【第76講】スペイン語文法入門―兵法的外国語学習への誘い―(その54)

(注:文中の疑問文冒頭にある「?」は正確には「?をさかさまにした文字」です
が、テキスト形式では変換できないため、「?」としています)
今回は、使い勝手のある”命令”についての表現を学びましょう。
“命令”のキーワードは・・・

命令を発する側の”発令者”、それとその発せられた命令を受け取る側の”受令者”、
そして、これら”二者の間の関係”・・・があげられましょう。
発令者と受令者との二者の関係から命令についてのいく種類かの表現を生み出している
のです。
よって、命令に関する表現は、命令を発する者=「私」と命令を受け取る相手の「お互
いの立場」(雇用関係で上司・同僚・部下など)次第で「タメ口(口語的表現)」に
なったり、丁寧・尊敬・謙譲などの敬語的表現になったりする訳なので、命令を受け
取る相手がどんな相手か?で幾つかの表現を学べばよいのです。
☆命令とは?
命令・・・とは、発令者と受令者の関係(社会的、階級的などなど)で次のような段階
構造になっているものです。
例えば:
1)あごをしゃくって対象事象の遂行、処理を命じるもの。(言語無し)
→その時その場の人間関係で、どうするのかが決定されます。
2)「オイ!」とかけ声で対象事象の遂行、処理を命じる。(言語有り)
→その時その場の人間関係で、どうするのかが決定されます。ここら辺までが、所謂、
発令者と受令者の間に流れる「空気を読む」ということで、気をきかしているのか、そ
うではないのか、アタマの良い悪いが取り沙汰されるところでもあります。
3)「あんパン!」と名詞一語(他動詞省略、名詞は対格)によるもの
→解釈はその時その場で「あんパンを食え」、「あんパンを買って来い」などになりま
す。名詞一語を用いますので、その時その場の人間関係の構築が無くても、一見さんで
通用する便利さがありますが、仲間内などの親しい間柄ならいざしらず、全く初対面の
人に使用すると礼を失するものですし、余計な紛争が生じる原因にもなりましょう。
4)「あんパン買ってこい!」と名詞と動詞を用いるもの
→名詞と動詞を用いて表現するので、何をどうするのか?表現内容が明瞭です。人間関
係の全くない一見さんにも使用が可能ですが、動詞の活用次第で相手によっては親しみ
よりも無礼を意味する場合があります。「コラ、ガキ、言葉遣いに気をつけな」とか、
「一体、誰に向かってほざいてやがるこのヤロー」とかいったセリフが帰って来る場合
もありましょう。
5)「会長、責任を取って自決してください」と”丁寧”に言うもの
→要するに文が長くなると、それだけ丁寧になる・・・ものです。こちらは全く面識の
ない一見さんにも使って差し支えありません。”~ください”という言い方は、それだ
け相手を尊重し表現が丁寧になっているものです。
では・・・命令の表現はランキングがあるのが分かりましたが、その根本とは一体何な
のでしょうか?
上述の全ての命令を見ると、受令者の立場(オマエ、貴方)に差はあれど・・・表現に
おいて共通するテーマがあります。
要するに・・・
それは・・・話者(=私)の願望なのであります。
命令とは・・・自分が=発令者が相手=受令者に対して自分の願望を直接言葉でぶつけ
て自分の願望を達成する段階を踏むことです。よって、最低、話しかける相手がいない
と成立しません。
しかし・・・自分の願望と言ったって・・・「会長、責任を取って自決してください」
というのは、自分の願望ではなく、みんなの総意のようです。が、もし、会長さんが
「ワシは、やはり立場上、事後処置に全力をあげたいのだ。ワシに最後のチャンスをく
れ!退職金も欲しいし家族も孫もいる・・・お願いだから!」なんて言われると
“ムカ~”と来るものですね。
結局は、発令者=私の願望に繋がってくる・・・これが命令の根本です。
命令の表現とは・・・自分の願望を伝えるところから、話者の「願望の気持ちの問題」
ということで、法(モード)の概念が含まれているのです。
この願望の気持ちを伝えるところだけの”法”が昔の印欧語では独立していて、動詞の
活用も別に存在していた時期もあります。このような文法の名残が「命令法」という
名前で残っていたりもするのです。
また、”命令”ではない自分の願望の伝え方には:
○「~していただけませんか?」とか言う相手の意志に主導権を持たせる方法。
スペイン語では、?Podria usted + 不定形?
