日下公人・上島嘉郎:「大東亜戦争「失敗の本質」 」
こんにちは、エンリケです。
日下公人さんといえば「優位戦」です。
優位戦とは劣位戦の対極にある考え方をいいます。
攻守自由自在、戦うルールから勝敗や和平の定義まで決められる立
場から仕掛ける戦いのことです。
いっぽう、わがイニシアティブなき立場から行う戦いを「劣位戦」
といいます。
優位戦を行う上で必要なのが「拡散思考」です。
「イフ」の話を広く展開できることが「拡散思考」で、その逆が
「絞り込み思考」です。
わが国が世界の主役となる21世紀。優位戦を通じてわが国のかじ
取りを行う人材は必要不可欠といえましょう。WW1後の失敗を繰
り返さないためにも。
幸い今のわが国は、優位戦をしっかり理解して実践できる安倍首相
というリーダーがいるからいいのですが、ポスト安倍の時代は必ず
来るわけで、それに備える必要が生まれています。
安倍首相への風当たりが強い理由も、戦後日本社会の国内エリート
たちが対外的に国益を図れなかった理由も、すべて「優位戦」とい
うキーワードで解読できます。
そこで本著です。日下公人さんと上島嘉郎さんの対談本なんです
が、面白いのは、戦史から学ぶための戦略と戦術をきちんと明示し
ている点です。戦略が「優位戦」、戦術が「拡散思考」です。
これまでのわが国では庶民レベルで学ぶことのできなかった、
「「拡散思考」を通じて「優位戦」を展開するクセ」を身につけら
れる本なのです。
大東亜戦史については、戦史叢書など種々の立場から資料や書籍が
公刊されており、今に活かす価値ある教訓を紡ぎだすことは可能な
はずです。しかし、今のわが国の現状を見て、きちんとできている
とはとても思えない、と感じるのは私だけではないでしょう。
大東亜戦争がわが敗北で終結したという事実は確かにありますが、
だからすべてわが国が悪かった、という情緒的結論に終始している
現状はどう考えてもおかしいです。
日下さんに言わせれば、この風潮は、典型的な「劣位戦」による
「絞り込み思考」の結果であり、こういう姿勢からは教訓をくみ取
って正しい認識を生み出すことも、わが将来の展望につなげること
もできません。
優位戦に関する本は何冊も出ていますが、優位戦ができるようにな
るにはどうすればいいか?という点に穴がありました。
本著は、大東亜戦争を題材にその穴を埋める試みといえます。
対談相手の上島嘉郎さんは異色の経歴を持つ月刊「正論」の元編集
長で、ことばの明晰さ・骨太さ・歴史観にファンの多い方です。
両人とも歴史や軍事に関する知識が半端ではなく、ツーといえばカ
ーという感じで対話がしっくりかみ合っています。実に心地よく、
知的快楽を味わえます。応用範囲も自由自在です。
上島さんという格好のパートナーを得たせいか、日下さんも、いつ
になくすごく深いレベルの話や「あっ」と思わせる言葉をあちらこ
ちらに残しています。
いちばん心に残ったのが、帝国海軍はインド洋の確保になぜ力を注
がなかったのか?という点でした。マダカスカルの甲標的について
調べものをしていたときに接した英国海軍関係者のことばに、同様
のものがあったと記憶しています。
「戦史イフよみもの」はもう腹いっぱいという人も多いでしょう。
そういう方は無理に読まなくて結構です。
類書とは一線を画す、日本人の「優位戦感覚」を養う格好のよみも
のですから、自分をより成長させ、祖国に貢献したい人には超オス
スメです。
大東亜戦争「失敗の本質」
日下公人/上島嘉郎
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エンリケ
参考
◆著者紹介
日下公人
評論家。日本財団特別顧問。三谷産業株式会社監査役。日本ラッド
株式会社監査役。多摩大学名誉教授。1930年、兵庫県生まれ。東京
大学経済学部卒業。日本長期信用銀行取締役、ソフト化経済センタ
ー理事長、東京財団会長などを歴任
上島嘉郎
ジャーナリスト。1958年、長野県生まれ。愛媛県立松山南高等学校
卒業。フリーランスを経て、91年に産経新聞社入社。サンケイスポ
ーツ編集局整理部を経て95年に退社。『月刊日本』創刊編集を務め
る。98年、産経新聞社に復帰。以後、雑誌『正論』編集部、2005年
に『別冊正論』編集長、06年11月に『月刊正論』編集長に就任。10
年9月まで月刊と別冊の編集長を兼任(総括編集長)。同年10月より
雑誌『正論』編集委員兼別冊編集長。14年7月、産経新聞社を退社
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