【第65講】スペイン語文法入門―兵法的外国語学習への誘い―(その43)
今回は、通常、動詞と言えば・・・法(モード)、相(アスペクト)とあるにも関わ
らず、無意識的に意識を集中させるのが時制(テンス)という動詞カテゴリーのみで
ありましょう。
そして、時制とは、単純に過去、現在、未来と三つの区分から成り立っていて、
それらだけで考えれば良いものだ・・・と思いがちです。が、言語の実相においては、
動詞とは、時制だけのものではなく、「時制」を思い浮かべる場合には必ず法(モー
ド)、相(アスペクト)と”三位一体の関係”を成り立たせていて、そこからその時
その場の意味が醸成されていること・・・この重要な多面的思考をここで確認しておき
たいと思います。
これは、戦略、情報、兵法にも共通することであります。
原典を解読する際、意外と日本人が見落としがちなのは、動詞に関しては、時制だけ
に意識が集中することから起こる、法や相の認識不足であり、「リテラシー」という
観点からは、「外国語を解釈する上でとても損をして」います。
それは、多面的思考ではない、より少ない観点から大きなものを判断することと同じ
ことをしているのです。そこに富士山が見えているけれど、小学校低学年の児童が眺め
ている時の脳から醸し出される受取方と還暦を迎えた大人が眺めている時の脳から醸し
出される受取方と、対象とする事象は同じでありながらも、実は中身が全く違ったもの
となっているということです。
スペイン語のみならず、他の外国語(英語、フランス語、ドイツ語など)でも動詞と
いったら・・・「法-時制-相」の三位一体のシステムを持っている・・・と考えて解釈
に取り組んでいただきたいと思います。
☆時制と相の関係
ここで時制と相を整理しておきましょう。
本講座で学ぶまでは・・・恐らく大多数の方々は、「現在完了とは、過去のこと」で
ある・・・と思いがちでした。しかし、本当は、「現在」という「時」における「間」
の問題であること・・・は今までに見てきたところです。
ここで、主に「現在=”今”」という「時」に集中して「間」を比べてみましょう。
以下に、図示しておきますので整理しておいてください。
ex.
ア) Como una manzana. 私は、リンゴを食べる。
イ) He comido una manzana. 私は、リンゴを食べてしまった。
ウ) Estoy comiendo una manzana. 私は、リンゴを食べているところだ。
ア)は、”今”、目の前のリンゴは、完全な姿をとどめている。
イ)は、”今”、目の前にリンゴは、既になく話者の胃袋の中におさまっている。
ウ)は、”今”、目の前のリンゴは、時間と正比例して刻一刻と姿を消しつつある。
例文ア)~ウ)に見られる「間」=相(アスペクト)の問題は、全て
「現在=”今”」において起こっていることなのです。
もし・・・、まだ習っていませんが・・・過去時制=その時・あの時のこと・・・の
例文を見て上のア)~ウ)と比較して見てください。
ex. Comi una manzana. 私は、リンゴを食べた。
過去時制で表現すると・・・過去の”その時”にリンゴを食べたことを伝達することが
“主要”なことであって、「現在とは何の関係もありません」。過去のアノ時点で行為
は全て終わっています。
アノ時点で食べたリンゴは、既に消化吸収され我の肉体に同化され、残滓は、大便と
なり、水洗トイレで流されてしまったのです。
人という存在は、過去と現在と未来を区別立てて理路整然と思考し行動している「つも
り」であって、実際にはそうではありません。故に、うまくやったように見えたり感じ
たりしつつも、ことの真実からはほど遠く、これが”カルマ”の淵源ともなり、いつま
でたっても”垢抜けしない”存在になっています。
☆「完了」という概念のもう一つの特徴
現在完了は、過去時制になると過去完了、未来時制になると未来完了と各時制に付随
して「~完了シリーズ」を構成している概念です。ここで「~完了」と名のつく概念の
共通するところを確認しておきましょう。
そもそも、過去分詞が「その時の行為について1カラ10マデやってしまった」こと
を伝えるものである以上、その時には済んでいることですから・・・あなたは、”その
時を示す時点”の”一つ手前のあたりの時間帯”を伝える働きをしている・・・ことを
確認してみてください。
丁度、長い並木道があって自分が目標に向かって歩いている時に、ふと後ろを振り
返り・・・春なら若葉の色合いや秋なら紅葉を眺めると・・・自分自身が居る現在の
今、今、今の瞬間の一点に一番近い過ぎた時間(=「過去」)が含まれている景色が
認められます。
この現在を起点として過ぎた時間を今振り返ると見えてしまう”今から見えるすぐ
そこにある過去の世界”、これが過去分詞の世界なのです。
故に、各時制における~完了(現在完了、過去完了、未来完了)とは、過去分詞の
このような働きと共に使用されるわけですから・・・それぞれの過去・現在・未来とい
う客観的に指し示すことのできる「時」において、「その時」には「済んでいる」こと
を意味することになります。即ち、「その指し示す時制の一つ前の”昔”のこと」を
意味することも行うのです。このことを「前時性(anterioridad)といいます。
☆現在分詞について
では・・・今度は過去分詞とは正反対となる現在分詞を観察しましょう。
