【第68講】スペイン語文法入門―兵法的外国語学習への誘い―(その46)
現在から見て・・・未来に起こる事実が確認不可能であるが故の表現・・・「現在に
おける推量の思考」を基本として展開される”直説法未来”(~するダロウ)について
は前回習いました。
では、今回は、過去から見て・・・その過ぎ去った過去の”その時の視点”に立っ
て、これからやって来る時間を眺めて思考する事柄の表現・・・「過去においての推量
の思考」を基本として展開される”過去未来”(~したダロウ)の表現について学んで
行きたいと思います。
日本語では、”~ダロウ”(推量の助動詞)までは同じですが、スペイン語の”未
来”では、「~するダロウ」という訳が、そして・・・過去未来では、「~したダロ
ウ」という訳が来るので、日本語と比べながら頭を整理するとマスターしやすいと思い
ます。
☆直説法過去未来とは
本来、スペイン語において未来を表す表現というものの本質は:
ア)現在(=今)から眺めて未来の”ある時点”までに、自分の行うべきことを完了し
て(済んでしまって)いる必要なり義務のあること=~スベシという発想がベース
であった。
イ)そして、未来の話しなので事実というものが全く確証も確認もできない・・・とい
うところから、推量・想定=~ダロウという”時間を示す働き”とはまた違った
働き、即ち、”気持ち”を表していた。
以上のような二つの基本事項が見られました。
では・・・今度は、現在(=今)ではなく・・・過去(=あの時)に移行すると、
“未来”とは、どういう表現になるのか?を見て行きたいと思います。
上の基本ア)をご覧ください。今度は、過去の一点に戻って考えてみましょう。
すると・・・「~スベシ」は、「(その時に汝は、)~スベキデアッタ」という
言い方になってきます。
「~スベキデアッタ」・・・この表現の本質を観察してみましょう。実際にはどのよ
うなことが言えるのでしょうか?
例えば、「君は、あの時、もっと勉強するべきであった」とか「君は、あの時、彼女
に真実を言うべきであった」と言った場合ですが・・・実際には、「君は、あの時、
もっと勉強しなかった」、「君は、あの時、彼女に真実を言わなかった」のです。
だから・・・「~ベキデアッタ」の表現になって来るのです。
このようなところをネタにして・・・
実は、「汝は、スルベキトコロヲシナカッタのである・・・」、だから、実際には
どうであったのかは分からないことである・・・、要するに、事実の確認不可能・・・
というところから、「過去における推量=~ダッタノデアロウ」につながって来るので
す。
この表現を「過去未来」と言い、”過去未来形”の活用(といっても未来形と同じく
迂言法が元ですが)があります。
この活用、即ち、”過去未来形”の作り方ですが、次のような単純な作業で済みま
す。即ち(ここで、未来形が「未来」において~スルコト=動詞の原形である不定形
(infinitivo)に”haber”の直説法現在形を加え、義務と捉えて、~スベシという
“迂言法”でやったのが未来形であったことを思い出してください):
「不定形+”haber”の直説法不完了過去形」
だけで完成します。要するに・・・”作り方”は、前回習った”未来形”と同じ発
想、一方は現在形、他方は過去形となっているだけです。
よってスペイン語の過去未来時制の活用は:
例)hablar + había, habías, había, habíamos, habíais, habían
から成り立っているのですが、ここで√hab-が脱落したのでした・・・すると、直説法
不完了過去の活用語尾の部分である -ía, -ías, -ía, -íamos, -íais, -ían のみが
残って不定形と「融合」して・・・
yo hablaría
tu hablarías
el hablaría
nosotros hablaríamos
vosotros hablaríais
ellos hablarían
となっています。
日本語の訳は、先ずは、「~ダッタノデアロウ」が相当しています。
では、次に er動詞と ir動詞の例を提示します:
comer vivir
yo comería viviría
tu comerías vivirías
el comería viviría
nosotros comeríamos viviríamos
vosotros comeríais viviríais
ellos comerían vivirían
意味は、過去における推量・意志です。
ex.
Isabel compraría a su novio unos regalos de Navidad en el Almacén de Hankyu.
