【第69講】スペイン語文法入門―兵法的外国語学習への誘い―(その47)

いよいよ、今回からスペイン語文法の後半、最大の山場となる「法(モード)」に
ついての解説を行います。
あなたは、
印欧系の言語がどのような観点で世界を見てそれを表現しているのか・・・ここで体感
していただくことになります。
スペイン語ではこういう表現になっているけれども・・・同じ事を日本語ではどう
表現しているのか?いろいろな現象を捉えることは、日本語と違ってどうなのか?
など、比較しながら、自分で頭を使うことを通じて納得して行くと・・・自分とは異質
の思考で成り立っている存在もあるのだ・・・ということを感じることが可能となり
ましょう。

☆法(el modo) とは何か
これまでに動詞のカテゴリーに関しては時制(テンス)と相(アスペクト)について
学びました。ここで、さらに・・・動詞の重要な範疇(カテゴリー)には、法(モード)
という概念があります。
では、この法とは何なのでしょうか?
それは、一言で言うと、相手に自分の気持ちや感情という「想い」を伝える「表現の
方法」のことなのだ・・・ということを先ずは押さえておいてください。
ここで言っている「表現の方法」を詳しく見て行くと・・・
そもそも、法(modo)とは、英語では”mode”(話をする方法)と言います。
両者は、語形を見れば、語源が同じであることは予測可能です。
この、英語の”mode”ですが、何と・・・”mood”=ムードと関係のある語なのです。
では「ムード」とは何なのでしょうか?
ムードとは・・・(雰囲気的な目に見えない)、気持ち、想い、情や感のことです。
ここでの「気持ち、想い、情、感」と云ったことは、要するに”ココロ”の問題なの
です。
☆”ココロ”とは何か?
あなたは朝、目が覚め意識が覚醒してから、日中を過ごし、夜になり就寝して眠って
意識が無くなるまでの間に、嬉しい、楽しい、心配だ、腹が立つ、怒っている、
哀しい、欲しい、好き嫌いなどの”ココロ”の変遷を日々繰り返しています。
一体全体・・・”ココロ”とは、一日何度変わるでしょうか?
一説には、普通、朝から晩まで約6万回は変わっていると言われています。
あなたが、戦略、情報、兵法に関して特にココロについて”心得て”おいていただき
たいのは、次のような点でありましょう・・・
・何気なく6万回変化しているということ
・あまり意識的、自律的なことで変化はしていないこと
・一つの習慣になってしまっている場合が多いこと
・よって、条件反射し易い=疑わないこと
・そして、常識が形成される以上、そこから逸脱することに違和を感じ忌避し易い
・とにかくココロは現状維持が好きである
・結局、ココロには巻き込まれている
などの特徴です。
戦略を策定したり、情報を分析したり、兵法を駆使するような「実践面」の時には、
この一日6万回と言われるココロの変化の内、その何割が「武道心(攻勢的、積極的、
自主的、自律的・・・プラス思考)」で占められているのでしょうか?
そして・・・その何割が「君子ならぬ小人(しょうじん)の心(受動的、消極的、
自己卑下的、自己制限的、他律的、悲観的、敗北主義的・・・マイナス思考)」で
占められているのでしょうか?
ここで点検です!
古今東西・・・優秀な将軍や参謀の心とは、また、その上に君臨する皇帝、国王、
大統領などの為政者の心とは、常にココロの何割が武道心で占められていたのでしょう
か?
そして・・・現実に如何に繋げて行って事後処理をして来たのか?
そして・・・亡国の為政者、将軍、参謀のココロとは、どのようなものであったので
しょうか?
というところです
ココロ・・・日本語では、「コロリコロリところがる」という所からこの言葉が
出来たと言われています。
ココロ・・・コロリコロリと”どこで”転がっているものなのでしょうか?
要するに、胸(ハート)のところであると言われます。
人は、頭で考えること(理知的)と胸で想うこと(感情的)がチグハグ=矛盾する時
には苦しむものです。まさに「煩悩」とか「悶絶」するのですね。
心とは、一定の所にいることがなかなか難しいようです。
煩悩は煩悩を産み、悶絶はさらなる高度の悶絶を迎えるものです。
心がクルクル流転して止まず、マイナス面で占められれば、さぞかしその人は不安な
毎日でしょう。
このような心の流転を表現する方法が「モード」なのです。即ち、自分のココロ=想
(おもい)を伝えるのですから:
「自分の想を入れるのか/自分の想を入れないのか」
というところが基準となって、
ア)自分の想いを入れて  →接続法・・・今日から学習します。
イ)自分の想いを入れないで→直説法・・・今まで習って来ました。
要するに、法(モード)とは、話す人の心の表現の方法のことと考えましょう。
よって心理的な要素の有無が問題となります。
☆接続法(el modo subjuntivo)の要点とは?
