日の丸父さん(19)「日米共同訓練」 石原ヒロアキ
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はじめに
今回は日米共同訓練の話です。米軍は定期的に日本に来て自衛隊と共同訓練をしています。私は自衛隊入隊以来、何度も彼らと一緒に訓練を受けました。
その時いちばん印象に残っているのは、圧倒的な兵站能力の差でした。量もそうですが、輸送能力や物流の管理能力といったあらゆる面で目を見張るものがあります。演習上の話ですが、「弾が余ったらあげる」と言われた時には本当にたまげました。
実戦経験も豊富な彼らですが、自衛隊に対しては「プロフェッショナリズムにあふれている」「よく訓練され、整備能力も高い」という評価を何度となく聞き、とてもうれしかったことを覚えています。
お互いの良い面を認め、理解を深めるところから信頼が生まれるということを実感しました。米軍に関しては、また別の機会に漫画に描こうと思っています。
石原ヒロアキ「まんが館」を立ち上げました。 現役時代に頼まれて描いた4コマ漫画もアップしています。
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日米共同訓練
自衛隊は米軍と定期的に共同訓練を実施しています。陸自の場合、カウンターパートは米陸軍か海兵隊です。訓練は2種類あり、実動訓練と指揮所訓練に分けられます。
実動訓練の場合、自衛隊はおおむね連隊規模、米軍は大隊規模ですが、指揮所訓練のYAMASAKURAになると方面隊規模です。今回の漫画ではYAMASAKURAのエピソードです。
訓練では多くのことを学ぶことができます。お互いの編成装備、戦い方、日米間の調整要領などです。しかし、訓練そのものよりも、私は訓練中に湾岸戦争やイラク戦争など、実戦を経験してきた彼らの教訓事項や体験談を数多く聞くことができ、とても有意義でした。
そのとき強く感じたのはイスラム教徒への彼らの強烈な不信感です。米軍は宗教色の強い軍隊です。チャプレンという従軍牧師がいて、宗派(カソリック、プロテスタント、ユダヤ教など)ごとに存在します。
訓練前や戦闘前に彼らは兵士の無事を祈ります。米軍は人種や宗派に対して平等であり、基本的に差別はないと思っていました。しかしイスラム教徒には強烈な嫌悪感を持っています。
2004年のスマトラ沖地震での災害派遣の話になった時です。東南アジアの多くの国が被災し、22万人の死者を出したのですが、彼らが「タイ人は仏教徒でかわいそうだが、インドネシア人はほとんどイスラム教徒だから死んで当然」と言ったのにはたまげました。
当然イランはじめ多くのアラブ諸国にも敵愾心を持っています。軍隊は社会の縮図とよく言われます。アメリカがアラブ政策には常に軍事力を背景に強硬に出る理由がなんとなくわかりました。
実戦経験は、兵士によって様々です。ある兵士は湾岸戦争の時、戦車兵で戦っており、敵戦車3台を撃破したと自慢していました。またある兵士はゲリラ戦の悲惨な状況を語っていました。
特に印象に残ったのはある指揮官の話です。彼はイラク戦争の時、化学部隊指揮官でした。バグダッドが陥落し、大規模な戦闘はすぐに終わりましたが、ゲリラ戦は続きます。主力が本国に帰るとき、ファルージャを制圧するために一部を残すことになりました。そのとき彼は自分の部下から残す兵士を指名するよう命ぜられたのです。帰る人間と残る人間には天国と地獄の差があります。そうとう辛かったでしょう。なにより部下を戦場に残して自分が帰ることは身を切られる思いだったに違いありません。
米軍の兵士は世界中に展開しています。彼らは「自由と民主主義を守る」という使命感に基づいて任務を遂行しています。我々ならば「国を守る」という使命感が基礎にありますが、世界の警察官たちは違います。
日米共同訓練中、ある演習場の入り口で市民グループが「日米共同訓練反対」「米軍は帰れ」とプラカードを掲げてシュプレヒコールを繰り返していました。それを見ていた米兵に「あれ見てどう思う?」と質問したところ、「我々はあのように自由に発言できる民主主義と彼らたちを守っているんだ」という答えが返ってきました。
最初はそのように答えるよう教育されているのかとも思いましたが、彼らとの付き合いが長くなるにつれて、どうもアメリカ人は本気で自由、民主主義というものを大切にしていると感じるようになりました。彼らは今日も「自由と民主主義」を守るために世界のどこかで戦っているのです。
最後に東千歳駐屯地でのエピソードを1つ。米軍は指揮所訓練では、昼夜の2交代制で勤務に就くため、空いた時間は観光やショッピングをします。それを楽しみに来るものが大半と言っていいでしょう。しかし時期は厳寒の2月、ハワイから来た兵士は雪を見るのも初めてという者もいます。北海道の大地に降り立った瞬間、滑って骨折してしまい、そのまま本国送還になったものが何人かいたことは残念でなりませんでした。
(いしはら・ひろあき)
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『日の丸父さん(1)』(1~12話)
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【著者紹介】
石原ヒロアキ(ペンネーム)
1958年、宮城県石巻市生まれ。青山学院大学卒業後、陸上自衛隊入隊。第7化学防護隊長、第101化学防護隊長を歴任。その間地下鉄サリン事件、福島第1原発災害に出動。2014年退職。学生時代赤塚賞準入選の経験を活かし、戦争シミュレーション漫画『ブラックプリンセス魔鬼 全10巻』(電子書籍版)を発売中。『漫画で学ぶサイバー犯罪から身を守る30の知恵』(ラック サイバー・グリッド・ジャパン・並木書房)の漫画を担当。家族3人(一女)。本名:米倉宏晃。
『ブラックプリンセス魔鬼』
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