現在分詞(gerundio:英語はジェランドと言っていますので比較してみてください。
ラテン語の”gerere”「実行する」に由来)は、動詞から派生した副詞です。その表す
基本的意味は、”動作や様態を表す副詞である”こと・・・は、これまでに学習してし
まいました。
この現在分詞は、主にスペイン語ではestar + gerundio で「現在進行」、そして、
その他の動詞と共に熟語表現で以て、主に不完了の相(アスペクト)である「継続・進
行」を表す働きをします。
ex. Sigo amando a Teresa. ( seguir + gerundio =~し続ける)
(僕は、テレサを愛し続けているよ。)
過去分詞が受動的、完了的な動詞の意味を持っており、形容詞としても使用される
存在であることに対し・・・現在分詞は、能動的で不完了的な意味を持っており、もっ
ぱらその機能とは副詞である・・・のです。
まとめると、過去分詞は、「完了相」を担い、現在分詞は、「不完了相」を担ってい
るということになります。共に相(アスペクト)を基準にして整理すると分かりやすい
と思います。
(注:スペイン語の現在分詞は、英語と異なり、「動名詞」の働きや、「形容詞」と
して使用されるようなことはありません。)
☆不完了相とは何か?
では、現在分詞について問題としている”不完了相”について詳しく見ておきましょ
う。不完了相とは、未だに終わっていない状態・継続、進行、同時性などの「時という
よりは間について」のことを述べます。即ち、1,2,3・・・と手は出したが・・・
最後のゴールまでは”極めていない”ことを意味しているのです。
よって、流動的な動作や行為を表すもので、形が定まっていない状態、要するに、
ドロドロ流れる熱い時のゼラチンの状態、焼く前の形のないヌルヌルのお好み焼きを
想像してください。意味合いは、過去分詞(完了)の全くの”裏”になっています。
☆現在分詞の作り方:
次の二種類になっています。
ア)-ar動詞 → √語根+-ando
イ)-er動詞/-ir動詞 → √語根+-iendo
例)ア)-ar: hablar √habl- + -ando = hablando
イ)-er/-ir: comer √com- + -iendo = comiendo
vivir √viv- + -iendo = viviendo
不規則動詞は次の通りです(√語根にヴァリエーション→語根母音にパターンがある)。
例) “-e-” → “-i-” venir √vin- → viniendo
類似の動詞 decir √dic- → diciendo
“-o-” → “-u-” dormir √dur- → durmiendo
類似の動詞 poder √pud- → pudiendo
その他)
ア)語尾が”-chir”, “-llir”というような”口蓋音”のあるものは、”-iendo”
の”-i-“が脱落し”-endo”になる。
イ)母音間で”-i-“は、”-y-“に変える。
ex. leer → √le- + -iendo → ×leiendo → ○leyendo
oir → √o- + -iendo → ×oiendo → ○oyendo
traer → √tra- + -iendo → ×traiendo → ○trayendo
ウ)不規則動詞 ir(行く)は、”yendo”という形になります。
☆現在進行形 (progresivo = aspecto progresivo 進行相)
現在進行形とは、時制という「時」が”現在”で、その中の「間」が進行状態にある
動詞の「相」(アスペクト)を表現する一つの形式です。
文法カテゴリー(文法範疇)の中で、現在進行形があるのは、英語とスペイン語に
なっています。スペイン語の親戚になるフランス語には、”etre en tran de ~”
(英語のbe in trance of~ と同じ発想です)というようなイディオム形式での表現法
もありますが、フランス語文法の中ではカテゴリーにはなっていません。
(cf. estar en trance de + inf. “まさに~しようとしている”)
あなたは、意外と感じるかもしれませんが・・・先ず、注意すべき点は、スペイン語
は(フランス語やドイツ語も同じく)、本来、現在時制の活用だけで「進行」の意味を
十分に含んでいるのです。
もし・・・「進行形」にすると・・・「~シテイル最中!」ということをことさらに
強調する表現となるのです。現在進行形は、通常、普通の現在形の活用で事足りるので
す。進行形の用法は、フランス語にはありませんし、ドイツ語にもありません。両言語
とも現在時制の活用をするだけでカヴァーしているのです。
進行形とは、「時」を述べておらず、「間」を述べているものです。この間を述べる
ものがいわゆる相=アスペクトの表現です。だから、「現在完了」が丁度、「現在進
行」の裏の位置にあります。そして、両者は、行為の完了/不完了の両面を構成してい
ます。
☆スペイン語の現在進行形
公 式:”estar + gerundio” → ~の状態にアル・イル(estar)=~の最中
また、与格人称代名詞(~ニ)、対格人称代名詞(~ヲ)は、通常、gerundioの後ろ
にくっつけて書かれます。(ここから、現在分詞のアクセント位置を保持するために
“アクセント符号”をふります→-andoなら”a”に-iendoなら”e”のところです!)
