【第52講】スペイン語文法入門―兵法的外国語学習への誘い―(その30)

(注:文中の疑問文冒頭にある「?」は正確には「?をさかさまにした文字」です
が、テキスト形式では変換できないため、「?」としています)
今までは、英語のbe動詞が担う「つなぎ動詞」(「Aは、Bです」・・・英語で
言えば、I am a boy.というような表現)の機能を担っている動詞”ser”につい
て習って来ました。(前回は、この動詞を使った時刻の表現を習いましたが、こ
こで復習しておいてください。)
今回は、この英語のbe動詞が担っているもう一つの機能・・・「状態動詞」
(「Aは、~の状態である・~の状態にいる」・・・英語で言えば、I am here.
というような表現)を習いましょう。

この「状態動詞」の方は、”estar”という動詞が担当しています。
スペイン語では、英語のbe動詞は、機能別に・・・「つなぎ動詞」(”ser”)
と「状態動詞」(”estar”)の「二つの動詞が使い分け」されているのです。
一見・・・二つの動詞をマスターしなければならないので、英語と比べてみると
とてもややこしそうな印象を受けます。が、それはあくまでも印象であって、本
当は、機能別に使い分けされているから、「機能別の明確さ」があり、情報的に
は細かい「表現の差」を相手に伝えることが可能となっているのです。
☆”estar”について
では、この”estar”の直説法現在について学びましょう。”ser”がかなり不規
則であったことと比べれば、これまでに習った規則動詞(*)と同じく √語根
+活用語尾 の形になっています。
(*) http://espania.okigunnji.com/2010/01/4220.html 
しかし・・・”estar”は、「-ar動詞」と言われる不定形語尾が”-ar”で終わ
る動詞と同じですが・・・
注意しなければならないのは:
ア)第一人称単数(私は)が”-oy”となる
イ)テーマ母音(語幹母音)の”-a-“の上に必ずアクセントが来る
→よって、書く際には、アクセント符号をつけなければならない人称・数があり
ます。
では、以下の活用をよくご覧下さい。
☆”estar”の直説法現在の活用
第一人称・単数 estoy
第二人称・単数 estas
第三人称・単数 esta
第一人称・複数 estamos
第二人称・複数 estais
第三人称・複数 estan
※ 第一人称・単数(yo)が-oy
※ 第一人称・複数(nosotros)のところは、単語の後ろから一番目に位置してい
る母音の-a-の上にアクセント符号が無い
※ その他のところは、逆に母音の-a-の上に全てアクセント符号が必要となっ
ている
☆ “estar”の用法
1)「ある・いる」の意味
例)Yo estoy aqui.  (私は、ここにいます。)
  Tu estas ahi.   (君は、そこにいます。)
  Ella esta alli.   (彼女は、あそこにいます。)
  El Ayuntamiento de Osaka esta en Nakanoshima.
 (大阪市役所は、中之島にあります。)
※ところで・・・場所を表す副詞は、「人称」と正比例しています。そもそも、
自己中心的に展開されているのが、「人称」という概念の特徴ですが・・・以下
に整理しておきましょう:
ア)話しをする中心人物=第一人称=私のところを示すのが「aqui(ここ)」
イ)話しかける相手=第二人称=君のところを示すのが「ahi(そこ)」
ウ)話の場にいない=第三人称=彼・彼女のところを示すのが「alli(あそこ)」
※そして・・・この「人称」と同じく正比例しているのが「指示詞」(これ、そ
れ、あれ)なのです。要するに、私のところを指し示して「これ」、君のところ
を指し示して「それ」、会話の場にないところ=二人からはなれたところを指し
示して「あれ」となっています。「指示詞」については、後で習いますから、こ
こでは、「人称」との正比例している・・・ことだけ覚えておいてください。
■ドリル■
次の文の主語を括弧内の順番に変えて行き、”estar”の活用を練習しましょう。
?Donde estas ahora? (君は、今、どこにいるのですか?)
Estoy en la estacon. (私は、駅にいます。)
( tu→ usted → Carmen → vosotros → ustedes → Carmen y Jose )
2)「状態」の意味
状態とは何でしょうか?ここで少し考えてみましょう。
「今疲れている」のなら・・・休息すれば「元気」になります。「コーヒーは冷
たい」のなら・・・温めれば「熱く」なります。
要するに・・・「変化」を前提としているものの言い方になっています。この
「状態」は、日本語ではどのような表現になっているのか?・・・をチェックし
ておきましょう。
例) ?Como esta usted?
(あなたは、如何にいるか?→身体の状態が如何なっているか?→和訳すると
・・・あなたは元気ですか?)
Estoy bien, gracias. ?Y usted?
(私は、良好にいます→元気です。ありがとう) (で、あなたは?)
Muy bien, gracias.
