「コンタクト ~接敵~」–軍事情報特別連載 フランス外人部隊・日本人衛生兵のアフガニスタン戦争 Vol.21

From:おき軍事
件名:コンタクト ~接敵~
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軍事情報特別連載
 フランス外人部隊・日本人衛生兵のアフガニスタン戦争 Vol.21
陸上自衛官を志すも挫折。自分が立派な兵士になれることを証明するため
渡仏し、外人部隊への入隊を果たした衛生兵が、最前線で体験した
アフガニスタン戦争の実像をお伝えします。
2012年(平成24年)7月30日(月)
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□はじめに
私の通う看護学校も夏休みに入りました。宿題もたくさん出ました。
そのなかに「看護現場におけるストレスの種類と解消法について、
関連文献の要約と自分の意見を書け」というレポート課題があります。
1冊、本を選んで、それについて書かなければならないのですが、
よい本を見つけました。
下園壮太著「ナースのためのストレスコントロール術」です。
本書の初めの一文を読み、即決しました。「私は、陸上自衛隊の
ストレスコントロール教官です」とのことです。
自衛隊式ストレス対処法で、私も看護のストレスを切り抜けられる
ようになりたいです。
それでは連載にまいりましょう。
▼コンタクト ~接敵~
まだ暗いなか、我々は暗視装置を使い、VABで道路を進んで行く。
あと30分くらいで明るくなるだろう。道路はしっかりと舗装されて
いるが、その周りは荒野や山だ。ところどころに村がある。
さらに進むと、道路沿いに小さな集落があった。土や石でできた家屋が
5軒ほどある。暗視装置を通して家々の周りに目を凝らすが、
人影はなく、犬すらいない。私はすぐに前方に視線を戻した。
集落を過ぎ、下り坂になった。下るとすぐに上り坂になったが、
坂の途中で車列が速度を落とした。停車するのだろう。
私は右路肩にVABを寄せた。道路中央に停車したら、追い越す車両や
対向車が来たとき邪魔になる。
車列が停まった。なんの無線連絡もないまま、停車して5分くらい
経ったが全然動きださない。エンジン音がうるさくて耳に不快なうえ、
燃料を節約したかったのでエンジンを切った。
理想的には、停車時もエンジンはつけておいたほうがいい。
突然、敵が襲撃してきた場合、すぐに発車できる。エンジンを切った
状態だと、エンジンをかける段取りが必要となり、そのぶん遅くなる。
運が悪ければ、エンジンがかからないというハプニングに見舞われる
かもしれない。
普段から私はミッサニ伍長とともに、VABのメンテナンスを他人以上に
実施していたので、エンジンがかからないはずはないだろう。
万一、かからなかったら、車内から応戦しよう。VABを乗り捨てて
離脱してもいい。
エンジンを切ったら、とても静かになった。我々の前にいるADUの
VABもエンジンを切っている。となりの助手席を見たが、プルキエ少佐は
座席の上に立ち、上半身を回転式砲塔に出しているため、顔は見えない。
車窓から左側を見ると、道路のすぐ向こうには丘があった。
あの丘のからは敵の潜む村が見えるはずだ。つまりこの坂を登りきれば、
その村が見えてくるだろう。
車列の前方にいた戦闘中隊のVABや中隊長班のVABは、きっと村に
対して横一列の車両編隊を組み、車間距離を50mくらいとり、
だだっ広い荒野を進む準備を整えているのだろう。
そして、長距離の火力支援や観測を行なう班は、村とは反対方向へ
進み、山を少し登り、村を見渡せる地点に向かっているのだろう。
対戦車ミサイル「ミラン」を扱うミラン班、「PGMエカット2」という
12.7mm口径の狙撃銃を使用するTE(Tireur d’Elite=精鋭射手)班、
そして35RAP(第35砲兵パラシュート連隊)の観測班がそれだ。
やがて明るくなった。暗視装置をヘルメットから外し、クッション
代わりのネックウォーマーに包んでポーチにしまった。上り坂の
我々の前方には、ADUのVABがあり、その前には2台のVABが見える。
17RGP(第17工兵パラシュート連隊)所属の工兵小隊のVABだ。
それより先は坂を登りきった地点より向こう側なので見えない。
「クリーク、ガーネット、予定通りの配置につけ。」
