「自衛官の引越し」 日の丸父さん(10) 石原ヒロアキ

2019年2月6日

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はじめに

今回は引越しの話です。
エッセイや漫画に描いたとおり、
自衛官はとにかく引越しをします。
「引越し貧乏」という言葉があるくらいです。
私も十数回近く引越しをしたのではないでしょうか。
しかし、引越しはデメリットばかりではありません。
違う生活環境に置かれることである意味気分一新し、
気持ちの整理ができるだけでなく、
普段かたづけられないものを思い切って捨てること
ができるので家の整理整頓にもなります。
そうすると普段からなるべくものを持たないようになり、
すっきりした暮らしが自然とできるようになります。
逆に、家を持った瞬間、その反動からか
余計なものがたまり始めました。
いま引越しをしようとしたらとんでもないことに
なるかもしれません。
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自衛官の引越し

前回自衛官の引越しについて少し書きました。
今回はその引越しがメインテーマです。
幹部自衛官、とくに防衛大学校や一般大出身の
幹部は、平均2年ごとに異動があります。
勤続年数は32~34年くらいなので、多い人では
17回の引越しを経験することになります。
当然手当は付きますが、家族で移動となると
費用がかさみます(たとえばピアノとか)。
これが「引越し貧乏」と言われる理由です。
引越しには準備するタイミングが大事です。
異動内示が出てから引越し準備が始まるのですが、
その内示がなかなか出ない場合があります。
とくに1佐以上になると、
異動日まで1週間くらいしかない場合があります。
1週間で異動先の官舎の調整や引越し業者の
選定などをしなければなりません。
子供がいる場合、転校の手続きも必要になります。
異動は主に3月と8月の年に2回あります
(将官など高級幹部の場合は別)。
8月は異動のシーズンを外れているので問題は
ないのですが、3月は事務官や一般の公務員など
の異動が集中するため、引越し業者がなかなか
見つからないこともよくあります。
自衛官の場合、最後の手段として大型を
レンタカーで借りて、引越しを職場の仲間に
手伝ってもらうという手があります。
自衛官はたいがい大型免許を持っているからです。
とくに引越し業者が少なかった20~30年前までは、
自衛官どうしで助け合っていました。
しかし当然業者のような引越しのプロではありませんし、
引越し用の器材もありません。そこでいろいろな
ハプニングが起こります。私の場合、タンスに穴を
あけられました。
またある人は、タンスを誤って2階から落とされて
バラバラにされたこともあります。それでもとくに
問題になることはありませんでした。今と比べると
おおらかだったのでしょう。
官舎の奥さんたちは、荷物を出したあとの部屋
のふき掃除などを手伝ってくれます。最後に業務隊
の官舎係の点検で終わりです。
引越しというのは住環境が変わるので、
かなりのストレスですが、とくに家族にとっては大きい
と思います。人間関係をまたゼロから始めなければ
いけませんし、生活そのものが激変する場合が
あるからです。以下私の例です。
若いころ、私は福岡の市街地の官舎から本州の
とある村の官舎に引越したことがありますが、
まわりは何もなく、買い物も、通院も、外食も
すべて車が必要なところでした。
通勤経路も田んぼのあぜ道で、
往きは毎朝近くの牛に挨拶をし、帰りは街灯が
ないため懐中電灯をもって用水路に落ちないよう
注意して歩かねばなりませんでした。
官舎も昭和30年代の木造平屋で、
隙間だらけのうえ、部屋の中央が凹んでいます。
冬は水道の蛇口から氷柱ができ、
夏は屋根がトタンのため、耐えがたい暑さになりました。
官舎代が月2000円だったのを覚えていますが、
とても人が住める環境ではないと思いました。
子供はまだ赤ん坊だったので学校の心配は
ありませんでしたが、妻はかなりのショックを受けて
いました。引越しをしたその日に泣きながら
「早くここから出してよ」と言われ、一念発起。
家族のため猛勉強をして、幹部学校(当時は市ヶ谷)
の試験に合格し、1年でその官舎を脱出、
東京近郊に移ることに成功しました。
ほかの軍隊ではどうでしょう?
米軍の場合、海兵隊がいちばん転属が多く、
ひどいときは3カ月ごとに世界中を異動します。
主に日本、韓国、ドイツですが、彼らの場合、
移動に家族ぐるみで軍用機の使用ができるそうです。
自衛隊でもかなり昔には自前のトラックで近距離
の引越しを支援したり、小学生の通学にトラックを
出したことがあると聞いたことがありますが、
さすがに飛行機はないでしょうね。
そういえば私の同期が駐屯地のリヤカーを
借りて引越しをしていたのを思い出しました。
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(つづく)
(いしはら・ひろあき)
【著者紹介】
石原ヒロアキ(ペンネーム)
1958年、宮城県石巻市生まれ。青山学院大学卒業後、陸上自衛隊入隊。
第7化学防護隊長、第101化学防護隊長を歴任。その間地下鉄サリン事件、
福島第1原発災害に出動。2014年退職。学生時代赤塚賞準入選の経験
を活かし、戦争シミュレーション漫画『ブラックプリンセス魔鬼 全10巻』
(電子書籍版)を発売中。『漫画で学ぶサイバー犯罪から身を守る30の
知恵』(ラック サイバー・グリッド・ジャパン・並木書房)の漫画を担当。
家族3人(一女)。本名:米倉宏晃。
『ブラックプリンセス魔鬼』
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『漫画で学ぶサイバー犯罪から身を守る30の知恵』
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※最近「石原ヒロアキまんが館」(URL:http://okigunnji.com/url/97/)
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ここには、化学学校ホームページで掲載中の4コマ漫画
『CBRNロボタマ子さんが行く!!』を毎週1話ずつアップしていきます。
このホームページは部内用なので普通閲覧できませんが、
CBRN(シーバーン)の啓蒙も兼ねて化学学校の許可を得て
掲載しています。ぜひご覧ください。