【第73講】スペイン語文法入門―兵法的外国語学習への誘い―(その51)

(注:文中の疑問文冒頭にある「?」は正確には「?をさかさまにした文字」です
が、テキスト形式では変換できないため、「?」としています)
今回、一通りの活用の知識が無ければ解読できないのが外国語の原典講読ですが、この
原典講読が出来るように・・・”条件文”(要するに、英語の「仮定法」と内容は同じ
ものです)を学びましょう。

動詞の活用に関する事柄を学び終えると、あなたが英語の学習では、”最も”最後に
なって習ったことでありましょう「仮定法」の表現が出てくるところは、スペイン語で
も同じことです。
文にはパターンがありますので、パターンの中で、どの活用をどう使うか?に意識を
集中しておいてください。
☆条件文について
条件とは、そもそも特定の立場が確定すると同時に現れて来るものです。立場は、大凡
において単数(一つ)ですが、通常、条件になると複数は存在しているものです。
この条件の方をこちらから・・・相手に対して意図的に操作したり強制したりすると
(例えば複数の条件を単数にしてしまうこと)、相手の思考と行動をこちら側の思う
通りに統制することが可能となります。
これは、戦略、情報、兵法に関するお話しです。
しかし、文法でいう「条件文」とは・・・一つの文で言っていることが他の文で言われ
ることの成立/不成立に関わる内容となっている・・・即ち、常に原因と結果のセット
で表現されるパターンになっています。(~さんが○○○ならば、○○○する・・・と
いう表現になります)
例えば、「政治家たちがノーブレス・オブリージュを実践するならば、選挙民の信頼を
得るでしょう」といった具合に、ノーブレス・オブリージュの実践と信頼の獲得が
セットになっています。
☆条件文の構造について
接続詞の”Si”(if もし)を使用して、次の公式に単純に当てはめるだけで結構
です。
例)
Si + 主語 + 動詞, 主語 + 動詞.
(モシ、~ガ○○○スルノナラバ、~ハ、○○○スル。)
この”Si+主語+動詞,”の部分を「条件節」と言います。
次の”主語+動詞”の部分を「帰結節」と言います。
条件文とは、二つの文から構成される”複文”の構造を取るのです。
ex.
Si piensas bien, comprenderas lo que intenta el enemigo..
もし、君がよく考えるのならば、敵の意図していることが分かるだろう。
(lo que + 主語 + 動詞=主語が動詞しているコト)
☆条件文のパターン
いろいろと条件を提示して・・・ああするのだ、こうするのだと断言したり仮定したり
するのが条件文なのですが、話しの内容が「現実を軸」として展開するものと「仮想を
軸」として展開するものの二つのパターンがあります。
ア)現実的条件文
条件節の箇所で、実現の可能性が大きい条件(話者の確信や客観性からの保証がある)
が述べられる時の条件文です。
条件節における法と時制の種類、帰結節における法と時制の種類がペアになって展開さ
れますので、条件節ではどういった活用が、帰結節ではどういった活用が使われるの
か?確認してマスターしてください:
A)条件節で現在または未来の事柄を述べる場合
 条件節:Si+直説法・現在
 帰結節:直説法・現在(または未来)
ex.
1) Si Juan se levanta mas temprano, no llega tarde a la clase.
もしフアンがもっと早く起きるなら、(彼は) 授業には遅刻しません。
2) Si consigues una ametralleta, podras defender mas facilmente.
 もし君が短機関銃を買えば、もっと簡単に防御できるでしょう。
B)条件節で現在や未来のある時点で完了したとみなされる事柄を述べる場合
 条件節:Si+直説法・現在完了
 帰結節:直説法・未来完了/現在完了
ex.
1) Si has juntado bien los libros, el reportaje sera bueno.
 もし、君が上手に本を集めているなら、レポートはよいものになるだろう。
2) Si has juntado bien los datos, habras escrito un buen reportaje.
 もし、君が上手に本を集めているなら、よいレポートを書き上げていることだろう。
C)条件節で過去の事柄を述べます・・・但し、帰結節は、過去の慣習的行為を表す場
合に限られています。この場合、いささか難しいですが、条件節にも帰結節にも具体的
な過去の一時点を示す時の副詞(ayer, anteayer, la semana pasada, etc.)を使うこと
ができません。
 条件節:Si+直説法・不完了過去
 帰結節:直説法・不完了過去
ex.
1) Si no hacia mal tiempo, dabas un paseo por el parque.
 天気が悪くなかったら、(いつも) 君は、公園を散歩したものだった。
2) Si tenias tiempo, ibas a la biblioteca y leias libros.
