【第36講】 スペイン語文法入門―兵法的外国語学習への誘い―(その14)

孫子塾副塾長・孫子塾関西支部長
同志社大学/京都外国語大学・スペイン語非常勤講師
米田 富彦
http://espania.okigunnji.com/2008/06/post-1.html
みなさん、まだ見ていない人は孫子塾のサイト
孫子談義」をクリックして塾長の佐野寿龍先生の回答をお読みになってくだ
さい!兵法、戦略、情報、軍事、地政学などなど・・・を自分が本当に使える
ようになるには「何が第一条件」であり、「何が根本である」のか・・・どしどし
と自分で気付いて行ってください!

ところで、みなさんは、「兵法的外国語学習への誘い」と題して、スペイン
語の文法をご覧になられている訳です。この外国語の文法学習を通じて体験
する自国語とは異なったものの見方や考え方は、兵法、戦略、情報を学ぶた
めには大変有意義なものでもあります。
今、みなさんには、筆者が大学などでのスペイン語の授業で行っている内容
を原稿化して、直接的な講義ではなく、間接的に目で読み進めていただいて
おります。そして、現在は、発音を終わり、名詞のカテゴリーについて入っ
てきています。
ここで、文法のお話しの根底を指摘しておきたいと思います。
それは・・・、文法とは、「階段のように順序がある」こと(これがコミュ
ニケーションを優先と言ってみたり、外国語は会話のことなのだ・・・とい
う観点からすれば、大変嫌な言葉でありましょう)。そして、最初は、規則
的な事柄を身につけた後で、不規則的な事柄を身につける・・・という
「至って単純な」ことです。
スペイン語名詞で例えるのならば、性を表す語尾、数を表す語尾の「規則、
不規則」などなどを・・・思い出してください。「常なる慣習的な手口」が
あれば、「同時に常ならぬ慣習的ではない手口」が存在しています。ちなみ
に職場では就業規則があり、これに従って職場秩序が維持されています・・・
が、もし、就業規則の中に「原則的」という文言があるのなら、同時に
「非原則的」ということも存在しているのが当たり前です。
戦いには原理原則があることは当然であります。そして、それを応用するこ
とは、「一期一会」であり、当事者たる己そのものの器量に帰結することは
分かりきったことでもあります。では、この器量を増大・進化させ、よりす
ばらしいものとなす方法論があります。
即ち、来たれ「孫子塾・通信講座」へ!です。
好むと好まざるとに関わらず、じっくり現実を見るならば、紛れもなくこの
日本は、乱世(=変革・革命・改新・維新などの概念が相当します)の様相
になってきています。ここで”一廉の者”に自己を”チェンジ”して、乱世
は乱世なりに・・・みなさんのいろいろな人生をそれなりに楽しくうれしく
“新しく活き直し”てみることを・・・”自己の兵法的頓悟”を体験するこ
とを経て、積極的に生きることを始められませんか?
(33)スペイン語文法入門―兵法的外国語学習への誘い―(その14)
今回は、名詞と関わりのある品詞についての解説です。この中に冠詞という
日本語にはない品詞があります。が、日本人は使わなくてもスペイン人は
使っているものです。英語を習った時には大変疎かにしていたかもしれませ
ん。ここでは、相手を知るためにも、その本質とするところを学んでおきま
しょう。後半あたりは少し難しい解説表現ですが、後で読み返してもらえば
より理解も深まりましょう。がまんしてくださいね。
☆冠詞(arti’culo)について
ここでは、日本語ではおなじみではない言葉の一つである”冠詞”というも
のが本当はどういったものなのか・・・について解説いたします。
冠詞とは、arti’culo(アルティークロ 英語:article。骨の継ぎ目の”関
節”の意味でもあります)といわれますが、これは、ラテン語の articulus
“小さな節目(アルティークルス)”という言葉に由来しています。この冠詞
という言葉は、日本人の場合、漢字をそのまま、読んで字の如く解釈して、
「名詞の前におかれるから、名詞の冠になる言葉だ=だから冠詞なのだ」と
考えがちです。が、その実態たるや全くそうではありません。
初学の間は、冠詞とは、通常名詞の前に置かれるので、ここは香具師の口上
の様ですが、こじつけで、とりあえず記憶に残す方便として、「冠になる言
葉」ということで”冠詞”なのだ・・・と覚えておきましょう。後で改めれ
ばよいのです。
冠詞とは、関係詞と同じく日本語には無い品詞です。この” arti’culo “=ラ
テン語”articulus”の原語である古典ギリシア語の”arthron”(アルトロン)
には、少しも「冠」という意味はありません。この言葉は、むしろ、同じ
古典ギリシア語の”ararisko”(アラリスコ)=「つなぐ、附ける」という
言葉と語源が同じものなのでした。
長らくギリシアでは一般的な代名詞というものも、この”arthron”という言
葉に含めて考えていました。アレクサンドリア時代に入って、元来その
