【第72講】スペイン語文法入門―兵法的外国語学習への誘い―(その50)
今回は、スペイン語文法の終盤あたりになって来ていますが、重要な動詞の法(モー
ド)、時制(テンス)、相(アスペクト)についておさらいをしてから、動詞の活用の
フィナーレとなる接続法過去を、続いて・・・現代スペイン語では日常的には使われる
ことはあまりありませんが、最後の最後として接続法未来を学びます。
(次回予告ですが・・・動詞の活用が出揃ってから学ぶ”条件文”に進みます。ここで
は、スペイン語版『孫子』から第十一篇〈九地〉にある有名な箇所、「呉越同舟」を
原典講読しますのでお楽しみに!)
法、時制、相とは、動詞の√語根の後ろに付いている”活用語尾”の中に「三位一体」
で表現されているものですが、これらは、原典をきちんと解釈して記述内容を自分の
モノとして行く上では必須項目です。
法・時制・相・・・これらを整理することであなたが将来遭遇するであろうスペイン語
の原典解釈がより身近なものになって行きます。
☆法(モード)、時制(テンス)、相(アスペクト)について
日本語では、動詞の活用語尾を見ると、我々は必ず自然に何の違和感も無く:
ア)現在時制では:「~ル/~テイル」(例:食べる/食べている)
ex. El Senor Kang come ensalada.(菅氏は、サラダを食べる/食べている)
イ)過去時制:「~タ/~テイタ」(例:食べた/食べていた)
ex. El Senor Kang comio / comia ensalada.
(菅氏は、サラダを食べた/食べていた)
というように現在時制、過去時制それぞれにおいて・・・現在なら「~ル/~テイ
ル」、過去なら「~タ/~テイタ」というような二通りの「間」に関する表現を非常に
自然に支障なく行って日常、日本語を使っています。
要するに、これらの二つの違いはどこから来るのか?と言えば・・・行為が行われる
「時」の中で、その「時」の中に存在する「間」について話者が見つめて・・・
「一回こっきり・それでおしまい」と見るのか?
「反復継続・おわらない」と見るのか?
という”対立”できれいに表現し分けています。
この「時」を問題にする場合は、誰でも当該の行為が”いつ”(過去・現在・未来の内
のどれか一つを選択すること)のことなのか?を問題にするので、”客観的”に明確に
とらえられます。
しかし、「間」を問題にする場合、”終わる/続く”というようなことは、誰が見ても
同じとか第三者の立場からというような”客観的”なものの見方に由らず・・・そうで
はなくて話者の”主観的”なものの見方に由るものです。
「行為の時を示す」ことが「時制」であり、その中で表現される「間を述べる」ことが
「相=アスペクト」なのでした。これは習いましたね。日本語の動詞は、現在時制と
過去時制において、この相を常に表現し分けているのです。
スペイン語では・・・主に過去時制の表現で二つの相(完了/不完了)が出てきまし
た。また、各時制に見られる「完了」の表現(現在完了、過去完了、未来完了)やその
反対である「不完了」の表現(進行、継続、漸増、進展・・・”現在進行形”などは
この中の一部でした)もありました。
法(モード)で事象が起こる世界(現実/仮想)を選択し、時制(テンス)で起こる時
点を指し示し(現在、過去、未来の三つの内のどれか)、相(アスペクト)でその時に
存在する間を表現分けする・・・これがスペイン語での”活用語尾”を見る時に常に
あなたが意識するべき事柄であります。(大きくは、印欧語全体に共通する事柄なの
で、憶えておいて下さい。)
☆未来時制の特殊性
法、時制、相をおさらいしてから・・・これら三つの動詞のカテゴリーに基づいて以前
習った未来時制を見直しておきましょう。
日本語の”未来時制”(と思っているもの)を見ると、「~スルダロウ」という表現が
相当しています。(これは、実は、中学英語の刷り込みであるのですが・・・)
しかし・・・他には「~シタダロウ」という”過去においての未来”のような表現も
見られ、実際に使っています。では・・・「~ダロウ」の正体とは何なのでしょうか?