 君は、時間があったら、図書館へ行って本を読んだものだった。
☆非現実的条件文(反実仮想の表現)
条件節の箇所で、実現が難しい条件が示されるか、または事実と反対の仮定が示される
ものです。
突き詰めると、話者の仮定、仮想なので、言っている内容は本当のことではないの
だ・・・ここがミソです。
(スペイン語の検定試験で4級以上受験するなら、現在における反実仮想の表現と過去
における反実仮想の表現は、是非ともマスターしておいてください。)
A)現在や未来での実現が困難な事柄(実現性にネガティヴ)または現在の事実に反対
の事柄を述べます。
 条件節:Si+接続法・過去(-ra形/-se形)
 帰結節:直説法・過去未来
ex.
1) Si yo fuera ella, no me casaria con tal hombre.
 もし、私が彼女なら、そんな男とは結婚しないのだがなあ。
2) Si no hubiera agua, aire ni sol, no podriamos vivir.
 もし、水も空気も太陽もなかったら、我々は、生きられないだろう。
3) Si yo estuviera en aquella zona ahora, iria a matar a los ladrones..
 もし、私が今、あの地帯にいるんだったら、泥棒共を殺しに行くのだがなあ。
[応用読み物:『孫子』〈第十一篇 九地〉より”呉越同舟”] Si me preguntan; “?Es posible hacer a las tropas capaces de una coordinacion
tan estrecha?” Yo respondo; “Es posible”.
Porque aunque los hombres de Wu y de Yueh se odien, si se encontrasen juntos
en un barco que fuese juguete de los vientos, colaboraran como la mamo
derecha con la izquierda.
語釈)
・Si me preguntan もし、私に(三人称複数主語が)尋ねたら→もし、次のような
ことを尋ねられたら(受動の表現の一種です。)ここでは、「:」は、「次に述べるよ
うなこと」という意味です。
・Es possible + 不定形 = It is possible to ~ ~することが可能である
・hacer a+ 人を表す名詞(対格→ヲ) → ~を(対格ヲ)・・・と為す
・las tropas( troopers ) 兵士たちヲ
・capaz de ~ → ~の能力を有するもの 複数capacesになっているのは兵士las
 tropasと関係しているから( capazは、英語のcapacity等と語源が同じ) ここで
 は、las tropasを”capaces de ~”とすることが可能なのか?と尋ねられている。
・coordinacion → 連携、チームワーク
・tan estrecha とても緊密な(coordinacionを形容しているので女性・単数の語尾)
・Yo respondo ( responder ) → 私は答えます
・Es possible. → それは可能である
・Porque → 何故なら~だから
・aunque + sub. タトエ~デアロウト
・hombre de ~ → (所属が)~の人
・Wu → 呉
・Yueh → 越
・los hombres de Wu y de Yueh → 呉と越の人たち
・se odien( odiarse 憎しみ合う→再帰動詞の相互用法) ここは、aunque +sub.
 なので、「たとえ憎しみ合っていたとしても・・・」という現実とは反対の仮想を
 述べている
・si se encontrasen → 条件文(現実の反対) もし、遭遇したとしたら
(encontrarse → 遭い合う→再帰動詞の相互用法)
・juntos → 共に、一緒に
・en un barco → 一艘の舟において
・que fuese juguete → queは、関係代名詞(英語のthat) fuese → serの接続法
 過去形。Aunque~以下の時制の一致で接続法過去となっている。意味は、「jugete
 (おもちゃ)であるところのbarco」→ 「おもちゃになっている舟」 ”~.que
 fuese juguete”となっているのは、ここでは、si se encontrasenの箇所で接続法・
 過去を用いているので “時制の一致”で接続法過去を使用
・~ de los vientos → 風の~(風の複数形に注意)
・colaboraran → 彼らは協力するだろう ここでは、動詞”colaborar”の直説法・
 過去未来形で”colaborarian”と表現するのでは・・・?と考えてしまいますが、
 もし、”colaborarian”を使うならば、「協力するでしょうにね(ホントはしない
 よ!)」という仮想を言ってしまうことになります。colaboraranという直説法・未
 来形で表現することで、将に来たらんとする時間の流れの中で協力が必ず実現するこ
 とを表現(=断言)しているのがここの重要ポイントです。
・como → ~のように、~の如く
・la mamo derecha → 右手
・con la izquierda → 左手と共に(conは、英語でwith) la izquierdaでla mano
 という女性単数名詞を省略しています。
直訳)
もし、私が次のようなことを尋ねられたならば。「兵士たちをとても緊密なチーム
ワークを可能なものと成すことはできるのですか?」と。私は、次の通りお答えしま
す。「それはできます」と。
何故なら、たとえ呉の国の人と越の国の人がお互いに憎しみ合っているとしても、
もし、風のおもちゃになっているような舟に一緒にいたとしたら、左手を添えた右手の
ように協力するでしょう。
補足)
『孫子』〈第十一篇 九地〉にある「常山の蛇」の箇所に続いて展開される”リーダ
ー”の要諦を説くところです。このスペイン語版は、英語版で有名な Samuel B.
