米の国家情報見積(NIE)

2019年2月6日

三日に公表された国家情報見積(*)が、イランの核兵器開発は二〇〇三年の秋時点で中断されていると分析していることで大きな波紋を呼んでいますが、六日のニューヨークタイムズが、次のようなリーク情報を流しています。

・政府がNIEをまとめたのは当局が今夏、核兵器開発に関わるイラン軍内部文書を手に入れたためだった
・これには、二〇〇三年秋、核弾頭等の兵器設計に向けた取り組みが上官の支持で突然取りやめられたことに対して一部の軍関係者が不満を漏らしていることなどが書かれていた。
・米中央情報庁(CIA)は、このメモ自体が国連安保理による制裁回避を狙った情報工作の疑いありと見て合同検討特別チーム(「レッドチーム」)を作って審査したが、最終的にホンモノとの判断を下した。
NIE報告をめぐっては、各方面でいろいろな動きが出ています。
イラク戦争開戦前に国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)委員長としてイラクの大量破壊兵器の有無について検証に当たったブリクス氏は、
「米は強い批判を受けたイラク戦争の二の舞を避けようとした」と述べています。
イスラエルのバラク国防相は四日、NIE報告に関するコメントで、二〇〇三年秋にイランの核兵器開発が停止されたことは認めながらも、停止されたのは一定期間で「我々が知る限りおそらく再開している」との見方を示しています。
ロシアのラブロフ外相は五日、イラン核問題に関する新たな国連安保理決議案を検討する、と述べています。あわせて、プーチン大統領が四日、イラン核の最高責任者であるジャリリ最高安全保障会議事務局長との会談で、ウラン濃縮作業停止を要請したことも明らかにしています。
イランのアハマディネジャド大統領は五日に行なった演説で、「(NIE報告は)イランにとって偉大な勝利。イラン国民が核開発で正当な道を進んでいることを米情報機関が明白にした」「この報告は米が行き詰まりから脱出するためのものだが、諸大国に対するイラン国民の勝利宣言でもある。イランの敵にとっ
て決定的な打撃だ」「米欧は新たなゲームを仕掛けようとしても、イラン国民は一インチたりとも後退することはない」と述べています。
おそらくNIE報告も影響していると思われますが、五日に開かれたOPEC総会で原油の増産見送りが決まっています。サウジとインドネシアは増産の意向だったようですが、イランやベネズエラなど他の加盟国の多くが増産見送りに回ったそうです。
⇒多くのメディアは「これで米はイランを攻撃できなくなった」としていますが、果たしてそんなノー天気な問題で片付けていいのでしょうか?
思うのですが、イランが核武装への道を歩んでいることは周知の事実です。
たぶん米はイスラエルにイラン空爆という貧乏くじを引かせたいだけなのでしょう。
わが国のシーレーン確保は、より困難な状況になったと見る必要があるのではないでしょうか?
(*)”National Intelligence Estimate: Iran – Nuclear Intentions and Capabilities”の原文はこちらで
 http://www.odni.gov/press_releases/20071203_release.pdf
※国家情報見積(National Intelligence Estimate)とは?
National Intelligence Estimates 国家情報見積;
米中央情報局(CIA)等16個の情報機関及び専門家の分析結果や情勢判断を総合的に記述した戦略情報見積、大統領等に提出され通常は“Top Secret”;
’02/10の報告ではイラクが「大量破壊兵器(WMD)開発中」と指摘し翌年の対イラク開戦の根拠となったがWMDは戦後も発見されず「根拠なし」と批判され情報機関改革を招く、
’06/09には「イラク戦争がジハード(聖戦)を標榜するイスラム過激主義を拡大させた誘因」とした内容がメディアに流出しブッシュ大統領は異例の一部公開を実施 <情報戦>
【出典 コモ辞書】