日の丸父さん(13 )「受験勉強」 石原ヒロアキ

2019年2月6日

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はじめに

受験勉強は、大学入試で終わると思っていました。自衛隊は特定の武器や部隊を扱うような職業訓練学校(富士学校のような職種学校)みたいなのがあるとは知っていましたが、その上にそびえ立つ幹部学校というのがあり、激しい受験勉強があるというのは入隊してからわかりました。さらに驚くのは、合格させるために所属部隊の部隊長はじめみんなが応援してくれることでした。
しかしこれは自衛隊だけではなく、アメリカはじめ世界の多くの軍隊が上級将校を育成するために採用している制度なのです。旧陸軍でも陸軍大学校というのがあり、卒業生は天保銭(卒業生が胸につける徽章が天保銭に似ていたため)と呼ばれ別格扱いされていました。
自衛隊の場合は幹部学校を出たからといってそのような徽章はありません。今も昔もそうですが、本当に必要な資質は部隊で培われるのです。
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覚えることが山のようにある幹部学校試験

自衛隊には試験があります。陸士が陸曹になるとき、陸曹が幹部になるときなどです。そして最も大変なのが、幹部が幹部学校(旧軍の陸軍大学校や海軍大学校)に入るときの試験です。今回はこの幹部学校の受験についてのお話です。
陸上自衛隊の幹部は、幹部候補生学校(久留米)にまず入校します。防衛大学校出身者(Bと言います)は卒業後すぐに、一般大出身者(Uと言います)は幹部自衛官の採用試験合格後、部内者つまり陸曹(Iと言います)は部内選抜試験の合格後になります。
Bは約300~350名(任官拒否者数により増減があります)、Uは100名前後、Iは約400名です。この約800名が同期となるわけです。そして幹部候補生学校で各職種に振り分けられ、卒業後は部隊に配置されて、すぐにそれぞれの職種学校の幹部初級課程に約1年間入校します。
その後5年間部隊等で勤務した後、再び各職種学校の幹部上級課程に約半年間入校します。この課程を卒業すると、幹部学校受験の資格が与えられます。幹部学校は将来の高級幹部を養成する学校です。連隊長、旅団長、師団長、方面総監、陸幕長、その他旅団以上の幕僚長などの高級幹部になるにはまず幹部学校を卒業しなければなりません。
1回の採用数は指揮幕僚課程(CGSと言います)で80名、技術高級課程(TACと言います)で16名です。TACは技術系大学院を卒業していないと受験できませんが、CGSはほとんどの幹部が受験できます(4回まで受験可能ですが、年齢制限があります)。そのためCGSの競争倍率はかなり高くなります。試験は1次試験と2次試験に分かれており、1次試験は筆記試験で、2次試験は面接試験です。これはCGS、TAC共通です。入校するとCGSは2年間、TACは1年間の教育があります。
さて、受験科目ですが、CGSの場合、英語などもありますが、ほとんどが教範類からの出題となります。この教範類が曲者(くせもの)で、冊数も多いのですが、覚えることが山のようにあります。受験生はこれらの教範をほとんど暗記するまで読み込みます。

部隊全員で応援

本気で合格を目指すものは、受験の1年前から準備します。この時期は、20代後半なので仕事に慣れてきて仕事量も急激に増えるころですし、家庭を持っているものは子供がまだ小さく、手がかかるころです。学生の時のように勉強だけしていればいいというわけにもいきません。絶対合格するという強い意志と家庭の理解がないと勉強は続きません。なかには家庭から勉強しないでもっと家庭を見てほしいと言われ、合格を断念する人もいます。
受験生をもつ部隊としては、合格者を出すことが部隊の名誉であるだけでなく、部隊長の評価にもつながるため、積極的に応援します。また、受験勉強は幹部の職務遂行能力向上にも直結するため、集合教育などを実施して教範類や戦術の教育をします。
なかには、休日に模擬試験をして能力判定をするところもあります。休日に行なわれる模擬試験の作成や添削・受験指導はボランティアです。1次試験に合格すると2次試験が待っています。2次試験は面接ですが、これもちゃんと勉強しないと合格しません。指導する側も休日も惜しまずボランティアで模擬面接をします。
私もTAC卒業後はこのボランティアに欠かさず参加してきました。TACの場合はCGSと違って覚える教範がそんなに多くなく、受験勉強もそれほどする必要はないのですが、それでもこんなに勉強したのは大学受験以来でした。

楽しい学生生活

入校すると、楽しい学生生活が待っています。もちろん勉強は大変ですが、新たな同期との絆を深め、将来の夢を語ることができます。いろいろな場所で研修し、さまざまな人と出会い、見識を広めることができるのも魅力です。
卒業後は各部隊などで要職に就き、激務が待っています。ときには責任の重圧に耐えきれなくなったり、困難に直面することがありますが、CGSやTACの同期が救ってくれることがたびたびあります。
私はTACを卒業してさまざまな職務を経験しましたが、幹部学校を出てるか出てないかで、幹部自衛官のキャリアが大きく変わることは間違いないと思います。しかしそれは良いか悪いかではなく、その人の価値観の問題だと思います。私は幹部学校に入校させてくれた陸上自衛隊に感謝しながら定年を迎え、営門を出ることができたことにとても満足しています。
(つづく)
(いしはら・ひろあき)
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【著者紹介】
石原ヒロアキ(ペンネーム)
1958年、宮城県石巻市生まれ。青山学院大学卒業後、陸上自衛隊入隊。
第7化学防護隊長、第101化学防護隊長を歴任。その間地下鉄サリン事件、
福島第1原発災害に出動。2014年退職。学生時代赤塚賞準入選の経験
を活かし、戦争シミュレーション漫画『ブラックプリンセス魔鬼 全10巻』
(電子書籍版)を発売中。『漫画で学ぶサイバー犯罪から身を守る30の
知恵』(ラック サイバー・グリッド・ジャパン・並木書房)の漫画を担当。
家族3人(一女)。本名:米倉宏晃。
『ブラックプリンセス魔鬼』
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『漫画で学ぶサイバー犯罪から身を守る30の知恵』
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※最近「石原ヒロアキまんが館」(URL:http://okigunnji.com/url/97/)
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ここには、化学学校ホームページで掲載中の4コマ漫画
『CBRNロボタマ子さんが行く!!』を毎週1話ずつアップしていきます。
このホームページは部内用なので普通閲覧できませんが、
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掲載しています。ぜひご覧ください。