【第59講】スペイン語文法入門―兵法的外国語学習への誘い―(その37)

(注:文中の疑問文冒頭にある「?」は正確には「?をさかさまにした文字」です
が、テキスト形式では変換できないため、「?」としています)
今回は、本当に「スペイン語臭い」というか、日本語とは異なる発想をベースにした
表現を学びましょう。

そもそも、言語が違うということは・・・森羅万象、即ち、宇宙の切り取り方が違う
からだ・・・ということは以前からお話ししている通りです。
「それぞれの言語にはそれぞれの世界」があって、それ故に外国語を学ぶと・・・より
視点、観点が多面的多次元的になって、戦略、情報、兵法・・・を身につけて行くには
大変良い”ツール”となっている・・・ということもお話しして来ました。
今回、その中でも、「何故、スペイン人はこんな言い方をするのか?」という違和感が
最も多い表現である、『他律化構文』というものをマスターしてしまいましょう。
日本語や英語等では、「~が好きだ」ということを表現する際、必ず、主格人称代名詞
(”私は”、”I”)が主語として表われます。が、スペイン語では、「何と”与格”
を用いて表現する」ものです。この日本語や英語とは異なる発想で行われる表現、
即ち、「他律化構文」(自律ではない点がミソです)とはどういうものなのでしょう
か?
☆他律化構文とは-その基本的考え方-
先ず、日本語で「私は、~が好きです」、「私は、~が嫌いです」、「私は、~が痛い
です」、「私は、~に興味があります」、「私は~に見える」とかいうような、
“感情・心理・感覚”等を表す表現に用いる動詞について、日本語と英語の表現を見比
べてみましょう。
ここでは、語順⇒主語+述語(=動詞と目的語との関係)に注意してください。
日本語):私は、音楽が好きです。
英 語): I like music.
※ここで確認しましょう:
a)”主語”は、日本語も英語も同じ”主格人称代名詞”です。
b)動詞は:日本語 ⇒”甲ハ、乙ガ~デアル”の表現パターンになる。
英 語 ⇒”甲ハ、乙ヲ~スル”の表現パターンになる。
c)目的語:日本語 ⇒主体を表す格助詞~ガ
英 語 ⇒直接目的格(対格)を表す~ヲ
d)文構造:日本語 ⇒一つの文に主語が二つ(格助詞ハ・ガ)のあるような感じ。
英 語 ⇒基本的なSVOの構文
確認すると・・・日本語では、英語と少し違って・・・「~ハ、◯◯ガ/◯◯ニ・・・
デアル」のパターンとなっていて、これと同じパターンの表現には:
1. 私ハ、◯◯ガうれしい、痛い、かゆい、退屈である、うっとうしい
2. 私ハ、◯◯ニ興味がある、驚く、怒る
というような二つの表現パターンに大別できます。
英語においては、”be+~ed型”(I am surprised・・・)の受動表現を用いて、
実質的には”能動”を表す表現がありますがここで比較しておくと良いでしょう。
スペイン語では、上記のような”~ハ、◯◯ガ/◯◯ニ・・・デアル”に相当する表現
は、次の様なパターンになります。
スペイン語)Me gusta el cine.(映画は私に気に入いる⇒私は映画が好きだ)
Me    私ニ(与格人称代名詞!)
gusta   気に入る(主語が映画なので、第三人称単数の活用です!)
el cine  映画が(⇒主格です!)
※注意:本来・・・El cine me gusta.・・・という語順なのですが、スペイン語は
定形(活用中の動詞ですね)の左側に二つ以上の単語が並ぶのを嫌う傾向にあるので
す・・・よって、ここでは「倒置」といって主語が定形の後ろに来る語順を取っていま
す。
なので・・・”私ハ”という自分から進んで好むというのではなく”私ニ”(与格人称
代名詞)と言っている訳ですから、映画の方から私に気に入ってくれると言っているの
です。
このスペイン語の表現に違和感がありますか?
ここで次のような面白い例え話しを聞きながら考えてみてください。違和感も消えて
納得して来ると思います。
例えば・・・
あなた(男と仮定しておきます)がもし・・・一番嫌なタイプの異性(外見も性格も
何から何まで絶対にイヤというタイプですよ)が出てきた時、「コラ~、彼女を好きに
ならんかい!そうしなければ銃殺するぞ!」とか、「彼女を好きになれ!これは業務命
令だ!」とか、「1億円積んでやるから彼女のことを好きになれ!」とか・・・そんな
ことを言われても・・・あなたはハイといって心から”好き”になれますか?
決して”好き”にはなれませんね。
もし・・・「彼女を尊敬しろ」ぐらいの命令ならば心の許諾が可能です。
が、「尊敬」と「好き」とは全く別物です。
では、次に・・・
あなたはズキズキと頭が痛い・・・あるいは、急激な下痢になってお腹が痛い・・・
あるいは、しつこい水虫の足が猛烈にかゆい・・・そのような激情と緊張の中で「あな
たは、自律的に痛いのよ止まれ」といって痛さを止めることができますか?