イサベルは、阪急百貨店で彼氏に幾つかのクリスマス・プレゼントを買っただろう。
(しかし・・・実際には買わなかったのでした。)
上の文は、イサベルは、来たるクリスマス=その時点に、阪急百貨店で彼氏に幾つか
プレゼントを買うことを、その時心の中で完遂してしまっていた・・・のである
が・・・現実には、何かの事情があってそうはしなかったのであった・・・ということ
です。
☆”不規則動詞”と分類される過去未来形
ここでは、未来形で不規則動詞とされたものと全く同じ動詞が同じ”ノリ”で行われ
ますので、何も難しいことはありません。
要するに、不定形にhaberの直説法不完了過去を加えて「一語」にして読む場合、
スペイン語で発音しやすいよう語調を整えるために:
ア)不定形の語尾(特に-er動詞、-ir動詞)の不定形語尾の中の母音(”-e-“、
”-i-“)を脱落させたり
イ)特定の子音を発音しやすいように付け加えたり
ウ)音節ごと脱落させたり
以上のような現象がみられるのです。(興味深いかも知れませんが、-ar動詞には余り
見られない現象でもあります)
次にア)~ウ)の例を見ておきましょう(前回習った未来形と比べてみると面白いと
思います):
ア)母音脱落 イ)子音の添加 ウ)音節の脱落
saber tener decir
yo sabría tendría diría
tú sabrías tendrías dirías
él ella Vd. sabría tendría diría
nosotros,-as sabríamos tendríamos diríamos
vosotros,-as sabríais tendríais diríais
ellos ellas Vds. sabrian tendrian dirian
☆活用の整理
ア)saber型: poder(できる、してよい)、querer(欲する)、haber(持つ)
イ)tener型: venir(来る)、salir(外出する)、poner(置く)
ウ)decir型: hacer(する)
要するに、”語尾”の箇所だけは、全く例外がありません。
不定形の部分のみに注意が必要なだけです。
☆過去未来形の用法( 代表的なもののみ)
ア)過去から見て未来の行為に対する意志
~スルツモリデアッタ= 実際はやらなかった
ex.
Yo comería una manzana en el parque.
(僕は、公園でリンゴを食べるつもりだったよ。)
イ)過去から見て未来の行為に対する推測(ソノ時ニナッタラ~スルダロウ=しかし、
実際はそうしなかった)
ex.
Isabel dijo que viajaría con su novio en abril.
(イサベルは、4月に彼氏と旅行するつもりだと言った。)
ウ)過去における推量( ~ダッタダロウ=事実の確認が出来ないので推量となる)
ex.
Serían las diez cuando llegaron a la estación.
(彼らが駅に着いた時、10時だったのだろう。)
エ)過去未来は、また、現在の推量を未来形と同じように述べる場合もあります。
この場合、「~するだろうにね」といった現実とは反対の仮想=話者が事実の反対
に位置する想定・仮定・推量・空想などの自分の意見を表現します。
ex.
Romeo y Julieta no comprarían los productos baratos de China.
(ロメオとフリエタは、中国産の安い製品を買わないだろうに。)
また、次のような「~したい」ということを婉曲、丁寧に述べる「~したいのです
が」の表現や、さらに直接的な命令ではなく、相手の立場で相手の意向を伺う形式の
「~していただけませんか?」という表現もありますのでここで憶えておきましょう。
○Me gustaria + 不定形 = ~したいのですが
ex.
Me gustaría visitar el Museo del Ejército.
(私は、軍事博物館を訪れたいのですけれど。)
○¿Podía usted + 不定形? = ~していただけませんか?
( Would you like to ~, please?と同じ発想)
ex.
¿Podría usted volver a casa, por favor?
(家に帰っていただきたいのですけれど。)
スペイン語文法も難しいところと言えば、残すは、接続法のみとなりました!
次回から、接続法の解説を始めます。印欧人の言語がどのような世界観を持っていて
どのような角度から眺めて表現の区別をしているのか?日本人からは見えない、即ち、
意識しないところを意識することを体験していただきたいと思います。
今日はここまで。
Hasta luego.