無線から中隊長の命令が聞こえた。「クリーク」はADU、
「ガーネット」は工兵小隊のコールサインだ。この場合、我々医療班と
車両整備班のVABはADUのVABについて行く。私はVABのエンジンをかけた。
「クリーク、ルスュ(クリーク、了解)。」
「ガーネット、ルスュ(ガーネット、了解)。」
ADUと工兵小隊の小隊長が無線で応答し、前方に見える工兵車列と
ADUのVABが前進を始めた。私はそれにつづいた。サイドミラーに
目をやると、後方にいる車両整備班のVABが発車したのが見える。
こうやって後方を確認することは絶対に忘れてはいけない。
特に一旦停止したあとに、再び前進するときはなおさらだ。
もし、運転手も助手席の者も睡魔にやられるなどして、前進する車列に
ついて来なかったら、部隊が離ればなれになってしまう。
VABの後部のハッチから周囲を警戒する兵士がいたりするので、
そのような事態は起こりにくいが、1度、フランス南部の演習で
起きたことがある。疲れがピークとなる演習最後の夜中、一旦停止
したあと、最後尾のVABの乗員が眠りに落ちてしまい、1台だけ
置き去りにされてしまった。あのときは私も運転手を務めていたが、
私自身もときどき居眠り運転をしてしまった。
今はまだ任務開始から間もないので、疲れておらず、その心配は
なかった。そのまま我々は進み、坂を登りきった。広い荒野が
目の前に広がる。その景色をじっくり眺めたかったが、すぐに下り坂
となった。
坂を下ると、先ほど見えた広い荒野より低い場所に来た。
再び道路は登り坂になっているが、工兵小隊の車列は右方向へと
道路から外れた。ADU、我々、車両整備班のVABもそれにつづく。
周辺より少し低くなった地形の場所を我々は進んだ。
ここはワディ(涸れ谷)だろう。やがて工兵小隊のVAB 4台が半円形の
編隊を成して停車した。我々3台は彼らの反対方向に向かって半円形
の編隊を成し、全体で円形の360度警戒の拠点が完成した。
「クリーク、配置についた。」
「ガーネット、配置についた。」
それらの無線報告に中隊長が答える。
「了解。全隊、グリーンゾーンに対し引きつづき警戒せよ。」
「グリーンゾーン」とは、イラクのグリーンゾーンのように、
国際部隊が統制する安全地帯のことではない。アフガニスタンに
おいては、それとは真逆に、危険地帯のことをいう。肥沃な農村
地帯で緑が多いことから、そういう名称がつけられたらしいが、
ここではほとんど緑は見られず、枯れた木々や、乾いた荒野しか
見えない。
我々はグリーンゾーンを眺めることのできないワディで待機だ。
医療班は負傷者が発生するのを待つ。正直、つまらない。戦闘小隊
みたいに最前線に立ちたいと思った。しかたがない。これが私の
役割だ。
その頃、戦闘小隊と中隊長、副中隊長のVABはグリーンゾーンに
面して横一列となっていた。村の端の家々から800mほどの位置に
いたらしい。
ミラン班、TE班、観測班はもう少し後方の小高くなった位置に陣取り、
村を監視していた。ミランやPGM狙撃銃の射程を考えると、2kmを
越えて離れることはないが、私には正確な位置を知るすべがない。
我々はエンジンを切り、待機した。これからどんどん陽が昇り、
暑くなっていく。
何も起きないまま、時間だけが過ぎていく。30分・・・1時間・・・。
上空からは、「パタパタパタ・・・」や「ブゥゥゥゥゥン」という音
が聞こえてくる。米軍ヘリ「カイオワ」と仏軍のドローンだ。
ドローンは、音はするが、機体を見つけることができなかった。
カイオワやドローンの音を聞きながら、じっと待った。結局何も
起きないのだろうか?まあ、そういうこともある。グリーンゾーン
にもっと近づかないのか?RPGでやられる。
10時50分ころ、35RAPの観測班からの無線交信が聞こえた。
「村のモスク(イスラム寺院)にAK、PKM、RPGで武装した男たち13名
が入って行った。」
その10分後、さらに報告が無線で伝えられる。
「モスクから13名が出た。武装している。」
「了解」
中隊長が応答する。
モスクの周りは広場になっており、監視所からよく見えるが、
そこから通路に敵が入ると見失ってしまう。通路の両脇に沿って、
高さ2mほどの土壁が連なっているからだ。ヘリやドローンが敵の
真上から観測すれば見つけられることもあるが、意外と難しい