○「~したいのですけれど」と自分がへりくだる表現で相手に自分の願望を伝える方
法。
スペイン語では、Me gustaria + 不定形.   Quisiera + 不定形
○「~していただけるとうれしい、~していただけると有り難いのですが」
スペイン語では、Me alegraria de que + 接続法・過去.(日本語っぽい言い方。
外国人にはダイレクトに言った方が通じやすい。)
○「~しましょう」と第一人称複数(私たち)を用いる方法。
スペイン語では、Vamos a + 不定形.   または、接続法・現在・第一人称・複数
での表現(今回、習う項目でもあります!)があります。
本当は、命令の表現を使うよりも、命令ではない自分の願望を伝える方法の方が柔らか
く聞こえますし、命令されているという気分が発生しない分だけ受令者において動作の
停滞や躊躇、あるいは事後のシコリの軽減などいろいろと効果がありましょう。
しかし、命令とはその時その場のシチュエーションから、それなりの効果が発揮される
ものであることは間違いのないことです。
あなたは、時と場を選ぶこと・・・これが重要です。
☆”命令法”と”命令形”?
では、”命令法”といった場合には・・・もとより、印欧語の世界では、命令する際に
命令を表す活用語尾が存在しているのが普通である・・・その活用語尾が命令法と言わ
れるのです。
そして、”命令形”といった場合には、命令する際に使う動詞の取っている語形(直説
法現在とかとは異なった活用語尾の付いている形態)を意味します。
例えば、英語の場合には動詞の原型を第二人称(you)に向かって使いましたが、この
場合、動詞の語形は、原型と同じ形を用いている・・・というような場合です。
スペイン語では、命令を受け取る相手の人称によって幾つかの表現があります。
☆スペイン語では?
スペイン語では、名詞や副詞句のみで慣用表現になっているもの:
!Manos arriba! (手を上げろ!)
!Al suelo!    (床に伏せろ!)
!Quieto!     (じっとしろ! 動くな!)
!Atencion!     (気を付け!)
!Fuego!       (撃て!)
などが簡単な表現として先ずあげられますが・・・動詞となると・・・
第二人称・複数(vosotros)に対してのみ特別の動詞の活用形があるだけなのです!
ここだけが”命令法”と言えます。その他の人称(=受令者のこと)に対しては、今ま
で習った法(モード)と時制(テンス)を援用するだけです。
よって、スペイン語では、”命令法”や”命令形”というよりは「命令の表現」と言う
言い方の方がよいかもしれません。
何故なら、他の人称に対する活用は、他の法と時制の活用を拝借しているだけであるか
らです。
☆スペイン語の”肯定命令”(~しなさい)の作り方
先ずは、肯定命令から学んで行きましょう。命令を受ける相手の人称によって異なりま
す。命令の要点は、相手に向かって「しっかりハッキリ明瞭に」動詞の活用の部分に
力点を置いて発音する・・・これが必要です。
ア)第二人称・単数(tuに対して):
「直説法現在・第三人称単数形」を用います。日本語訳の注意として、第二人称である
が故に、タメ口っぽく捉えた方が理解し易いでしょう。和訳の場合、敬語では訳さない
ようにしてください。
Habla. (hablar) 話せ、しゃべれ
Come. (comer) 食べろ、食え
Sube. (subir)  登れ、上がれ
となります。
また、ten(tener 持つ)、ven(venir 来る)、pon(poner 置く)、haz(hacer する)の
ように√語根だけにしてしまうもの(綴りの上でhazのみ注意してください)と変則パ
ターンとなるdi(decir 言う)、ve(ir 行く)のようなものがあります。が、数は大変
少ないので安心してください。
イ)第二人称・複数(vosotros)に対して
不定形語尾(-ar,-er,-ir)の最後の”-r”の部分を”-d”に替えるだけです。この
“vosotros”に対しての命令は、全く「不規則動詞」が無いのでとても簡単です!