“arthron” の一部であった”ho(ホ)”,”he(ヘ)”,”to(ト)”(→日
本語のイロハ~みたいですが違います!)という言葉が今日でいうところの
「冠詞」とか「関係代名詞」等に限定して使用されるようになったのです。
これを受けたローマの文法家は、あえてラテン語でそれらに相当する
“hic(ヒク)”, “haec(ハエク)”,”hoc(ホク)”(→それぞれ男性、
女性、中性の形)を名詞の前にあてて、”notae generum(ノタエ・ゲネル
ム)”=「性のしるし」と言うようになりました。ということは・・・
「冠詞」とは、最初は「文の一要素」であると考えての命名であったのでし
た。
冠詞を整理すると・・・、本来、「この、その、あの」といった「ものごと」
を指し示す言葉である指示代名詞が、会話文の中で、名詞のことについてハ
ッキリとさせるために、いつも名詞の前に置かれるようになった・・・これ
が、冠詞の始まりである・・・よって、名詞の性・数・格というカテゴリー
を名詞に先んじて明確化し、話者にとって、名詞が意味するものごとを明確
化する・・・という働きを持っているのです。
☆冠詞の特徴
冠詞は、みなさんには意外かもしれませんが、全てのインド・ヨーロッパ語
系の言語に存在するものではありません。そもそも、ロマンス諸語の母体で
あるラテン語や、ロシア語等のスラヴ諸語にもありません。ドイツ語等では、
昔のドイツ語=古代高地ドイツ語(西暦750年~1350年)になって始めて指示
代名詞から定冠詞が・・・、数詞であるein(アイン)から不定冠詞が・・・
それぞれ生まれたのでした。冠詞の歴史は、思ったほど無い・・・のです。
☆スペイン語の場合
ここでスペイン語の冠詞について見て行きましょう。
・”定冠詞”の方は、同じようにラテン語の指示代名詞であったille
(イッレ:その~)から”el”, illa(イッラ)から”la”, illos(イッ
ロス) から”los” ,illas(イッラス)から”las”が誕生しました。
・”不定冠詞”は、数詞であるuno から誕生しました。
因みに英語のthe は、thatから誕生し、a(an) は、one から誕生しました。
スペイン語では、unos,unas が「幾つかの」という英語のsomeに相当する言
葉になっています。が、この英語のsomeも元々は、印欧祖語で”一”を意味
する*oi-no-, *sem-という言葉の内、*sem-から来たものです。よって、
元々は、”一”を意味していた言葉からできた訳です。
要するに「冠詞は、一方は指示代名詞由来の定冠詞があり、他方は数詞から
由来した不定冠詞がある」ということです。
通常、冠詞は、名詞の前に置かれるものですが、ロマンス語のなかでもルー
マニア語、ゲルマン語のなかでもスウェーデン語、スラヴ語のなかでもブル
ガリア語では、冠詞は、名詞の前ではなく後ろにつけられています。
歴史的な経過を眺めてみると、以前には、印欧語全般において、名詞の曲用
という性と数に一致した格変化があり、語尾が変化していました。しかし、
それが、簡略化され、冠詞が変化して、性・数・格を示したりするようにな
ったドイツ語や、性と数だけを示すようになったロマンス諸語(スペイン語)
があります。
☆冠詞の意味
冠詞の主たる意味機能は、名詞を文の中=話者間で
“顕在化(actualizacio’n アクトゥアリサシオーン)=ハッキリさせる”
ことです。それは、潜在的には、数えきれないくらいの対象物を指し示す可
能性のある概念を、個々の「特定の」対象物に対してのみ用いる・・・とい
うことです。概念を特定の対象物と関連づけることが顕在化ということです。
この機能は、定冠詞、不定冠詞にも共通する働きです。
これが冠詞の最も重要な言葉としての働きになっています。名詞の前に具体
的に”その~”とか”一つの~・ある~”とかいう言葉をつけて続く名詞の
ことを話者同士でお互いにハッキリとさせる機能があるのです。
それでは:
ア)”定冠詞”
イ)”不定冠詞”
ウ)”無冠詞”=冠詞の無い場合
というそれぞれの意味の上での働きがありますので、それらの用法と意味を
学びましょう。まず、意味的に概論を押さえて、後、スペイン語の具体例に
進むことにします。
ア)定冠詞について
「指されている対象物がすでに言及されている場合」です(=話し手と聞き
手との間にすでに話の対象物が会話に上がっているということです)。
従って識別が可能となっている対象物について言う場合・・・ということに
なります。
また、”ただ一つしか存在しないもの”(・太陽とか月)について言う場合
もあります。
総称の定冠詞の用法=”~なるもの”の意味の場合には、話者同士で既知、
周知の概念を表しています。
イ)不定冠詞について
「指されている対象物が未だに会話の中で言及されていないこと」で、話し
手と聞き手との間では、未だに対象物が会話に上がってきていません。従っ
て明確な識別が不可能であることを意味します。
要するに、初めて話題(会話のテーマ)の中で言及する=”相手に事物の紹
