【第32講】 スペイン語文法入門―兵法的外国語学習への誘い―(その10)

孫子塾副塾長・孫子塾関西支部長
同志社大学/京都外国語大学・スペイン語非常勤講師
米田 富彦
http://espania.okigunnji.com/2008/06/post-1.html
みなさん、単なる語学だけで日常的な事柄のみのレベルで止めるのか、本当
は論理的な思考を鍛えた上で、外国人にも筋の通った事柄を伝達するのか・
・・、両者は、外国語を使うという点では同じに見えますが、内容は、似て
非なるものです。どちらが脳にとって良いのか・・・と言えば、きちんと
“科学的思考”とか、”論理的思考”とかを錬成する方に決まっています。

みなさんは、意外な感じがする(経験からすれば逆に納得するかも知れませ
ん・・・)でしょうが、例えば、大学などでやっている第二外国語科目のス
ペイン語など、当の担当教員が実際に科学的思考とか論理思考とかを基礎か
ら鍛えた経験の無い人が沢山いて、それを受講生に見破られまいと立場の上
から煙幕を張ったり、ある種の偽装をしながら働いているケースが見られま
す。
当の本人たちですが、基礎を教育するクラスであるにもかかわらず、思考の
違いとか、表現における発想法など、科学的、論理的に解説しない、あるい
は解説することが出来ないので、「文法は、会話には不必要だ!」とか、
「難しい文法用語は、日常コミュニケーションでは使わないことが現代的な
のだ」とかの理由を述べて、受講生に対しては”先生という立場を悪用”し
て、暗記主体のテスト(=単位取得の条件)を通じて強制する場合が見られ
ます。これでは、奴隷に命令する時の言葉を教えたり、犬に調教することと
変わりがありません。
外国語教育とは、人が人のことを人に教えるのですが、暗記主体の条件反射
ですと、思考しない癖、思考できなくなる癖(知識で止まり知恵が出なくな
る)を受講生に慣習化することになり、脳の発育には大変悪い影響を与えて
いることが判明します。みなさん、このことは決して軽視することなかれ!
なのです。この思考の慣習化(既に無意識=癖=条件反射になってしまって
いるものなのですよ!)が、その後の人生での節目や岐路といった時の決断
を決定付けたり、あるいは影響したりするのです。
「己を知る」こととは、「無くて七癖、七七四十九癖」の中で、このように
自己点検をしてみることであります。そして、「克己」とは、自己点検から
判明した悪い思考習慣=心の条件反射的なパターンを自分で苦しいながらも
軌道修正して即座に改新(これぞ君子の豹変なのです!できなければ現在進
行形で変わって行くこと!)することです。これぞ兵法、戦略、情報を自分
のモノにする基本であります。『孫子』第四篇に「先為不可勝、以待敵之可
勝、不可勝在己、可勝在敵」とありますが、戦う主体としての自分がしっか
りすることが先ずは第一です。(孫子兵法のミソとはこのようなところにあ
るのです。よって、テキストの孫子に秘密があるのではなく、みなさんの脳
の中にこそ秘密があるのです。この秘密の封印を解くのが『孫子塾』です!)
筆者の面白い経験ですが、某大学の新年度打合会でスペイン語担当者会議が
ありました。そこには20名程度の同業者が出席していました。”効果的な講
読教育の方法論”がテーマとなっていました。忌憚の無い意見をということ
になり、「受講生の科学的、論理的思考の育成には、言語学的知識、特に構
造主義言語学の知識を基礎とした講読の実施はとても有効です。しかし、現
実的には何故か、教員サイドの大半が殆ど言語学のゲの字も学習していない
のに初年度の重要な文法クラスを担当し、あたかも言語の専門家の如く振る
舞っておられますが、そのような資質なので、単なる外国留学の際に仕入れ
た語学レベルでよしとし、高額な授業料を取っておきながら、還元率の少な
い、実益のない低次元な授業を学生に強制しているのは、民事で債務不履行
と言われても仕方がないのではありませんか?これでは学生のためにも、ま
た一生懸命節約して学費を支払っているご両親様のためにも是非とも改善す
るべきです。」という意見を述べました。この意見には出席者が沈黙し、
誰一人として反論がありませんでした。何故なら、本当のことであり、同業
者にとっては痛い点を指摘されたからです。これは興味深い事実でありまし
ょう。
(この後ですが・・・根に持たれたのか、この大学の責任ある「教授」クラ
スの人から、夏休期間中に急に電話一本で話しがあるから来いと研究室まで
呼び出されました。そして・・・扉を閉められ、近くに座り、顔を寄せて何
と言ったか。この教授は、自分の奉職している大学であるにもかかわらず、
「ここの大学に来るアホな学生にオマエが一生懸命に文法やらなんやら説明
なんかして教えることなんかやめんかい!ここの学生はみんなレベルが低う
てアホやから、難しいこと言うても分からんのや!学問なんかここで教えん
な!」とネチネチと文句を言われました。この「教授」そのものは、この10
年間、何の論文も書いていないし、きちんとした学術学会で活動経験もない
方ですが、みなさんは、この実態についてどう思いますか?)