ココロは、一体、何処にあるのでしょうか?
突き詰めて行くために次のような例え話をしますので、お聞きになってみてくださ
い。
もし・・・あなたにあまりにも心配なことがあったり、不安や恐怖が続くと・・・
夜になっても眠れなくなってきます。そして、精神科とか神経科等へ行って相談すると
睡眠薬や安定剤を処方してくださいます。
では、その処方してくださったお薬は、どこに効くのでしょうか?
口から飲み込んで胃で溶けて成分が身体に吸収され・・・
胸が思い悩んで苦しいから胸のところスカーッと効くのでしょうか?
そうではありません。成分は、全て「脳」に効くのです。
脳で分泌しているホルモンを操作してくれるから・・・ココロが”鎮まって”来るの
です。脳に効き目があるから、暗い気分などどこかへ行ってしまい、夜もぐっすり眠れ
るようになり、気分も落ちついて来て物事が冷静に考えられるようになるのです。
ココロがいるところは頭の中なのです!
よって「想い」というのは、胸ではなく頭の中にあるので、「現実に、物質的に捉え
るものではありません」。3次元ではないのです。これは大切なことです。
“接続法”といわれる法は、この「想い」の世界(現実の3次元の世界では実体が無い
世界のことを指します。つまり・・・煮詰めていくと・・・「あなたがそう思っている
だけの世界」)のことを述べること・・・これが”接続法”の原理原則になっていま
す。
接続法とは、”仮想(ヴァーチャル)の世界”(表現する人の脳内)で生起する事柄
を述べるのです。
☆直説法(el modo indicativo)の要点とは?
では、ここで、これまで習って来た動詞の活用の法(モード)とは、何と言っていた
のか?おさらいをしておきましょう。
直説法(el modo indicativo) = 「出来事を直に指し示して説き伝える方法」。
ここでは”indic-“という単語をみてください。指し示すモノ=インジケーターと語源
が同じです)と言いました。
「出来事を直に指し示して説き伝える・・・」それは、事実を直接、「私的な気持ち=
己の想念を入れずに」述べるわけです。これが直説法なのです(別の言い方では、事実
をそのまま叙述するというので「叙実法」と呼ばれます)
☆接続法(modo subjuntivo)の要点とは?
接続法(el modo subjuntivo)とは、 sub- ‘下に・従的な’ + junct- ‘繋げる・
接続する’ という意味から成り立っています。
要するに”従属節”の中で使用するからこのようにいわれています。
接続法は、”主節”と”従属節”からなる「名詞節」での用法を最初にマスターする
と、「形容詞節」、「副詞節」、「独立用法」の残り三つの用法も楽にマスターできま
す。
ここでは、最初なので・・・「名詞節」での用法を習得しましょう。
では、”主節”と”従属節”とは、何なのでしょうか?
次の例文を見て下さい:
ex. Yo espero que vengas a la plaza.