また、激烈にかゆい水虫を鎮めることができるというのでしょうか?
無理ですね。
それらは、「むこうから一方的に”自分ニ”向かってやって来る」ものであり、
「自分から進んでこうしよう、そうしたら、こうなる」というものではありません。
このような考え方をベースに表現しているのがスペイン語なのです。
自律的な要素がなく、すべては向こう任せになる・・・他律的ですね。このような
他律的な思考をベースにした文を「他律化構文」と言います。
スペイン語の場合、”~ハ、◯◯ガ/◯◯ニ・・・デアル”を表現する際、主語は、
日本語では~ガ・~ニに相当する「名詞」ですから、動詞の活用は、三人称(主語の
単数/複数に従い)単数あるいは複数となります。
ex.  Me gustan el cine y el drama. 私は、映画と演劇が好きだ。
☆他律化構文の公式:
与格人称代名詞+動詞+名詞(名詞句の場合もある)
(他律化構文で使用する動詞は、三人称単数/複数以外ではあまり使用されません)
ここでは、この種類の動詞を総称してgustar型動詞と呼びます。
訳す際には:
1番目⇒与格のところに「送り仮名”ハ”」を振る
2番目⇒定形の後ろにある名詞に「送り仮名”ガ”または”ニ”」を振る
3番目⇒与格の箇所を最初に訳し、”ガ”または”ニ”のついた名詞を次に訳し、
    最後に動詞を訳す
以上の1番目から3番目の順番に作業をすすめると簡単に訳せます。
例) Me gusta el cine.(私は、映画が好きです。)
Te gusta el cine.(君は、映画が好きです。)
Le gusta el cine.(彼・彼女・貴方は、映画が好きです。)
Nos gusta el cine.(我々は、映画が好きです。)
Os gusta el cine.(君たちは、映画が好きです。)
Les gusta el cine.(彼ら・彼女ら・貴方がたは、映画が好きです。)
ドリル)下線部の人称を変えて、質問し答える練習をしましょう。
?Te gusta el cine? (君は、映画が好きですか)
Si, me gusta.(ハイ、好きです。)
No, no me gusta.(いいえ、好きではありません)
☆他律化構文の表現上の注意
次に、他律化構文で前置詞”a”を介して、具体的に「誰が?」を特定化する表現に
ついて見て行きましょう。
特に・・・
与格人称代名詞については、三人称(単数・複数両方とも)の場合、”彼(ら)/彼
女(ら)/敬称三人称=貴方(たち)”の三者の内、話していると、いつの間にか誰が
誰だかハッキリしなくなってきます。
また、人名の場合、人を表す名詞の場合(友人、先生、仲間)は、どのように言うの
か? ということが未だに習っていません。
このような場合、前置詞”a”(~ニ)を使用して、与格(~ニ)の内容を説明し、
二重に強調(~ニ~ニ:”ホセに彼に”)することによって具体的に示すのです。
a+前置詞格人称代名詞+与格人称代名詞+gusutar 型動詞+主語(名詞)
この前置詞aの後ろに来る前置詞格人称代名詞の位置に”人を表す名詞”、”人名”を
持ってくるのです。
注意)前置詞”a”の後ろにくる人称と与格の人称は一致します。要するに「~ニ~
ニ」という二重の表現になるのです。また、私、私たち、君、君たち、彼、彼ら・・・
の場合には、例えば、「私ニ、私ニ~」という言い方なので、要するに”強意”になっ
て行為者をよりハッキリさせる働きがあります。
 例)A Isabel  le  gustan las naranjas.
直訳⇒イサベルに 彼女に オレンジが 気に入っています。
和訳⇒イサベルは、オレンジが好きです。
A usted le gustan las naranjas.  (貴方は、オレンジが好きです。)
A ti te gustan las naranjas.  (君がオレンジが好きなんだよ。)
A el le gustan las naranjas.  (彼がオレンジが好きなんだよ。)
A Miguel y Sandra les gustan las naranjas.(ミゲルとサンドラはオレンジが好き
です)
A mis padres les gustan las naranjas.(両親は、オレンジが好きです。)
※padres:父親たちではなく、”両親”の意味になる。
あなたも、簡単な疑問文を作って、ハイ、いいえで答える練習をしてください。
他律化構文は、スペイン語の学習者の間でもややこしいと思われるところですが、
違和感のある発想も何度も繰り返して行くと普通になって来るものです。スペイン語に
はスペイン語の「世界」があります。それをむしろ楽しむ・・・という心で学んで
いってください。
今日はここまで。
Hasta luego.