日本における外国語教育は、教員の「資質と方法論」に致命的な弱点を持っ
ています。これは、まさしく兵法、戦略、情報と同じ問題でもあるのです。
これを「超克」(今年のポケモンの映画のタイトルみたいですが・・・)す
ることが”一皮ムケる”ことであります。夏の日差しに日焼けして、一皮ム
ケるのも宜しいですが、このメルマガの講座で、脳が一皮ムケるように、
夏の思いでとして認識しておいてください。
(32)スペイン語文法入門―兵法的外国語学習への誘い―(その10)
スペイン語を”じっくり”(=基礎から丁寧に)やると英語も面白くなり、
英語をじっくりやるとスペイン語も面白くなるというのは「ホント!」とい
う「うまい話し」があります。これは、『孫子』に出てくる「迂直の計」で
あり、”遠回り”をするように見えつつ実際には”近道”を進むことであり
ます。みなさんは、失った英語知識や、うろ覚えの英語文法などを今、脳に
復活させ、より”どん欲”に外国語をマスター(=異なる思考の訓練)して
行ってください。
(ゆっくりと丁寧に基礎を押さえて、その後、みなさんが段階的に『孫子』、
『戦争論』、『君主論』などのスペイン語版を読んだり、その他の面白い文
献の講読が可能となるまで展開したいと思っています!その時に効果が出る
ようにみなさんに仕組んでいます!)
☆文法性(ジェンダー)について
「クソややこしい文法性。何であるのか?」という気持ちがわいて来るもの
です。しかし、「彼を知る」という外国語学習では、避けるのではなく、
むしろ逆に観察して納得するに越したことはありません。ここでは、スペイ
ン語と英語とを比較しつつ学んで行きましょう。
英語は、昔々、他の印欧語(インド・ヨーロッパ語)と同じく、その出自は
ゲルマン語の仲間のアングル語、サクソン語が元々でした。この言語の話者
であるアングル人、サクソン人とは、現在のオランダやフリージアなどの
ドイツ北部海岸の低地諸国と言われる地域に居住していました。英語とは、
オランダ語やドイツ語とは兄弟関係なのです。
ですから、現在のドイツ語と同じように英語には、名詞には「性」の区別が
きちんと存在していました。この古い英語を”古英語”(コエイゴ、Old
English)といい、西暦四百五十年から千百五十年ごろまでの英語のことを
いいます。
しかし、途中、古フランス語(九世紀から十三世紀ぐらいのフランス語)を
話していたノルマン・フランク(=ラテン文化に浴した北ゲルマン系のヴァ
イキングがその正体)により、イギリス王位の継承問題から、1016年の
“ヘースティングスの戦い”を通じて、ゲルマン語である英語の上に支配者
の話すロマンス語(ラテン語が母体の言語。フランス語もスペイン語もこの
内のひとつ。詳しくはバックナンバー第16講をご覧下さい。)が乗っかる
ことになりました。この影響で、英語では複雑な
「名詞の格の語尾変化=曲用(テニヲハで名詞の語尾が変化すること)」
が十三世紀までに完全に放棄されていましました。
ここで注意してください。支配を受ける方を「基層」(substratum スブス
トラートゥム)といい、その上に支配者として乗りかかる方を「上層」
(superstratum スペルストラートゥム)といいます。英語の場合には、
基層がアングル人とサクソン人の話していたゲルマン語であり、上層がラテ
ン系のフランス語となるわけです。
この階層間の相互関係から英語は成長して来ました。この時に、名詞の
「格」の語尾変化と共に名詞の「性」の区別も消えていったのでした。しか
し、「数」の方だけは、未だにしっかりと残しており、そして、「格」の方
は、と言えば・・・”語順(5文型!)”や”前置詞”がその語形には出な
くなった役割を担っているのです。