「~ダロウ」とは、日本語では、即ち・・・”話者の推量を表す助動詞”なのでした。
故に・・・よくよく見てみると、未来時制とは、純然とした時制というよりも・・・
推量を表す=想念を表現する・・・ので、起こる世界は仮想の世界ではなかろう
か・・・それならば、未来時制の本質は、時制(テンス)というよりは、法(モード)
なのではなかろうか?というような面白い疑問が出てきます。
この未来時制の要点とは・・・
何分、未来のことなので、現在時制や過去時制と比べると「事実の確認が出来ない」と
いう特徴があります。ここから、事実を体験することも確認することも不可能なので
推量しか述べることができません。
もし・・・未来の出来事を断定すれば、事実に基づかない虚言になってしまいます。
この事実に基づかない”虚言”を”確たる前提条件を整えて”未来において絶対的に
担保して相手に伝えることで・・・”虚言”を”ホント”にすると・・・脅迫などに利
用(受け取る人にもそれぞれ違いがありますが・・・)される表現になってきます。
(日本語の例:「あなたは、今から一週間後に跡形も無くなりますよ。」)
未来時制とは、単なる時制の問題だけではなく・・・実は、法の概念も含まれている
ところが興味深いところです。
そもそも、スペイン語の未来時制は、義務の概念から発達したものでした。義務という
のは、「未来におけるその時にやってしまう」という「完了」の意味を持っています。
単純に未来時制と言ってみても、時制のみならず法や相が相互に連関しあって機能して
いることをここで確認しておきましょう。
法、時制、相に関する少し難しいめの話しをおさらいしましたが、このおさらいを
経て、次の段階に進みましょう。いよいよ接続法過去と接続法未来です。
☆接続法過去
ここでは、接続法過去を用いて現実の反対の仮想等を述べる条件文や願望の表現を学ん
で行きましょう。(英語でならった仮定法の部分です)
1)接続法過去
接続法の中の「過去時制」です。意味的には過去の時点を示すと同時に完了(~シタ)
と不完了(~シテイタ)の両方の「アスペクト」の意味を担っています。
接続法過去の形態については、”-ra形”と言われるものと”-se形”と言われるものの
二つの種類がありますが、どちらを使ってもかまいません。
先ず、”-ra形”からみて行きましょう。
A)規則動詞
活用については、次の通りです:
ア)第一段階 → 語根√+ -ara(-ar動詞の場合)
語根√+ -iera(-er動詞と-ir動詞の場合)
イ)第二段階 → 人称語尾:-0, -s, -0, -mos, -is, -n を加える
ex. hablar: hablara, hablaras, hablara, hablaramos, hablarais, hablaran
comer: comiera, comieras, comiera, comieramos, comierais, comieran
vivir: viviera, vivieras, viviera, vivieramos, vivierais, vivieran
※第一人称複数で -aramos, -ieramosの箇所にアクセント符号が付いています。
B)不規則動詞
直説法完了過去(点過去)の時に不規則動詞であったものは、この直説法完了過去の
語根をそのまま利用し、一律に”-iera”を付けて展開させるだけです。
ex. tener →√tuv- estar → √estuv- poder → √pud- venir → √vin-
tuviera, tuvieras, tuviera, tuvieramos, tuvierais, tuvieran
estuviera, estuvieras, estuviera, estuvieramos, estuvierais, estuvieran
pudiera, pudieras, pudiera, pudieramos, pudierais, pudieran
viniera, vinieras, viniera, vinieramos, vinierais, vinieran
では、次に”-se形”を見て行きましょう。
A)規則動詞
ア)第一段階 → 語根√+ -ase(-ar動詞の場合)
語根√+ -iese(-er動詞と-ir動詞の場合)
これらに、人称語尾の-0, -s, -0, -mos, -is, -nを加えます。
ex. hablar: hablase, hablases, hablase, hablasemos, hablaseis, hablasen
comer: comiese, comieses, comiese, comiesemos, comieseis, comiesen
vivir: viviese, vivieses, viviese, viviesemos, vivieseis, viviesen
B)不規則動詞
直説法完了過去(点過去)の時に不規則動詞であったものは、この直説法完了過去の
語根をそのまま利用し、一律に”-iese”を付けて展開させるだけです。
ex. tener →√tuv- estar → √estuv- poder → √pud- venir → √vin-
tuviese, tuvieses, tuviese, tuviesemos, tuvieseis, tuviesen
