マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(7)




-------------------------------------




マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(7)

前回までのあらすじ

 

 

本連載は、精確な内容を持つインテリジェンスが
1944年9月上旬に連合軍の指揮官に利用されたか
どうかを考察することにある。実は、インテリジェン
スの内容は、マーケット・ガーデン作戦実行に伴う
リスクを連合軍の指揮官に警告していた。

 

指揮官が決定を下すために利用できるインテリジェ
ンスの情報源は数多く存在していたが、本連載では
「ウルトラ」情報により提供されたインフォメーションに
のみ焦点を当てて考察を進めることとする。第二次
世界大戦を通じて、連合軍の戦略レヴェル・作戦レ
ヴェルの指揮官たちはウルトラ情報を活用し、ウルト
ラ情報の精確性に関してめったに疑いを持たなかっ
たからだ。

 

前々回からマーケット・ガーデン作戦がどのような経
緯をたどったのか?について述べている。前回は作
戦二日目の戦況について述べた。今回は、作戦三日
目以降の戦況をみてみたい。

 

 

米第八十二空挺師団が中心となった九月十九日(D+2日)の作戦

 

攻撃開始から二日後の(D+2日)の九月十九日、
この日の戦闘の大部分は米第八十二空挺師団の
戦区で生起した。

 

この時までに、米第八十二空挺師団はナイメーヘン
にある橋梁を確保できていなかった。そして、いまや、
この橋梁を確保することが米第八十二空挺師団の
主たる作戦目的となった。というのも、ガーデン作戦
を遂行する第三十軍団が、周囲二十マイル圏内で、
渡河可能な唯一の橋はナイメーヘン橋梁しかなく、
同軍団がワール川を渡河するにはこの橋を通過する
しか他に方法が無かったからである。

 

 

ナイメーヘン橋梁奪取のための作戦計画

 

ワール川渡河の作戦計画では、米第八十二空挺師団と
第三十軍団とによる調整のとれた攻撃が要求されてい
た。作戦は、翌日の夜明けとともに開始された。この作
戦は以下の三つの段階から構成されていた。

 

1、ナイメーヘンの町を確保するための米第八十二空挺
師団と第三十軍団とによる協同攻撃
2、ナイメーヘン橋の北端を確保するための第五〇四
パラシュート歩兵連隊による急襲渡河。
3、ナイメーヘン橋を確保するために橋の両端で実施される同時攻撃。

 

 

九月二十日(D+3日)のナイメーヘン橋梁に対する攻撃

 

九月二十日(D+3日)朝、攻撃が作戦計画どおりに開始され
たが、連合軍の攻撃は早くもドイツ軍による頑強な抵抗に遭
遇した。

 

米第八十二空挺師団と第三十軍団は、ドイツ軍の抵抗を排
して、なんとかナイメーヘンの町を確保し橋梁にたどり着くこ
とができた。

 

午後三時、第五百四パラシュート歩兵連隊第三大隊が、
ワール川を渡河し始めた。最初の渡河部隊は大きな損害を
被ったが、対岸に拠点を確保することができた。さらに二つ
の渡河攻撃部隊が川を渡り、第五百四パラシュート歩兵連隊
第三大隊は端の北端を確保することに成功した。

 

午後五時、連合軍は両端から橋を攻撃し始めた。ドイツ軍は
最初のうちは激しく抵抗したが、たちまちのうちに連合軍に圧
倒された。いったん戦勢が防御側から攻撃側に移ると、五百名
以上のドイツ軍がたちまちのうちに殺害された。

 

 

英第一空挺師団、第一空挺軍団と連絡を取ることに成功する

 

九月二十日、英第一空挺師団はナイメーヘン郊外に位置する
第一空挺軍団とついに連絡を取ることに成功した。午後三時
五分、英第一空挺師団長アーカット少将は、師団の状況を次
のように報告している。

 

「橋を攻撃する敵は強力である。第一パラシュート旅団は由々
しき状況にある。敵はヘールスムとアルンヘムの東西両方か
ら攻撃をしかけてきている。・・・・・東西双方の地域で、できる
限り早期の救援が不可欠だ」。

 

その日の午後、ジョン・D・フロスト中佐率いる第一パラシュート旅
団第二パラシュート大隊は、死傷者の多さと軍需品不足を理由に降
伏を強いられた。英国軍はアルンヘムにかかる橋の支配を失い、
二度とそれを奪還することはできなくなったのだ。

 

 

補給に苦しむ第三十軍団

 

九月二十日の午後までに、英第一空挺軍団長・連合空挺軍副司
令官フレデリック・ブラウニング中将は、はじめて、英第一空挺師団
が陥っている深刻な状況を理解した。

 

連合軍はナイメーヘンの橋梁を確保していたが、第三十軍団は
アルンヘムへの前進を継続することができなかった。というのも、
第三十軍団の先頭部隊はナイメーヘンの町を確保するために
一日を通じて激戦を展開したために、軍需品が危機的なまでに
不足していたからである。

 

