「自衛隊と動物」 日の丸父さん(2) 石原ヒロアキ

2019年2月6日

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はじめに

今回の「日の丸父さん」は、「自衛隊と動物」です。
漫画では「樹海からの脱出」と題して、自衛官の日常を描いています。
普通の人とちょっと違った日常をお楽しみください。
さて、これと並行して『ブラックプリンセス魔鬼』も
第5巻が出ました。この2つの漫画は、平時と有事を描き分けていて、
いわば一対になっています。
「魔鬼」は戦争シミュレーション漫画です。
戦争モノを正確に描こうとすると、自衛官OBの場合、どうしても
守秘義務という壁にあたります。
そこで、際どいところは魔女やブラックユーモアで隠喩的に表現しています。
最近発売になった「魔鬼」の
第5巻は、いよいよ日中開戦直前の様子が描かれています。
教育訓練や兵站の準備が終われば、あとは実戦ですが、
現代はサイバー戦が重要な地位を占めています。
第5巻はこのサイバー戦が
メインです。しかし、サイバー戦は「秘」が多く、かつビジュアルに
表現するのが困難で、いかに読者に理解してもらうか苦労しました。
そこで日本のサイバー戦の第一人者の協力を得ることにしました。
第25話「開戦前夜」は、
その方との議論の末に完成させたものです。サイバー戦も攻撃があり
防御があり逆襲があります。
その本質的なところは描くことができたと自負しております。
ぜひ「日の丸父さん」とあわせてご覧いただければ幸いです。
なお、「日の丸父さん」は、これからも描き続ける予定ですので、
もし自衛隊についてこれが知りたい、こんな話が読みたいというのが
ありましたら、ご希望、ご意見をお寄せください。
お待ちしています。
さて、本編に入ります。

自衛隊と動物

「牛」
九州の演習場には牛がいます。自衛隊のものではなく、
近くの農家が防衛省と協定を交わして演習場に放し飼いにしている
のです。訓練中でも牛はおかまいなしに歩き回ります。
思い出1:教官から「その場に伏せ」と言われ、伏せようとしたら
牛の糞だらけだった。躊躇していたら「こら、伏せんか!」と怒られ
仕方なくそこに伏せた。
思い出2:防御訓練中、「敵が来る」と言われ、旗を持った敵部隊が
来るかと思ったら牛が大挙して押し寄せてきた。
思い出3:訓練が終わり、天幕で寝ていたら翌朝、飯盒が牛の唾液
でべっとり汚れていた。
思い出4:銃を置いて休憩していたら、その間に牛が銃の上にまたがり
銃を取れなくなった。なんとか牛を動かして無事に銃を取り戻したが、
なかには牛に踏みつけられて銃身が曲がったものがあった。
思い出5:あるとき、防御訓練をしていて、蛸壺(タコツボ)に身を潜ませて
いたら、中隊長から「穴から出ろ!」と無線で怒鳴られた。なにごとかと
蛸壺から身を乗り出して後ろを振り向いてみたら、なんと農家の人が
野焼きをやっていた! いい“牧草”を育てるためだが、農家の人には
自衛官より牛が大切らしい。
「熊」
本州にはツキノワグマがいますが、演習場ではめったに会いません。
しかし、北海道ではよく出ます。ヒグマが。そのときは「熊警報」という
アドバルーンがあがり、訓練は一時中止になります。
私が本州の部隊にいたとき、北海道へ転地訓練がありました。
本州の人間はヒグマをあまり見慣れていません。訓練中の部隊から
「熊の足跡を見た」という情報が入り、警務隊が検証に行きました。
日ごろ足跡鑑定などを訓練している警務隊ですが、動物の足跡は
さすがに経験がないみたいでどうも鹿らしいということになりました。
その直後、熊を目撃した隊員が現れ、ただちに熊情報が出たのですが、
警務隊に対する信頼が一時さがりました。
訓練中に直接被害にあった話は聞いたことがありませんが、
熊が出たら車両に避難して警報が消えるまで待機します。
あるとき自走155mmりゅう弾砲の実射訓練中にヒグマが現れ、
隊員があわてて自走砲の中に避難したことがあったそうです。
そのヒグマはよほど腹に据えかねていたのでしょう、40トンもある
自走砲をゆさゆさと揺さぶったそうです。
「キツネ」
北海道の演習場や駐屯地ではよくキタキツネを見ます。
エキノコックスという風土病があるので、触らないよう注意されますが、
彼らは残飯などをあさりに来ます。スキー訓練中に後で食べようと
おにぎりを雪の中に隠していたら、キツネに食べられていたことが
ありました。
「鹿」
これも北海道の演習場ではよく見ます。矢臼別(やうすべつ)演習場
という、日本最大の演習場があり、ジープで鹿と並走したことがあります。
道路を横断することがよくあるので、事故も多発します。人よりも鹿の
飛び出しに注意が必要です。かつて旭川駐屯地には野生の鹿がいた
こともあります。
「ヘビ」
レンジャー隊員はヘビをよく食べます。レンジャーは山野で自活せねば
ならないため、ヘビのさばき方を学びます。私が幹部候補生のとき、
レンジャー出身の教官が生きたヘビを目の前でさばいて心臓を食べて
見せたことがあります。病気にならないか心配になりました。
「猪」
私は、猪は見たことありませんが、実際演習場には結構いて、部外者が
ワナを仕掛けています。「猪のワナ注意」と標記してありますが、我々に
通知はありませんし、標記も演習場の外に向いていて、内部の自衛官
には見えません。自衛官のことをまったく考えていません。なかには猟銃
をもって演習場をうろついているものもいて、非常に危険です。
「今訓練中で危険ですから出て行ってください」と注意しても、「どうせ鉄砲
に弾なんて入ってないんだろう」と言ってやぶの中に消えていきました。
「その他」
駐屯地に野良犬やウサギがいる場合があります。飛行場がある場合、
航空機の運航に支障が出るので、定期的に排除します。野良猫もいて、
駐屯地から出る残飯を餌にしている場合があります。野良犬はしばしば
駐屯地のマスコットになります。非常呼集のさいに最初に反応して吠えた
ということで、表彰されて副賞にドッグフードをもらった犬がいたことを
聞いたことがあります。

きょうの漫画はこちらから↓

「樹海からの脱出」

※2月29日まで無料
[石原ヒロアキTwitterより] ※2月29日まで無料
けっして語られることのない、自衛官と家族の日常。ちょっと切なく、心あたたまるハートウォーミングな短編です。
今回は、小鹿との出会いからはじまるギャグ満載の作品ですw
(つづく)
(いしはら・ひろあき)
【著者紹介】
石原ヒロアキ(ペンネーム)
1958年、宮城県石巻市生まれ。青山学院大学卒業後、陸上自衛隊入隊。第7化学防護隊長、第101化学防護隊長を歴任。その間地下鉄サリン事件、福島第1原発災害に出動。2014年退職。学生時代赤塚賞準入選の経験を活かし、戦争シミュレーション漫画『ブラックプリンセス魔鬼 全10巻』(電子書籍版)を発売中。『漫画で学ぶサイバー犯罪から身を守る30の知恵』(ラック サイバー・グリッド・ジャパン・並木書房)の漫画を担当。家族3人(一女)。本名:米倉宏晃。
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