ex. Estoy esperando a Teresa. → Estoy esperandola.
( La estoy esperando. という定形の前に置く語順もあり)
(和訳:僕はテレサを待っているところだ。→僕は彼女を待っているところだ。)
そして・・・もし、再帰動詞(~自身ニ・ヲ)ならば・・・再帰代名詞の位置は、
上述の与格人称代名詞、対格人称代名詞と同じです。
ex. Estoy afeitandome. = Me estoy afeitando.
(和訳:僕はひげを剃っているところだ。)(afeitarse → ひげを剃る)
現在進行形は、行為の進行(不完了)を強調するもので、いささかしつこい感じが
するものです。が、中南米のスペイン語では、米国との関係が深いところから、アメリ
カ英語の影響で現在進行形を多用する傾向があります。
☆分詞を使った表現
過去分詞や現在分詞を使って、長い副詞句を作ったり(分詞構文)、いろいろな相
(アスペクト)に関しての迂言法(熟語)を作ったりします。
quedar p.p. estar p.p. ponerse p.p,.
ir gerundio seguir gerundio
☆分詞構文について
分詞構文では、過去分詞、現在分詞ともに法、時制、人称は表しません。
表すのは、文中の主語と定形動詞と連動している「間」の概念を基礎とした動作、
様態、結果、進行、継続などの完了や不完了の”相(アスペクト)”に関する表現を
付け加えることで当該の文において情報量を増やすことをします。
(よって・・・通常、主文の主語・時制と一致させて用いられます。そして、主動詞
と関係のない主語を取ることができます。)
1)現在分詞の分詞構文
現在分詞の本来有する「不完了」の相(アスペクト)の意味が基本になります。
“~しながら”、”~して”,”~ので”の意味です。
ex. Pienso en la estrategia fumando el cigarro.
(私は、葉巻を吸いながら、戦略について考える。)
2)現在分詞と迂言法
「不完了」=進行の相(アスペクト)を強調する迂言法を作ります:
○irと組むと”~して行く”、venirと組むと”~して来る”
(ex. Nuestro amor va creciendo como el fuego. 僕たちの愛は炎のように燃え
上がって行く。→ラテン歌謡の歌詞より)
○seguirと組むと”~し続ける”
○前置詞”en”+ gerundio は、”~するとすぐに”
3)過去分詞の分詞構文
過去分詞の本来有する「完了」の相(アスペクト)の意味が基本になります。
“~してしまって”、”~しおわって”の意味。
ex. Terminado el trabajo, ellos salieron.
(仕事が終わって、彼らは外に出てきた。)
(salieron→salir”出る”の直説法完了過去第三人称複数形です。間もなく習いま
す!)
4)過去分詞と迂言法
「完了」の相(アスペクト)を強調する迂言法を作ります。過去分詞の方は・・・
既に「形容詞」として使用されていますので、迂言法の中での主語との関係や対格目的
語の関係において性・数の一致を行います:
○quedarと組むと”~した状態である・いる”
ex. El reloj queda retrasado.
(時計は遅れている。 retrasado→男性・単数→relojと一致させています。これは
英文法で習った文型で言えば、SVOのパターンです。)
○tenerと組むと・・・「対格目的語を”~してある”」となります。
ex. Tienes la carta escrita.(君は手紙を書いてある。)
○ser + 過去分詞(=形容詞)は、「書き言葉的な受動態の表現」です。
ex. El Castillo de Osaka fue construido por Hideyoshi Toyotomi.
(大坂城は、豊臣秀吉により建立された。これもSVOのパターンです。)
○estar + 過去分詞(=形容詞)は、
上記の受動態の「間」の長い方=~シテアル・イルを表します。(これもSVOのパター
ンです。)
ex. Esta tienda esta abierta.
(この店は営業中だ。=いま開いてしまっている状態)
あなたは、なるだけ動詞なら動詞について「観点」を増やしてそれを常識化、慣習化
させることを本講座の後半で身につけて行ってください。