する警戒感を強め、敵愾心を持ち始めました。当時の大統領セオドア・ルーズベルトが熱心な日本支持者から日本の敵対者に変わったのはマハンの影響があったのかもしれません。

  前述したように、マハンの教えは今も生きています。とくに海軍戦略の本質を捉えた『海上権力史論』は、呉市海事歴史科学館の戸高一成館長が言われるように「常に新しい時代背景の中で読まれるべき書物」です。

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目 次

第1話 海国兵談 
第2話 海上権力史論 
第3話 四日海戦 
第4話 ナイル海戦 
第5話 トラファルガー海戦 
第6話 日露戦争 
第7話 日本海海戦 
第8話 ドイツ帝国の挑戦 
第9話 シーパワー 

解説:中国はマハンのテーゼを覆せるか?(堂下哲郎・元海将)
作者ノート 
主な引用・参考文献 

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いかがでしょうか?

「古典」の名に値する本に描き出されている戦史や軍事史、軍事理論は、過去の遺物ではありません。今も脈々と息づく、今に活かせる軍事の血液なのです。

マハンもそうです。

今も活きているからよけいに面白いんです。


『漫画 マハンと海軍戦略』
石原ヒロアキ(著)

発売日 : 2020/9/25
四六判208ページ
出版社 : 並木書房