日の丸父さん(24)「定年の日」 石原ヒロアキ
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はじめに
皆さんは定年の時、何を思うのでしょうか? これまでの仕事や職場の思い出が走馬灯のように浮かぶのでしょうか? 仕事仲間との別れを思い、ちょっぴりセンチになるのでしょうか? 定年が近づくにつれ、私もそのような感慨にひたるのかなと思っていましたが、現実は違っていました。再就職先はどこか? そして再就職して年金をもらうまで安定した収入が得られるか? 常に不安の日々だったのです。
「ベトナムではガンシップを操作し、戦車を操縦し、100万ドルもする装備を任せられていたんだ。それなのに帰還してみればどうだ? 駐車場の警備員にすら雇ってもらえない!」映画ランボーで最後に主人公が吐く言葉です。胸に刺さります。
謝辞
「平時の自衛官を描いて、自衛隊の一端を理解してもらいたい」という思いで2年にわたって描き続けた作品が完成しました。これまでこの作品の作成に多くの貴重なアイデアを提供していただき、励ましてくださった並木書房編集部に深く感謝いたします。また発表の場を与えてくださったメルマガ「軍事情報」と応援してくださった読者の方々に心より感謝申し上げます。
そして、この作品のモデルになってくれた自衛隊関係者の方々や私の家族にも深く感謝いたします。これからも自衛官を応援する作品を描き続けていこうと思います。ありがとうございました。
自衛官の定年退職
自衛官は国家公務員ですが、「特別国家公務員」であり、通常の公務員よりも定年が早いのが特徴です。基本的に将官は60歳、1佐は56歳、2、3佐は55歳、1尉~1曹までは54歳、2、3曹は53歳となっています。
医官や薬剤官あるいは音楽科や警務科など一部は60歳のところもありますが、基本は国家公務員の60歳よりもはるかに若いのです。海上保安官、警察官、消防士でも定年は60歳です。他官庁への再雇用(たとえば環境省の原子力規制庁など)も含め、再任用というもう一度公務員になる制度がありますが、ごく一部の自衛官に限ります。
つまり年金をもらうまで(年金受給は基本的に65歳から)再就職をしないとほとんどの自衛官は食っていけません。ですから自衛隊は就職援護にものすごく力を入れています。
退職予定者に対しては、技能訓練、自動車操縦訓練、通信教育、業務管理教育などの施策を行なっています。技能訓練は、大特、IT、クレーン、自動車整備、ボイラー、危険物取扱などの資格を取れるよう内部の施設で訓練することです。
自動車操縦訓練は、大型免許を取得できるような訓練です。陸曹の場合は、大型免許はほとんど持っているので関係ありません。通信教育は社会保険労務士、衛生管理者、宅地建設取引主任などの資格を所得できるようにすることですが、とくに時間を与えるわけでもなく、教育者もいないので自助努力です。
業務管理教育はいわば社会に出る準備教育のようなもので、退官2~3年前くらいから約1か月間行なわれます。再就職の際の心構えとか、パソコンの使い方とかが中心で、いわば大学の就活指導のようなものです。
これらの教育訓練は就職に非常に役に立ちますが、資格を取ったからといって希望の補職に就けるとは限りません。就職援護の担当職員は、自衛官の再就職先になりそうな業者を回って必死に退職者を売り込みますが、業者側としては自衛官の特性である規律正しさや真面目さ、健康面をより重視します。
採用する業者で多いのは警備、損保等の会社です。年収は地方によって違いますが、現役のほぼ半分になります。そのため若年給付金という制度があって、退職金にプラスされるようなものですが、とても年金まで食いつないでいけるような額ではありません。
1佐の退職者も就職先は似たようなものですが、職域はやや広がります。最近では防災担当官という職務が自治体で増えてきており、自衛官OBがよくそこに就いています。彼らは自治体が主催する防災訓練を企画・計画し、警察、消防、自衛隊との調整に現役時代に培った知識、経験、人間関係を生かして実力を発揮します。
また、技術系の1佐は防衛産業の顧問になる例がよくあります。しかしこれは世間一般に言われるようないわゆる天下りとは違います。民間の技術者は、自衛隊のことがわかりません。装備品の開発では、業者と自衛隊の技術者どうしが定期的に会議を開催して認識を統一しようとしますが、しょっちゅう会えるわけではありません。
話はちょっとずれますが、ある会議で「自衛官は、今までのデータによると100kgの装備を身に付けても倒れない」と言った技術者がいました。自衛官は立っているだけでは意味がありません。走ったり、銃を撃ったりするのです。このような例は枚挙にいとまがありません。
ですから運用ニーズに合った装備品を開発するには、業者側に技術にも運用にも詳しい技術系のOBが必要になります。彼らは業者と自衛隊をつなぐ橋渡しを期待されて採用されます。彼らも年収は約半分になりますし、きちんと毎日出勤します。結構はたで見ているよりも大変なのです。
再就職しても安泰とは限りません。65歳前で第二の定年を迎える人もいますし、新しい職場が合わずにすぐにやめてしまう人もいます。私の経験上、第二の人生を成功させるには、健康はもちろん、いかなる環境にも対応できるような精神の柔軟性と、良好で幅広い人間関係の構築が必要です。
自衛隊と民間企業は風土、文化が違います。いつまでも目に見えない階級章を付けていては誰からも相手にされなくなります。仮に新しい職場が向いてなくてやめざるを得なくなったとしても、良い人間関係があれば、必ず誰かが助けてくれます。
幸い私は人間関係に恵まれ、今では充実した第二の人生を送っています。三十余年の自衛官人生は辛いこともありましたが、楽しいことも数多くありました。その中でも最もよかったのは良好で幅広い人間関係を築けたことです。これは人生の宝物と思っています。
長いあいだご愛読ありがとうございました。
(石原ヒロアキ)
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【著者紹介】
石原ヒロアキ(ペンネーム)
1958年、宮城県石巻市生まれ。青山学院大学卒業後、陸上自衛隊入隊。第7化学防護隊長、第101化学防護隊長を歴任。その間地下鉄サリン事件、福島第1原発災害に出動。2014年退職。学生時代赤塚賞準入選の経験を活かし、戦争シミュレーション漫画『ブラックプリンセス魔鬼 全10巻』(電子書籍版)を発売中。『漫画で学ぶサイバー犯罪から身を守る30の知恵』(ラック サイバー・グリッド・ジャパン・並木書房)の漫画を担当。家族3人(一女)。本名:米倉宏晃。
『ブラックプリンセス魔鬼』
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