(とても良好にいる→とても元気です。ありがとう)
※英語でならったHow are you?    Fine, thank you. And you?も全く同じ
意味の内容を持っています。日本語訳では、「元気」という言葉が当てはまる点
はとても興味深いと思います。身体的にも精神的にも「まとも」なら”元の気”
にある・いるのです・・・
Estoy cansado. (私は、疲れています。)
次の例文は、形容詞の語尾に注意して観察してください。
Juan esta tranquilo. Pero, Isabel no esta tranquila. Esta enfadada.
(フアンは、落ち着いている。 しかし、イサベルは落ち着いていない。
彼女は、怒っている。)
“estar”は、A=Bの論理を述べ、英文法でならったS+V+Cの構文をとります。
“ser”と比べると、A=Bの時間が長続きしないで一時的なものである意味を表し
ている以上、C(補語)に相当する名詞や形容詞は、主語の性・数に必ず一致さ
せます。
状態を表す表現・・・英語では、初期にならう表現です。が、スペイン語では、
名詞のカテゴリー、動詞のカテゴリーの両方を習得しなければできないので・・
・英語の表現と日本語の表現から見ては簡単なのですが、スペイン語となると結
構時間がかかるのです。
(要するに・・・英語は、印欧語の中の「ピジン語」と言われるように、印欧語
本来の有する文法規則を時代とともにドシドシと簡略化して来た結果、お互いが
外国人同士の意思疎通のための第二外国語として、とても便利な姿=英文法にな
った・・・のです。あなたは、英文法を基礎にして母国語である日本語やスペイ
ン語を「そう思って決めつけてはならない」のです。)
“estar”は、語源的に英語のstandやドイツ語のstehen(共に「立つ」の意味)と
同じです。「立つ」という動作をよく見てみましょう。これは、もともと”ある
一定の高さ”のあるものが、そこの位置を占める・・・ということです。タテ・
ヨコ・タカサの三次元の姿を現している・・・これが「立つ」であり、要するに
具体的に「そこにある」のが分かります。
英語等のゲルマン語(ドイツ語などがそうです)では、be動詞一つでser/estar
を表現しています。同じロマンス語でスペイン語とは親戚関係にあるフランス語
は、ロマンス語の特徴として、ラテン語のesse(be動詞と同じ機能を有する動詞
です)から”ser”、”estar”の機能別の二本立形式になっていました。
しかし、フランク族が元々話していたゲルマン語の影響(ゲルマン語は、一つの
動詞のみでつなぎ動詞も状態動詞も表現)で”etre”に統合されてしまいまし
た。
スペイン語では、”○○は、~です”、”○○は、××にあります・います”を
表現する場合に”ser”と”estar”という二種類の動詞を使い分けていますが、
こちらの方がロマンス語としての特徴をよく表している・・・のです。
では、次に英語のbe動詞の用法とスペイン語の”ser”と”estar”を比較してお
きましょう。スペイン語の方が表現が細かい=情報の差を相手に伝えるのに便利
である・・・のです。
興味深いのは、”ser”、”estar”の後ろに「形容詞」が来た場合、それぞれの動
詞の意味から「形容詞」の和訳の仕方が変わってくる・・・というところです。
以下に例を観察して行きましょう。ここでは、形容詞にloco(頭のおかしい=
crazy)を使います。
ア)”ser”+形容詞
Carmen es loca. カルメンは、気違いです。
(元から直しようのない・・・場合です)
イ)”estar”+形容詞
Carmen esta loca. カルメンは、恋狂いしている。
(今現在、恋をしていたら・・・それで一時的におかしくなっている)
では、次に形容詞にalegre(楽しい)の例をご覧ください:
Yo soy alegre.  私は、陽気な性格です。(根っからの気質)
Yo estoy alegre. 私は、喜んでいます。(一時的な状態)
☆まとめ
スペイン語では、主語と述語の関係が”A=B”の時に、Aの持っている意味内
容がBの意味内容に対して:
ア)その”=”(イコール)の関係が動かしがたいもので、固定的に変化しない
内容であるのか?(⇒よって、関係は、永続的であり、身分などを表す)
イ)その”=”(イコール)の関係が一時的な状態で、流動的かつ可変的な内容
であるのか?(⇒よって、時間の経過と共に変化を前提とした内容を表す)
というような観点から”ser”と”estar”を使い分けています。
故に、主語=述語の関係でも、論理的に見て「=」にならないもの、即ち、意味
的に結びつけることができないものは、表現されません。また、それは、スペイ
ン語では文法的にもおかしなことになります。
例)× Yo estoy estudiante.(→間違った表現)
(論理的にこの私が一時的に学生の身分でいることはできないからです。今、学
生をしていて30分たったらオッサンをする・・・そして、今度は50分後にお
ばちゃんをする・・・このようなことは出来ないからです。)
今日はここまで。
Hasta luego!