Hablad.   (オマエらしゃべれ)
Comed.   (オマエら食え)
Subid.    (オマエら上れ)
Venid a la fiesta.   (君たちパーティにおいで)
Decid el secreto.    (テメー等隠し事を言わないか)
ウ)第三人称・単数(usted)に対して
「接続法現在・第三人称・単数」を利用します。一般的にustedを付けて言った方が
丁寧さが増します。丁寧な表現なので・・・”~してください”と訳してください。
Hable usted un poco despacio. (少し、ゆっくり、お話しください。)
Coma usted la comida japonesa. (和食をお召し上がりください。)
Suba usted esta escalera. (この階段をお上りになってください。)
Diga usted la verdad. (本当のことをおっしゃってください。)
Venga usted a las cinco. (五時においで下さい。)
エ)第三人称・複数(ustedes)に対して
「接続法現在・第三人称・複数」を利用します。一般的にustedesを付けて言った方が
丁寧さが増します。丁寧な表現なので・・・”~してください”と訳してください。
(ここでは、しつこく、「あなた方」を付けて訳しています。)
Hablen ustedes.   (あなた方お話しになってください。)
Coman ustedes.   (あなた方お召し上がりください。)
Suban ustedes.   (あなた方お上りください。)
Digan.   (あなた方おっしゃって下さい。)
Vengan ustedes.   (あなた方おいで下さい。)
※ウ)とエ)では、”por favor”(英語の”Please”)を文の前、あるいは文の後ろに
つけるとさらに丁寧さが増してきます。
Digan ustedes la verdad, por favor. (どうか本当のことをおっしゃって下さいま
せ。)
2)与格・対格人称代名詞の位置について
与格・対格の人称代名詞と共に使用する時は、動詞のすぐうしろに続けて書きます。
その際、「元の活用している動詞のアクセントの位置を保持するため」に、アクセント
符号を書き足さなければなりません。
例)”dar”(あげる)を用いて、tu、vosotros、usted、ustedesの順番に展開。
平叙文 命令 与格・対格使用 ・
Tu me das un libro. Dame un libro. Damelo. (それをくれ)
Vosotros me dais un libro. Dadme un libro. Dadmelo. (それをくれ)
Usted me da un libro. Deme un libro. Demelo. (それをください)
Ustedes me dan un libro. Denme un libro. Denmelo. (それをください)
3)再帰動詞の命令について
再帰動詞の命令には再帰代名詞の位置に注意しなければなりません。しかし、与格・対
格の人称代名詞の位置と同じでよいのです。
再帰動詞の命令は次の通りです。ここでは”levantarse(起きる)”を例に用います。
アクセント符号の使用するところ、vosotorosのところでは、語末の”-d-“が脱落して
しまいます。
君(tu) Levantate.             起きろ。
君たち(vosotros) Levantaos. ( Levantados “-d-“が脱落) オマエ等起きろ。
あなた(usted) Levantese.             起きて下さい。
あなた方(ustedes) Leantense.             起きて下さい。
※!Vete!(irse):あっちへ行け、うせろ、いね、消えちまいな・・・と言う表現は、
現地へ行くとよく聞こえて来ますが、憶えておいて損はないのでここで憶えておいてく
ださい。
4)第一人称・複数(nosotros)への命令について
「~しましょう」の表現です。「接続法現在・第一人称複数」を用います。
例)
Hablemos.    話しましょう。
Comamos.    食べましょう。
Subamos.    上りましょう。
Digamos.   言いましょう。
Vengamos.   来ましょう。
しかし、口語では:
Vamos a + inf.(不定詞)
の形が好まれます。
例)
Vamos a hablar.
Vamos a comer.
Vamos a subir.
Vamos a decir.
Vamos a subir.
※再帰動詞の場合:
Levantemonos. 起きましょう。
ですが・・・一度習った知識なら・・・”Levantemosnos”になります。しかし、
“-mos”の語末部分の”-s-“が脱落し、再帰代名詞nosが後ろにひっつくのです!
その他の例)lavarse (洗う)   Lavemonos.   (×Lavemosnos)
※irse: Vamonosとなり、意味は、帰ろう、立ち去ろう、行っちまおう・・・となりま
す。
☆スペイン語の”否定命令”について
~スルナ(第二人称・単数/複数)
~シナイデクダサイ(第三人称・単数/複数)
~スルノヲヤメマショウ(第一人称・複数)
という種類になっています。
1)否定命令の作り方は次の通りです:
公式)
No + 接続法・現在(相当する人称に合わせる).
例)
tu No hables.     (話すな)
vosotros No hableis.     (オマエ等話すな)
usted No hable usted.   (話さないで下さい)
ustedes No hablen ustedes.  (あなた方話さないで下さい)
nosotros No hablemos.     (話すのはよそう)
また、与格・対格の人称代名詞は動詞の前におかれます(再帰代名詞も同じです。)
例)
No me lo des.   (僕にそれを与えないで=そんなもんいらないよ)
No te levantes.   (起きるな)
No os levanteis.   (オマエ等起きるな)
No se levante usted.  (起きないで下さい)
No se levanten ustedes. (あなた方起きないで下さい)
No nos levantemos.    (起きるのはよそう)
次回は、長文解読の再、辞書に見当たらない単語と遭遇したら・・・その解決法となる
語形成について話しをいたします。お楽しみに!
今日はここまで。
Hasta luego.