【第61講】スペイン語文法入門―兵法的外国語学習への誘い―(その39)

 既存の外国語講座のやらない方向と方法で展開を試みているのが本講座ですが・・・
 今回は、次回の前段階として動詞の種類について押さえておきたいと思います。
 あなたは、日本語とは違う外国語の発想、そして、この「違う発想」の中に見られる
「中心、骨組み」といったところを、戦略、情報、兵法の思考に応用することを試みて
いただきたい・・・と思います。
 では・・・

 スペイン語の文を解読するには、動詞について知っておくこと・・・これをきちんと
しておけばかなり的確に早く原典を読み取ることが可能となってきます(これは英語、
ドイツ語、フランス語・・・などでも同じことが言えます)。
 あなたがスペイン語の文を読む際、出会う動詞の種類は、大きく分けて次の三つの
パターンになっています:
ア)つなぎ動詞・状態動詞(A=Bということを表現する動詞)
⇒ser, estarなど
イ)他動詞(Aハ、Bヲ~スルということを表現する)
⇒hablar, aprenderなど
ウ)自動詞
⇒ir, venirなど
 これまでにア)については既に習得済みです。今回は、イ)他動詞とウ)について
学んで行きたいと思います
☆動詞の二大タイプ
動詞には:
A)必ず対象物を言わないと相手に言いたいことが全て伝わらないもの
→自分が中心で他者を自分が何とかしてやろうとする内容になります
例)見る、聴く、愛する・・・日本語では「スル」
B)動詞のみで相手に言いたいことが全て伝わるもの
→自己完結の内容になります
例)行く、来る、死ぬ・・・日本語では「ナル」
 以上、二つの種類に大別されます。
 そして:
 A)の種類の動詞を「他動詞」(verbo transitivo:移行する動詞→ラテン語の
“transire” 「移行スル」に由来)と言います。他動詞を使った文のパターンは、
「甲ハ、乙ヲ~スル」で、要するに「我があって他者が居て...その他者を我が行為
を仕掛けて何とかする」という意味内容を持っています。
 B)の種類の動詞を「自動詞」(verbo intransitvio:移行しない動詞→in-:否定の
接頭辞 + transitivo)と言います。自動詞を使った文のパターンは、「甲ハ、...
(ニ)ナル」で、要するに「我がそのまま自然に完結する」という意味内容を持って
います。
☆「態(ヴォイス)」と他動詞の関係
 先ず・・・「態(ヴォイス)」とは、
スペイン語では”voz(f.)”(英語では”voice”)と呼ばれています。
“声”ではありません(この意味との関連性もよく考えれば興味深いものです)。
そして、「態」には”能動(やる)”/”受動(やられる)”の”一つの行為の中での
立場の対立”があります。これを知るには・・・他動詞のメカニズムを知ることがその
基本となります。
 では、他動詞のメカニズムとは?