第三十軍団が増援部隊と補給を得るのに一本の補給路のみに
依存し、ドイツ軍がこの薄い後方連絡線に対し圧力を加え続け
たために、第三十軍団の前進を兵站面で支援し続けることは
益々困難な状況となった。

 

ポーランド旅団の悲劇

 

九月二十一日までに、アルンヘムの状況は危機的なものとなった。
前日の二十日、英第一空挺師団は橋頭堡を喪失していた。輸送機
から投下される師団に対する補給品の多くは、師団の降下地点を
統制下に収めていたドイツ軍の手に渡った。

 

九月二十一日午後五時、ポーランド旅団が川の南に投入された
(川の北側にはイギリス軍が存在した)。しかし、天候不良が原
因で、四十一機以上(一個大隊分)の航空機が基地に引き返さ
ねばならなかった。

 

実際に降下したのはわずか七百五十名で、これらの将兵は地
上に降り立つ前からドイツ軍による攻撃にさらされた。九月二十
一日の夜間から二十二日に亙り、ポーランド旅団は生存のため
の戦闘を展開しなければならない破目になった。

 

九月二十二日夜と二十三日、ポーランド旅団は英第一空挺師団
が確保する円陣に向けて川を渡河した。退却が完了した時に生
存していたのはわずか二百名にすぎなかった。

 

 

英第一空挺師団の撤退作戦

 

この時までに、このままの状態では、英第一空挺師団が全滅する
か降伏して敵の手に落ちるかのどちらかであることが明らかとな
った。しかも、ドイツ軍の抵抗があまりにも激しいため、第三十軍
団が敵陣を突破し救援に駆けつけられないことも明白であった。

 

そのため、アルンヘムからの撤退命令が発令された。九月二十
五日の夜明け前に、空挺師団が川を渡り撤退を開始したが、
夜が明けたために撤退を一時中断した。

 

九月二十五日午後十時、空挺師団は撤退作戦を再開し、動くこと
ができた残りの将兵たちが川を渡り対岸へと撤退した。だが、重傷
を負った将兵は現地に取り残され、撤退する将兵たちのために偽
装攻撃をドイツ軍に対し仕掛けることとなった。彼らは、ドイツ軍に
対し射撃を浴びせると共に、師団司令部が所在することを偽装する
無線通信を行なうことにより撤退部隊の支援に従事した。

 

九月二十六日午前五時五十分までに、二千三百九十八人の将兵
が撤退を完了した。この日の朝、ドイツ軍が攻撃をしかけた時、ドイ
ツ軍将兵は死体と重傷者以外に何人も発見することができなかった。

 

戦闘終了までに、イギリス軍およびポーランド軍は七千二百十二人
の損害(戦死傷者・行方不明者・捕虜の総計)を出した。

 

次回からいよいよ、作戦のインテリジェンス的分析に筆を進めることとする。

 

 

 

 

(以下次号)

 

 

 

(ちょうなん・まさよし)

 

(平成27年4月9日配信)

メルマガ購読・解除
 

関連ページ

第1回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(1)」 平成26年12月11日配信 メールマガジン軍事情報
第2回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(2)」 平成26年12月25日配信 メールマガジン軍事情報
第3回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(3)」 平成27年1月15日配信 メールマガジン軍事情報
第4回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(4)」 平成27年1月29日配信 メールマガジン軍事情報
第5回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(5)」 平成27年2月26日配信 メールマガジン軍事情報
第6回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(6)」 平成27年3月26日配信 メールマガジン軍事情報
第8回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(8)」 平成27年4月23日配信 メールマガジン軍事情報
第9回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(9)」 平成27年5月28日配信 メールマガジン軍事情報
第10回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(10)」 平成27年6月25日配信 メールマガジン軍事情報
第11回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(11)」 平成27年7月30日配信 メールマガジン軍事情報
第12回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(12)」 平成27年8月27日配信 メールマガジン軍事情報
第13回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(13)」 平成27年9月24日配信 メールマガジン軍事情報
第14回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(14)」 平成27年10月29日配信 メールマガジン軍事情報
第15回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(15)」 平成27年11月26日配信 メールマガジン軍事情報
第16回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(16)」 平成27年12月31日配信 メールマガジン軍事情報
第17回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(17)」 平成28年1月28日配信 メールマガジン軍事情報
第18回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(18)」 平成28年2月25日配信 メールマガジン軍事情報
第19回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(19)」 平成28年3月31日配信 メールマガジン軍事情報
第20回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(20)」 平成28年4月28日配信 メールマガジン軍事情報
第21回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(21)」 平成28年5月26日配信 メールマガジン軍事情報
第22回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(22)」 平成28年6月23日配信 メールマガジン軍事情報
第23回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(23)」 平成28年9月29日配信 メールマガジン軍事情報
第24回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(24)」 平成28年10月27日配信 メールマガジン軍事情報
第25回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(25)」 平成28年11月24日配信 メールマガジン軍事情報
第26回
長南政義著 「マーケット・ガーデン作戦とインテリジェンス(26)」 平成29年1月26日配信 メールマガジン軍事情報