このような歴史上の経緯もあって、英語の文法からは、皆さんが学ぶスペイ
ン語と比べて、かなり「文法上の複雑」なことは無くなって行きました。
そして、英語とは、印欧語にありながら、いわゆる「文法の合理化」=「文
法のリストラ」をとても追求してそれを”達成”した「文法が身軽な」言葉
となって来たのです。それ故に、母国語以外の第二外国語として使用するに
は好都合なところがあります。(このような性格を有する英語という言語で
考えられ、発達した機械が「パソコン」です。)
一方、動詞の語尾変化=活用は、”3単現の-s”を除いて消失し、それに変
わるものとして豊富な助動詞の使用、厳しい語順、二重語性[ゲルマン語起
源/ラテン語起源 ex. freedom / liberty ]等が見られます。
要するに、英語は、ゲルマン語を基層(substratum)として、
上層(superstratum)にロマンス諸語の一派であるフランス語が乗ったもので、
単語の約六割は、ラテン語由来の単語と言われています。よって、スペイン
語を学ばれるみなさんが英語と良く似た単語を頻繁に見られるのは、このよ
うな理由もあります。特に名詞など、特定の語尾の終わり方に対応するパタ
ーンが見られますね(例 スペイン語名詞の –cio’n, -sio’n の語尾は、
英語では、-tion, -sion になっています)。
英語文法は、よくよく見ると、フランス語の影響からロマンス諸語に見られ
る特徴も混在しています。それは、今後、本講座内でも指摘されますので、
楽しみにしておいてください。英語は、ゲルマン語ですが、半分は「ロマン
ス語」だといわれ、だから、本講座でのスペイン語学習が英語学習とも
“システム”しています。これは大変お得ではないでしょうか?
ここで、みなさんにお勧めしておきますが、大型書店の洋書コーナーに行く
と、数種類のSPANISH-ENGLISH DICTIONARY(多くは、ENGLISH-SPANISH
DICTIONARYとも一冊になっています)があります。意外と安い(変動相場で
上下あり。2千円くらい)ので購入して、知っている英単語をスペイン語へ、
習得したスペイン語は、英単語へ置き換えてマスターしてしまうのです。
時間が節約できますよ。スペイン語を習い始めて、英語と違った語形で、
新たに憶えた単語の語源を見ると面白いと思います。多くは、ラテン語起源
ではないでしょうか。
☆名詞の性(ジェンダー)の起源とは
スペイン語文法でお目にかかった”文法の性”の起源については、今日でも
定説は得られていません。もともと、命のあるもの、命のないもの、動的
(流れている水)なもの、静的(流れない水)なもの・・・などの区別から
始まったと考えられています。一つの”記号”(ここでは名詞)というもの
に対して、日本人とは異なった観点を持って表現しているのです。
それから、人間、動物に見られる”自然性(セックス)”の区別を元にして、
森羅万象(太陽、月、森、川、などなど)において、個人の話し手の主観
(受け止め方や感情)によってそれを擬人化し、名詞の性(ジェンダー)の
区別に取り入れて行った・・・と考えられています。
一般には、「雄大、強烈、恐ろしいもの」は男性名詞として、「微小、優美、
可憐なもの」は女性名詞・・・とされています。”文法性”の発生というも
のは、無意味でも不合理なものでもなく、名詞が示すところに持っているも
の(これを「属性」といいます)とか、内容・意味との間において統一的な
関係があったもの・・・と考えられています。即ち・・・、文法性とは、
その発生においては、自然性と一致していたものと思われています。
では、ここで、スペイン語名詞の性について具体的に見てゆきましょう。
ア)自然性と対応するもの
ex.