(僕は、君が広場に来ることを望んでいます。=君が広場に来てくれたらいいなあ)
ここで・・・Yo esperoの部分をご覧下さい。
「私は~ヲ期待する」という他動詞ですね。
では、次にque 以下の”節”(主語と定形動詞があります)をご覧下さい。
接続詞”que”(英語では指示詞由来のthatを使いましたね。 ex. I hope that he
comes here.)は、疑問詞の”que”(何?)から由来している・・・と考えてくださ
い。
英語では、「私は、期待してるよ、それヲ、彼がここに来る」→「私は、彼がここに
来るということヲ期待しています」となっていました。
スペイン語では、この”que”以下が英語の”that”と同じく「~さんが~すること」
を意味しています。即ち、名詞節を導いていると言います。
「名詞節=名詞」ですから・・・性・数・格を考えてください。
性は?数は?と続きますがハッキリしません。が・・・格については、Yo quieroが
「~ヲ欲する」という他動詞なので・・・「対格(~ヲ)」であることが分かります。
そうすると・・・que以下は、「彼が広場に来ることヲ」という意味であることが
分かって来ます。
では・・・”主節”とは・・・Yo espero までです。
“主節”は、主語の気持ち(期待する)=心=想を表現しています。この主節には
「自分の想い」が「入って」います。
この主節の動詞が表している想いが従属節の中での動作を支配しています。
期待している私は、レッキとしてここ=現実(リアル)の世界に存在し、3次元の中で
期待しているのである。故に直説法で表現しています。
しかし・・・「彼が広場に来ること」は、現実の世界で生起しているのではなく
「そのことを期待する我の脳の中で生起」=仮想の世界で生起し、我が想念の支配を
受けているのである。
そこで・・・従属節の動詞の活用が(想念を表現する)接続法の活用をとるのです。
「喜怒哀楽」するのは主語である我です。
従属節の内容に我が「喜怒哀楽」しているのです。
期待、希望、願望、可能、非現実等の念願や落胆等も同じ心の分野です。
よって、接続法は、主語の想念が一つでも交じると接続法となります。
要は、「誰々が~することが気に入らない」、「誰々が~しますように」、
「誰々が~してくれないかなあ」、「誰々が~して嬉しい」とか・・・このような自分
の主観を表す表現は全て接続法を使用します。
接続法には、話者の気持・想いが込められているので・・・そもそも実体の無い事柄
を表現しているのですから、接続法の活用語尾中には、「~かなあ」、「~かも」と
いう断言しない感情(フィーリング)が入っているのが原則です。
故に接続法は、非断定的な表現に適していて、直説法は、断定的な表現に適している
のです。
接続法の「名詞節」での原理原則は:
ア)主 節の動詞:他動詞であり、かつ、想念を意味する動詞が来たら
イ)従属節の動詞:必ず接続法の活用になる
要するに、接続法とは、いきなり理由もないのに活用が変わって使われるのはありま
せん。語学レベルでは練習問題での反復練習で慣れさせようとします。が、論理的に
理解するのならば、「主節と従属節の関係」において「原理原則」を以て行われている
ものなのである・・・これを憶えた方が楽であり、スペイン語との長い付き合いが可能
です。
☆接続法の基本活用パターン(形態面での注意)
甲)規則動詞:√ に変化無し
-ar :  √ + “-e”     (テーマ母音を交換して
-er/-ir :  √ + “-a”     ※人称語尾を付けるだけ)
ex.
 hablar comer vivir
hable coma viva
hables comas viavas
hable coma viva
hablemos comamos vivamos
hableis comais vivais
hablen coman vivan
※人称語尾:-0, -s, -0, -mos, -is, -n
(第一人称単数から・・・「ゼロ、エス、ゼロ、モス、イス、ん~」です!)
乙)不規則動詞:√ にヴァリエーションあり
A型)語根母音変化動詞
1) [e] → [ie], [o] → [ue] ・ { pensar, entender, contar,volver }
2-a) -ir 動詞に見られる注意を要するタイプ
[e]→ [i]・ “pedir” : pida, pidas, pida, pidamos, pidais, pidan
2-b) 上の”2-a”の変則 = 私たち、君たちの箇所が:[e] → [i] “sentir” : sienta, sientas, sienta, sintamos, sintais, sientan
2-c) 上の”2-a”の変則 = 私たち、君たちの箇所が: [o] → [u] “dormir” : duerma, duermas, duerma, durmamos, durmais, duerman
B型)直説法・現在の第一人称の「語根 √」を基本とするもの
(要するに、第一人称をマスターして、それに人称語尾を加えるだけでよい)
1) -zco : conocer(√conozc-), conducir(√conduzc-)
2) -go : tener, venir, poner, salir, caer, hacer, decir, oir
3) アクセント付: dar (de, des, de・・・)
C型)完全不規則
第一人称の語形を憶えてしまう。
次に人称語尾をつけるだけ。
ser(sea) sea, seas, sea, seamos, seais, sean
ir(vaya) vaya, vayas, vaya・・・
haber(haya) haya, hayas, haya・・・
saber(sepa) sepa, sepas, sepa・・・
ver(vea) vea, veas, vea・・・
etc.
次回は、接続法の用法をさらに学習して行きましょう。