Griffithの”The Art of War”(Oxford University Press)から訳されたもので日本
でも入手可能です。
あなたは、現行孫子、竹簡孫子、英語版、スペイン語版と見比べて、欧米、支那、日本
の文化の違いを横軸に、歴史的変化を縦軸にしつつ、単語や表現の訳し方とその語源を
じっくりと吟味することで『孫子』がさらに深まります。
“呉越同舟”は、お互いに憎しみ合う者同士という・・・相互が相手に対してネガティ
ヴ(危害を加える)な条件をポジティヴ(利益を受ける)な条件に変容させて、戦略的
な効果をみんなで享受する・・・
これは、一見したところ「そんなこと頭の中だけの世界と違うのか?」と思ってしまっ
たり、この”呉越同舟”そのものに魔法のような秘密めいた感じがしない訳でもありま
せん。
しかし・・・これこそ、「博打の胴元の条件」を意識すれば・・・可能なこととなりま
しょう。
「一将功成りて万骨枯る」タイプのホンモノの”リーダー”とは言えない、選ばれただ
け、名ばかりという”エセ・リーダー”をいつも見ていると、自然に”呉越同舟”の
言葉そのものは、虚言に聞こえて来ます。
選挙などの多数決で選ばれたら、それが民主主義なのだ・・・資質や根性は関係なくて
リーダーだ・・・とかいう戦後民主主義の限界・・・というものを感じさせるのが”呉
越同舟”という四文字熟語なのであります。
“呉越同舟”の条件は、”常山の蛇”なのですが、”常山の蛇”を可能とする条件と
は?それをじっくりと考えて行くことは現在の日本にとって大いに求められていること
でありましょう。
B)過去の実現しなかった事柄について述べる。
言っていることは、過去の反実仮想なので、要するにホントのことではなく、
あくまで仮想・・・これがミソです。
 条件節:Si+接続法・過去完了
 帰結節:直説法・過去未来完了
ex.
1) Si hubiera dicho la verdad, habria sido respetado por todos..
 もし、彼が本当のことを言っていたら、みんなから尊敬されたでしょうに。
 (→本当のことを言わなかった、そして、みんなから尊敬されなかった。)
(注:sido respetado = ser respetado → ser + 他動詞の過去分詞 = 受動)
2) Si Juan no me hubiese dicho una mentira, no le habria golpeado mucho.
 もし、フアンがウソを私につかなかったら、ボコボコにしなかったでしょうに。
 (→フアンは、私にウソをついた。だから、私は、フアンの奴をボコボコにした。)
☆接続法を使った他の表現
以前、出て来た願望文のヴァリエーション(非現実的の表現)があります。
A)実現性が疑わしい、または、実現性のない現在や未来の事柄に対する願望文
 !Ojala que + 接続法・過去! (今)~ならなあ!
ex.
 !Ojala que mi amigo estuviera aqui!
 今、友達がいてくれたらなあ!(本当はいません)
 !Ojala que Isabel viniera esta tarde!
 イサベルが今日の午後来たらなあ!(本当は来ません)
B)実現されなかった過去の事柄に対する願望文
 !Ojala que + 接続法・過去完了! (あの時)~していたらなあ!
ex.
 !Ojala que hubiera estado mi amigo aqui!
 あの時友達がここにいてくれていたらなあ!(本当はいませんでした)
 !Ojala que Isabel hubiera venido ayer!
 昨日、イサベルが来ていたのならなあ!(本当は来ませんでした)
C)あたかもまるで...のように
 como si + 接続法・過去   ”あたかもまるで・・・の如く”(as if ~と同じ)
ex.
 El habla como si supiera todo.
 奴は、まるで全てを知っているかのように話してやがる。
 Fernando la trataba como si ella fuera su hija.
 フェルナンドは、彼女をあたかも自分の娘であるかのように扱っていた。
これで、動詞の活用をフルに使った表現は終わりです。
残るパートは、初級文法のいよいよ最終ということになります。
後しばらくです。がんばりましょう!