「亡国のイージス」を鑑賞しました。 – 日本列島波高し(2)

今評判の映画「亡国のイージス」を鑑賞しました。海自OBとしてはストーリーもさることながら海上自衛隊がどのように描かれているか気になるのは否めません。見終えた直後の感想としては前評判どおりの力作で、海自も比較的正確に描かれていて、後味は予想より良かったですね。先月見た「戦国自衛隊1549」の荒唐無稽さに比べれば格段に良かったです。
この映画の概要や宣伝は既に巷に溢れているので、ここは一つ、OBの目で重箱の隅をつついて気付いたこの映画のアラ探しをしてみましょう。
 私の入った映画館は西銀座マリオン(昔々の日劇)にある丸の内ピカデリー1で、初日でした。映画館の入口にはどこから持ってきたのか本物とおぼしき艦艇戦闘システムのディスプレイ。その横には第3種夏制服(半袖の開襟シャツ)の一等海尉のマネキン。ピカピカの純白でとてもカッコいい・・・筈が、良く見ると靴だけはスリップオンの黒靴でやゝガッカリ。これも白靴に揃えてほしかったなぁ。ちなみに海軍士官は白ズボンには白靴が定番です。それも昔は今のような革製ではなくて、蒸れないリンネル布製でした。
 館内に入るとロビーの壁一面にイージス艦「いそかぜ」のでかい構造図。映画の中でアクションの起きる場所が説明されています。売店では「いそかぜ」のエンブレム入り部隊識別帽やTシャツ、海自の階級章入りストラップ等々。何だか、まるで観艦式で見学者をたくさん乗せた日の艦内売店のようでした。都内の一つの映画館でこれですから、防衛庁・海幕の広報の力の入れ方が強く感じられました。(この劇場では初日の舞台挨拶があったから特別仕様かな?)両国花火の宵でしたがお客の入りもほゞ満席で、ヒットが予感されます。
 映画は総じて良くできていましたが、真田広之の演じる先任伍長や中井貴一の某国特殊工作員のカッコよさとは対照的に乗組幹部自衛官のカッコ悪さが目立ちます。主役である寺尾聡の副長を除いて皆どうもイマイチ。防衛本庁側でも海将の統幕議長や海幕長もダサイですし、防衛庁長官は全く揶揄の対象です。そのような役作りなのでしょうが、元海自幹部としてはやゝ憮然ですね。
 原作の予備知識が無いままでこの映画を見ると、ところどころ話の飛躍や説明不足を感じます。特に最初のうちは副長が反乱を起こす動機が今一つよく分からないし、他の幹部がそれに付いて行く理由も不明。昔の教官と教え子らしいのですが、三島由紀夫と彼の部下達みたいなイメージなのでしょうか?
更に、中井貴一演じる某国特殊工作員リーダーの深い意図というのも舌足らず。女性の特殊工作員は彼の妹だそうですが、彼女の登場する意味などは今でもよく分かりません。(蛇足ですが、この役を演じた韓国女優はこの映画に出演が決まってから韓国内で干されちゃったとか。かわいそうに・・・)
 中井貴一が劇中で何度もクチにする“ニッポン人”の平和ボケ罵倒はとても憎々しい表現で胸に刺さるのですが、共感を覚えたのも確かです。
 戦闘場面で気に入らないのは・・・
僚艦「うらかぜ」が2発目のハープーンであっさりと撃沈されて、CIWS(弾を消防水のように撃ち出すロボット機関砲)やチャフ(細かいアルミ箔の電波用煙幕)が全く登場しないことですね。
実際のミサイル戦では多数の弾による同時着弾で幾重もの防御手段を飽和させないと命中しませんし、命中しても一発で轟沈と云うことは無いでしょう。
また、SPY-1D(イージス艦の巨大な高性能レーダー)の探知半径が防衛庁作戦室のスクリーンでは非常に小さく表現されていますが、実際は関東平野全部がスッポリ入るぐらいの範囲です。
 やゝ専門的なことでは、艦内防御(ダメージ・コントロール)がウソですね。艦内爆発があって外舷に大穴が開いたのに、周囲の防水扉蓋(ハッチや水密ドア)を材木や楔で押さえて固めないで、その上の区画からも直ぐに逃げ出すなんてことはあり得ません。これは浸水に対する基本中の基本で、全乗員が「防水訓練」で徹底的に叩き込まれています。でもこれが実際のように完全に塞がれては、先任伍長が艦内に潜入できなくてドラマが進展しないからやむを得ないかなぁ・・・。(^-^;)ゞ
 このとき水中からハンドルを回してハッチを開けるとサッと開きましたが、実際なら浸水区画の天井部には大きな気泡(空気溜まり)が残っているであろうし、ハッチを開ければ下からの水圧で跳ね上げられて奔流が艦内に入る筈で、気圧や水圧の加わったハッチの開放は極めて危険な作業です。艦の傾斜も更に大きくなることでしょう。
 最後に主役「いそかぜ」は操艦する者も無く火力発電所に向けて直進するのですが、これも不自然。そもそも「大破孔」と「舵故障」の艦が直進する筈がないですし、ヘリが10機以上も飛来しながら艦の暴走状態を放置したままで先任伍長のレスキューを先にやるなどあり得ません。作戦の常道では、まずグソー(映画に登場する架空の大量殺戮化学兵器)の確保、艦のコントロール確保、敵の排除、爆発の危険の除去、それからレスキューという手順ではないでしょうか。
 そして最後の爆沈ですが・・・
直前まで実写で迫力のあったDDGが突然アニメ風の下手な絵に変わってしまいました。いくらCGでも、もう少し臨場感のある画面が描けないものか・・
ここら辺が日本映画の実力の限界かな・・・などと感じた「亡国のイージス」でありました。
 その他「指揮権委譲」に関する話題もありますが今日は省略・・・と、ここまで野暮なケチ付け話をしてみましたが、分厚い原作を2時間少々にまとめるためにやむを得ぬ苦労もあったことでしょう本当に見応えのある素晴らしい映画だったことを改めて強調させて頂きます。
以上、ヨーソロの管見映画鑑賞でした。

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