介”の形式をとる場合に用いられます。よって、未知の不定な一個の対象物
について表すものです。
※例えば、ア)el coche ( the car その自動車)とイ)un coche (a car 
一台の自動車・ある自動車)をここで比べてみると・・・ア)の方は、「今
日、私が乗ってきたスバル」とか「そこにある君のポルシェ」という具体的
な意味を持っているのに対し、イ)の方は、四つのタイヤがあって丸いハン
ドルがあってエンジンで走る自動車というものがそこにあるのであって、
自動車なら何でも良いということを意味しています。
ウ)無冠詞について
無冠詞とは、本来冠詞を持つ言語において冠詞が欠けていることをいい、
冠詞が無いことで特別な意味機能(甲と乙)があります。次の二つの場合が
あります:
ウー甲)指示代名詞が形容詞の働きをする場合:
“この~”、”その~”、”あの~”となった場合には、冠詞が付かなくて
よくなります。
ex. este libro(この本) esta rosa(このバラの花)
× el este libro, × este el libro × la esta rosa,
× esta la rosa
ウー乙)冠詞類が全く置かれない場合:
「ゼロ冠詞」と呼ばれます。
これは、ser動詞やestar動詞(= be動詞などの「つなぎ動詞」や「状態動詞」
のこと)の”補語”(S+V+CのC=補語)の箇所に用いられ、国籍をは
じめとして身分や職業を伝える場合に多く見られるものです。
例) Yo soy detective. 私は、探偵です。
・”無冠詞”の用法についての注意
ア)単数可算名詞と共に用いられる場合
具体的な「個」の概念には言及しません。(ある具体的な種類=もの、ある
概念=こと、に関して、具体的な「個」について話しをする場合には、無冠
詞なのです!)
※もし・・・聞き手がまだその存在を知らないので、それを紹介するべく
具体的な「個」に言及する場合には、不定冠詞un/unaを用いてください。
例: Hay un Castillo aqui’. ここに城があるよ。(初めて城を発見して
相手に伝えている)
イ)複数可算名詞と共に用いられる場合
ある種の複数に言及するのみです。(その内容を具体的かつ詳細に告知しな
いで、その種類だけを述べようとする場合には、また無冠詞なのです!)
※具体的かつ特定的な種類に言及しますが、その種類について初めて会話の
中で紹介する際に、話し手がそれらの種類を特定しながらも明確なかたちで
表現しようとしない場合、複数不定冠詞unos/unas を用いてください。
例: Hay unos castillos aqui’. ここにいくつかの城があるよ。
☆冠詞についてのまとめ
少し難しい言い回しですが、整理すると次のようになります。
・話し手と聞き手の間において会話がなされる際、会話の対象物について:
a)初めて言及して相手に紹介するのか?
b)既に言及して話し手と聞き手の間でその対象物についての情報を共有し
ているのか?
という点が表現の分かれ目となります。
・そして、難しく整理すると:
言葉の中にあらかじめ蓄えられている概念が現実の発話において、「冠詞」
を通じて、対象物と関係づけられるので・・・冠詞の機能は、「言語」=ラ
ング(一般に皆の頭の中で言葉として蓄えられている概念のレベルのこと)
から、「言」=パロール(個々の対象物について現実に言葉を口に出して
“発話する”レベルのこと)への”移行”を遂行させることである...と
いう定義がなされています。
→ラング、パロールについては、
バックナンバー http://espania.okigunnji.com/2009/01/post-13.html を
ご覧下さい。
・冠詞を持たない言語では、概念は、特定の対象物と関連づけられます。
が、ただ、この関連づけとは、冠詞のある言語のように明確には表示される
ものではありません。(ここのところを、私たちの話す日本語と比較して
確認しておきましょう。)
・冠詞を持つ言語においても、冠詞が名詞の顕在化を行う唯一の言語の要素
である...ということはありません。むしろ、”指示代名詞(この、その、
あの) “、所有代名詞(私の、彼の...)”、”不定語(誰か、
何か...)”、”疑問語(誰、何、どれ...)”等、「代名詞の機能」
を果たす言葉も冠詞のように「名詞の顕在化の機能」を果たすことができま
す。
・冠詞とは、要するに「同類の中から個人や個物を抜き出し」て表し、その
対象物に独立した「個別性」を与えるという機能を担う言葉なのです。
何気ない冠詞です。が、日本人は、冠詞を使わないし、スペイン語や英語を
習って冠詞と毎回接しているにも関わらず、殆ど意味的に詳細なところは意
識していません。しかし、外国人は普通に使っているのですから、ここで
詳しく冠詞のことを観察しておいてください。長い目でみるとみなさんの
外国語能力に効果を発揮することでありましょう。
(つづく)

コメント

RSS