estuviese, estuvieses, estuviese, estuviesemos, estuvieseis, estuviesen
pudiese, pudieses, pudiese, pudiesemos, pudieseis, pudiesen
viniese, vinieses, viniese, viniesemos, vinieseis, viniesen
接続法過去の二つの形態ですが、元々は、スペイン語がラテン語であった時に由来する
ものです・・・
“-ra形”:ラテン語時代の「直説法・過去完了」の活用でした。
“-se形”:ラテン語時代の「接続法・過去完了」の活用でした。
現在では、時の流れを経て・・・共に「接続法・過去」に”なった”のです。
ややこしく感じるかも知れませんが、”-ra形”と”-se形”の使い方の違いは
無い・・・ということをお話しました。が、実は・・・地域によって選り好みがありま
す。
スペインでは、”-se形”が好まれますが、スペイン南部、そして、他のスペイン語圏
では、圧倒的に”-ra形”が多用されているのです。
もし、スペインに行くのなら・・・”-se形”の方で訓練をしておいてください。
☆接続法過去の不規則動詞の活用
ここでは、よくお目にかかるものを選んで列挙しておきます。
ser/ir √fu- + -era/-ese fuera/fuese…
* decir √dij- + -era/-ese dijera/dijese
* traer √traj- + -era/-ese trajera/trajese …
正字法上の規則を受けるもの
leer √le- + -era/-ese leyera/leyese
oir √o- + -era/-ese oyera/oyese
creer √cre- + -era/-ese creyera/creyese
語根母音変化のもの
dormer √durm- + -era/-ese durmiera/durmiese
pedir √pid- + -era/-ese pidiera/pidiese
sentir √sint- + -era/-ese sintiera/sintiese
語根母音変化のものは、全て第三人称・複数に注意してください。
☆接続法過去の意味について
本来は、「接続法・不完了過去」と言われていて、相(アスペクト)は、「不完了」で
した。が、今は違います。
そして、名詞節において用いられる場合、名詞節=従属節と言いますが、その中で、
直説法での完了過去(~シタ)/不完了過去(~シテイタ)/過去未来(~シタダロ
ウ)の各時制の意味に相当しています。次に見比べてみてください。
例-1) Creo que llego. 彼は、着いた と 私は、思う。
Crei que llegaba. 彼は、着いている と 私は、思っていた。
Creia que llegaria. 彼は、着くだろう と 私は、思っていた。
例-2) No creo que llegara(llegase). 彼は、着いた と 私は、思わない。
No creia que llegara(llegase). 彼は、着いている と 私は、思わなかった。
No creia que llegara(llegase). 彼は、着くだろう と 私は、思ってなかった。
☆接続法未来ならびに接続法未来完了
いよいよ、スペイン語の動詞の活用で習うところでは最も最後の活用になりますので、
後しばらくがんばってください!
接続法未来、接続法未来完了ともに法律文(法典)に見られるスペイン語です。
よって、一般的には使用されてはいません。
もし、使用される場合は、古めかしい感じがするのです。そして、新聞、文学などで
は、その効果をわざと狙う場合もあります。接続法未来は、~スルカモシレナイ・・・
接続法未来完了は、~シテシマウカモシレナイ・・・という訳が付きそうです。
しかし・・・現在では:
接続法未来は、接続法現在で代用される。
接続法未来完了は、接続法現在完了で代用される。
故に、あまり気にすることはありません。
☆接続法未来の活用
要するに・・・-ar動詞も-er動詞も-ir動詞も・・・
√ + -are これに人称語尾(-0,-s,-0,-mos,-is,-n)を加えるだけです
そして不規則動詞は、接続法過去の不規則動詞と同じやり方・・・即ち、直説法完了
過去の際の√語根を利用して語尾だけ-areを付けて展開すればよいのです。
ex.
-ar: hablare, hablares, hablare, hablaremos, hablareis, hablaren
-er: bebiere, bebieres, bebiere, bebieremos, bebiereis, bebieren
-ir: viviere, vivieres, viviere, vivieremos, viviereis, vivieren
※第一人称複数の”-are”、-iereの箇所にはアクセント符号が付きます。
ex. Donde fueres, haz como vieres.
(汝が行くようなところでは、汝が見えるようにせよ→郷に入りては郷に従え)
長かった動詞の活用についてのお話しも今回で全部終わりました!
次回は、条件文について学び、実際にスペイン語で『孫子』の原典講読にチャレンジし
て行きたいと思います。
お楽しみに!
今日はここまで。
Hasta luego.