らしい。農具を持った非戦闘員の村人たちもいる。
新たに無線交信が入った。今度は、アフガン陸軍と行動をともに
している仏軍OMLT部隊の小隊長から、われわれ第3中隊の中隊長
への交信だ。
「ブラック(中隊長コールサイン)、こちらオリオン(OMLTコール
サイン)。これよりANA(アフガン国軍)とともにそちらへ向かう。」
OMLTとアフガン陸軍部隊も作戦に参加するようだ。
OMLTのVAB数台とアフガン陸軍のハンヴィーやトヨタ・ピックアップ
トラック数台は、南側から戦闘小隊のVAB群にむけて、荒野を北上
していた。我々の待機しているワディの下流域を横切るのが遠くに
見え、すぐに見えなくなった。もうすぐ第3中隊のVAB群に合流する
だろう。
突然、無線からOMLT隊長の大声が聞こえた。
「オリオン、コンタクト(接敵)!」
ついに始まった。私はVABの座席に深く座りなおした。
パパパパン・・・。敵のAK小銃の連射音が離れた我々のもとに
聞こえてきた。「あぁ、本当に撃ってくるもんなんだなぁ。本当に
敵って存在するんだなぁ。本当にここは戦争してるんだなぁ」と
思った。
OMLT隊長がその敵の位置を無線で皆に知らせようと、あらかじめ
部隊で決められている村内区画のコールサインを、興奮で声を
荒げて言った。
「エコー8地点より敵の攻撃あり!現在、応戦中!
“バンバンバンバンバンバン・・・”」
交信の最後に、OMLTのVABに搭載されたブローニングM2重機関銃が
12.7mm弾を連射する爆音がまぎれこんだ。その1~2秒後、遠くから
「バンバンバンバンバンバン・・・」という連射音が私の耳に届いた。
無線で聞いたM2重機関銃の連射音と同一のもので、音が空気を伝わる
速度より、無線電波の速度のほうが速いため、ズレが発生したのだ。
あたりまえの現象ではあるが、理科の実験を成功させる小学生の
ように感動した。
ついに交戦となった今、我が中隊はどう動くのか?
負傷者が発生し、我々医療班の出番は来るのか?
気が引き締まった。
(つづく)
(野田 力)
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● 著者略歴
野田力(のだ りき)
1979年9月 近畿地方生まれ。
阪神大震災における自衛隊の活躍を描いた書籍を読み、陸上自衛官を志すも挫折。
自分が立派な兵士になれることを証明するため渡仏し、外人部隊への入隊を果たす。
2005年3月 基本訓練ののち、希望していた第2外人パラシュート連隊に配属され、コル
シカ島に駐屯。
2005年4月 パラシュート課程修了。
2005年5月 第3中隊(水路潜入専門)第3小隊配属。歩兵訓練修了。ミニミ軽機関銃射
手を担当。
2005年10月 対戦車ミサイルERYX(エリックス)課程修了。同ミサイル射手を担当。
2005年12月 水路潜入課程レベル1修了。
2006年2月~6月 アフリカ・コートジボワールに派遣され、治安維持作戦に従事。
2006年12月 衛生兵課程修了。小隊の衛生兵となる。
2007年3月 水路潜入課程レベル2修了。
2007年4月 装甲車VAB(ヴァブ)免許取得。
2007年6月~10月 アフリカ・ジブチに派遣され、砂漠訓練等を受ける。
2008年2月 伍長昇進。
2008年9月~2009年1月 アフリカ・ガボンに派遣され、ジャングル訓練等を受ける。
2009年7月14日(フランス革命記念日) パリのシャンゼリゼ大通りの軍事パレードに参
加。
2009年12月 上級伍長昇進。
2010年1月~7月 アフガニスタン派遣。国際治安支援部隊活動。
2011年4月 除隊。
2011年6月 帰国。2012年春から看護学校に入学。経験・特技を活かし、国際医療・災
害医療の看護師を目指す。
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■兵頭二十八さんの問題意識
<わが国の軍事図書情報の総合環境を、すこしでも改善するために、
広く皆様のお知恵をあつめたいものと念じております。>
(兵頭二十八さん)
アイデアありますか?
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著者:野田力
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