 男性 padre(父)hermano(兄弟)zorro(雄狐)
 女性 madre(母)hermana(姉妹)zorra(雌狐)
※区別の仕方については、語尾に注意すること。
一般には、男性名詞は-o、女性名詞は-aで終わります。
こじつけの覚え方:
男性名詞 =  otoko ハ -o
女性名詞 =  onnna ハ -a
→それ以外の語尾はどうするのか?
こじつけの覚え方:
○男性名詞:”オ・オール・アヘマン”で終わる(何となく間寛平さんの
ノリですが)
 ”o-or-ajeman”: -o, -or, -aje, -ma, -n
ex.
himno(イームノ 賛歌)
cuchillo(クチーリョ ナイフ、包丁)
matador(マタドール 闘牛士)
sen~or(セニョール 男性への敬称でミスターに相当)
traje(トラーヘ スーツ)
viaje(ビアーヘ 旅行)
libertinaje(リベルティナーヘ 気儘)
telegrama(テレグラーマ 電報)
problema(プロブレーマ 問題)
この”-ma”で終わる男性名詞は、元々ギリシア語からラテン語への借用語
でした。ギリシア語で男性名詞だったので、ラテン語でも男性名詞として
踏襲したのです。これがロマンス語になっても受け継がれました。ローマ人
の”偉い”ところは、征服した地域や敵でも良いモノは良いのでドシドシと
自分たちに取り入れたのです。ローマは、ギリシアを制圧した後、ギリシア
の方が文化的に垢抜けていたので、進んで自らの子弟をギリシア人の下で
教育を受けさせたりしました。
desde’n(デスデーン 軽蔑、蔑視)
espe’cimen(エスペーシメン 見本、参考)
○女性名詞:
(1)”アダ・イエ・イオーン”(何となくジョイマンのようですが)
  ”-a, -dad, -ie, -io’n”
(2)”ス・ス・ウンブレ”
  ”-s, -z, -umbre”
ex.
(1) -a, -dad, -ie, -io’n
-a : espada(エスパーダ 剣)、rosa(ローサ バラ)
-d : universidad(ウニベルシダード 大学)、
   libertad(リベルタード 自由)
-ie : superficie(スペルフィーシエ 表面)、
   especie(エスペーシエ 種類)
-io’n : tradicio’n(トラディシオーン 伝統)、
    nacio’n(ナシオーン 国家)
(2) -s, -z, -umbre
-s : cata’rsis(カタールシス 浄化作用、カタルシス)
   crisis(クリーシス 危機)
-z : nariz(ナリース 鼻)、cruz(クルース 十字架)
   paz(パース 平和)
-umbre : costumbre(コストゥーンブレ 習慣)
     incertidumbre(インセルティドゥーンブレ 疑い、不安)
○男性、女性共通の語尾。これらは、冠詞で判別します。
語尾は:-ista, -ante, -eta, -iota 等のものが多い。
ex.
pianista(ピアニースタ ピアニスト)
violinisita(ビオリニースタ バイオリニスト)
periodista(ペリオディースタ ジャーナリスト)
comunisita(コムニスタ 共産主義者)
budista(ブディースタ 仏教徒)
deportista(デポルティースタ スポーツマン)
estudiante(エストゥディアーンテ 学生)
agente(アヘーンテ 工作員、エージェント)
atleta(アトレータ 選手)
espi’a(エスピーア スパイ)
camarada(カマラーダ 戦友、同志)
compatriota(コンパトリオータ 同胞人)
testigo(テスティーゴ 証人)
文法性で意味の変わるものもあります。
例)
el capital 資本 (エル・カピタール)
la capital 首都 (ラ・カピタール)
el cura 住職(教会の僧職)(エル・クーラ)
la cura 治癒(ラ・クーラ)
el moral 桑の木 (エル・モラール)
la moral 道徳・士気 (ラ・モラール。英語はアクセントの位置で両者
を区別)
el radio 半径、ラジウム(エル・ラーディオ)
la radio ラジオ放送(ラ・ラーデイオ)
ドリル)
今回、習った既出の名詞について、定冠詞・単数(el かla)を付けて発音練習してみましょう。
その時、定冠詞と名詞は、一語のように読むようにしてください。
では、次回をお楽しみに!