 甲)私がいて・・・
 乙)相手がいる・・・
 甲)の私は、乙)の相手に行為を仕掛けて(=能きかけて)何とか自分の思うよう
にする・・・次の日本語の例文をご覧ください:
 私は、本を買う。
 私は、テレビを見る。
 私は、小説を書く。
 武田家は、信濃を制覇する。
 ダンナは、奥さんを殴る。
 以上のような例文のパターンを見ていると・・・甲は、乙に行為を仕掛ける=能き
かけている立場(activo:英語ではactive)であることが判りますが、”動作を能きか
ける”ので、「能動態」であると言います。
 しかし、今度は、乙の立場にも立って見て下さい。
 乙の立場に立って見ると・・・甲からの行為は、仕掛けるのではなくて、受け取って
いる立場(pasivo:英語ではpassive)であることが判ります(武器におけるアクティ
ヴ/パッシヴのソナーや暗視装置の関係と比較してみると面白いでしょう・・・敵を
知るために能動的姿勢をとるのか受動的姿勢を取るのか・・・)。
 即ち、行為を被る(こうむる)=”~サレル”わけです。例えば:
  ダンナは、奥さんを殴る → 奥さんは、殴られる(旦那によって)
 となります。
 他動詞を観察していると・・・対格(~ヲ)に置かれている者の立場に立ってみた
ら・・・「行為を被むる」=~サレルという能動態の裏の表現になります。動きを
受けるということから「受動態」と呼ばれます。
☆能動の表現から受動の表現への移行
 他動詞は、”主語+動詞(他動詞)+対格目的語”という、いわゆる、英語のSVO
の文型を通常とりますが、その反対の立場に立って、受動を表現するときには:
1)対格目的語を今度は主格にして(語順注意→一番左端)
2)動詞(他動詞)を受動形式
 (ser + 過去分詞→形容詞として使用のため語尾の性・数一致あり)に置き換え
3)行為者(主格)を前置詞”por”(故に前置詞格人称代名詞に注意)の後ろに持って
くる
 以上のような順番で単語を並べて表現します。
 (過去分詞の作り方や本格的な受動態の学習については次回の再帰動詞というテーマ
を終了してから学ぶことにします。)
 このようなところから他動詞がtransitivo(移行の~)という名称で呼ばれるのは、
能動態を受動態へと移行させることが可能な動詞であるから・・・と考えるとその名称
の由来も良く分かります。
 これまでは、こじつけで「他人を必要とするから...他動詞」と覚えたことも
あったかと思います・・・が、実は、他の態へと移行出来るからそのように呼ばれるの
であって、要するに、他動詞とは、「態」が基準になって呼ばれているものなのです。
☆他動詞/自動詞のまとめ
 他動詞と自動詞のまとめを「無為自然」という言葉で整理しておきましょう。
 無為自然という言葉は、漢文の授業などで『老子』(約2500年前の人で孔子や
釈迦、それに孫子と同じ年代の人です)に出てくる言葉として紹介されています。
 無為自然の意味は、元々、消極的な思想として考えられている老子や荘子(老荘思
想)の言葉であるが故に”何もせずに世間の流れにまかせる”とか”長いものには
巻かれろ”式の処世術が頭に浮かぶところです...
 しかし、次のような事実と照らし合わせて見ると人間の普遍性というものに大変
興味深い事実が判明して来ます。
 それは、現在の西洋の言語の大半ですが・・・他動詞と自動詞の比率を分けてみると
他動詞9対自動詞1の割合になっています。
 ここから、「己の”我”を主張して他者を何とかしてやるのだ」式のメカニズムが
他動詞の原理ですので・・・人とは、我欲を中心にことさらにものごと(他者)を
何とか自分の思うように願うようにしてやろうとジタバタしていることがわかります。
 一方・・・「無為」とは、無が”ない”、為とは”~ヲスル”という他動詞の代表に
なっています。要するに「他動詞」の意味すること(上述の意味で)はやらない・・・
ということになります。
 そして、「自然」とは、自ずから然る(そうなる)という「自動詞」の”ナル”の
代表になっています。ここから、余計な我(エゴイスティックかつエゴセントリック
な)の力を出して無理はせず、自然の力(水が上から下へと流れたり、四季が毎日
変わって行くような大きな力)と一体となって本当の自分を発揮することが言われて
います。
 「包丁」というのが元は人の名前で、彼は、牛や豚とかをバラすのに牛や豚の骨格や
筋の自然な流れに沿って力を使わず、自然に分解していたので、何頭さばいても疲れも
しないで刃物もイキイキしていた・・・これと同じです。
 あなたはどちらが本当に目的に到達したければ取らねばならない道であると思いま
すか?他動性/自動性のどちらを重視したらより良くさばけるでしょうか?
 回り道に見え・・・本当は近道を考えてそう行動する・・・これが兵法です!
 『孫子』に云う「迂直の計」ここにあり!ですね。
 ではまた次回をお楽しみに!
今日はここまで。
Hasta luego.